第145話:新たな追手

 馬車はそのまま走り続け、街からどんどん離れていく。

 追手も居ないみたいだし、ひとまず安心か。


「ふぅ。もう大丈夫っぽいな」

「とりあえず安全になるまで速度はこのままでいくよ」

「そうか。それにしても助かったよランドール。感謝する」

「いいってことよ」


 あの場面でランドールが来なかったらもっと面倒になってただろうしな。本当に助かった。


「本当に危なかったわ……。何人も追いかけてくるんだもの……」

「怖かったです……」

「むぅ~。あいつらぶっ飛ばせばよかったのに」

「…………」


 1名ほど不満気な表情をしていたが、全員無事でなにより。


「でも何で助けてくれたんだ? ありがたいけど気になる」

「まぁ君達は命の恩人だしね。借りを返したかったんだ。役に立ててよかったよ」

「なるほど」


 ランドールは道端で倒れていたもんな。あのまま放置してたらモンスターに襲われる危険もあった。


「というかどうやって馬車を調達したんだ? こんな急に用意できないと思うんだけど……」

「なーに。いつでも逃げられるように逃走準備をしていただけの話さ。逃げるのには慣れていたからね」

「なるほど……」


 そういや元盗賊だったな。そりゃ手際がいいわけだ。

 日頃からこの手のトラブルには慣れていたんだろうな。


「それより何があったんだ? 街中の衛兵達が君達を探していたみたいだけど……」

「ん? あの騒動の原因が俺達だって知ってたの?」


 ランドールには俺達の目的を話した記憶は無いんだがな。


「いや。何となくそうだと思ったんだ。詳しくは知らないんだよ」

「へ? 何となく? そんな理由で?」

「まぁなんというか。〝カン〟ってやつかな。君達は何かしら事を起こしそうな気がしたんだ。そんな時に衛兵達が誰かを探し回っていたからな。だから真っ先に君達のことが思い浮かんだんだ」


 俺達ってそんなに危ない人達に見えたのかな……?


「そんで用意していたこの馬車ですぐに探してみたんだ」

「そこに俺達を見つけたと?」

「そういうことだ」


 ランドールのカンに救われたってわけか。

 何れにしろ、助けられたことには変わりない。ランドールには感謝しかない。


「まぁ言いたくないなら詳しい事情は聞かないさ。単に気になっただけだしな」

「そうか。そうしてくれると助かる」

「じゃあこのまま他の街まで――」

「! あ、あれ見て! 追ってくるわよ!」

「ッ!?」


 ラピスの視線の先には、馬に乗った兵士達がこっちむかって追いかけてくる光景があった。


「ど、どうしよう……」

「お、追い付いてきますよ!?」

「くそっ! やっぱり追ってきたか! すんなり見逃してくれるほど甘くはなかったか!」


 馬に乗った兵士が次々と姿を現してくる。全員が俺達に追いつこうと全速力で向かってきている。

 これはまずいかもしれん。


「ダメだ……! このままだと追い付かれる!」

「もっとスピード上げられないのか!?」

「無茶言うな! こっちは馬車だぞ! 馬単体のほうが早いに決まってる!」

「追い付かれるのも時間の問題か……」


 向こうは複数居るし、馬がある限り追手が増えるだろう。

 このままだとすぐに追い付かれる。けどいちいち相手していたらキリがない。

 どうする……?


「…………そうだ」


 前方を見つめていると、行く先の道が少し細くなっていることに気づく。

 それを見てあることを思いついた。


「仕方ない。俺がやる」

「ど、どうするのよ!?」

「殿を用意する!」


 すぐに詠唱を開始。

 そして現れたのは……


「《召喚》! 来い! ダイナ!」


 現れたのは巨大サソリことダイナだ。


「ダイナ! 追手を来させないようにしてくれ! 頼んだぞ!」


 ダイナはすぐに動き、道を塞ぐような位置で立ち止まった。

 それを見た兵士はさすがに驚いているようだ。


「!? な、なんだ!? 急にモンスターが湧いてきたぞ!?」

「落ち着け! ただの召喚スキルで呼び出したモンスターだ! 排除すればいい!」

「ぐはっ……こいつ強いぞ! 注意しろ!」

「ぎゃあああ!」


 ダイナが兵士達を防いでいる光景を見つつ、俺達は離れていった。




 しばらく馬車で走り続けていたが、追手が来ないことを確認できたのでスピードを落としている。

 さすがにずっと走り続けるのは無理があるしな。


「とりあえず一安心かな」

「ね、ねぇ。ゼストが呼び出したモンスター……ダイナだっけ、置いてきちゃったけど大丈夫なの?」

「ん? ああ心配要らないよ。自身が召喚したモンスターはいつでも手元に呼び戻せるんだ。とはいってもこの距離なら自分の足で戻ってこれそうだけど」

「そ、そうなのね……」


 道の真ん中で立ち塞がるようにしていたからな。あれなら当分は追ってこられないだろう。


「さすがにもう追ってこないわよね……?」

「なら私が見張っておくね。何か見えたらすぐに知らせます」

「頼んだ」


 ひとまずこっちは一区切りついた。

 問題は……


「さて……リリィ。詳しく聞かせてもらおうか」

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