第141話:☆国王の企み

 王宮のとある一室。そこにこの国の国王であるギルバートが入ってきた。

 ここは国王が私室として使用している部屋であり、周囲には作業するための資料などが置かれている。

 ギルバートは部屋に入ると、テーブル近くの豪華な椅子に座って一息ついた。


「しかしあの新人メイドの胸……本当に大きかったな。頭もゆるそうだし、余が一から手解きするのも悪くなかったな。シシシ……」


 1人部屋の中で笑うギルバート。自分しかいない空間なせいか、リラックスしていて椅子に深く座っていた。

 そんな時だった。


 コンコン


「ん? 誰だ?」

「私です。ゾルでございます」


 ドアからノック音がした後に、外から男の声が聞こえてきた。


「ああ、お前か。入れ」

「はっ。失礼します」


 ドアを開けて入ってきたのは、身なりのよい中年の男だった。

 男はゾルと名乗っており、ギルバートが信用する数少ない側近の1人である。

 ゾルは部屋の中に入ると、テーブルを挟んでギルバートの近くまで移動した。


「どうした。何用だ?」

「陛下にご報告したい情報があり、急いで参上した次第でございます」

「ほう。それは気になるな。話してみろ」

「はっ」


 ゾルはギルバートの近くまで寄り、周囲に聞かれぬように警戒するかのように小声で話した。


「例の盗賊集団が作製中の古代兵器ですが、完成間近とのことです」

「……おお! それは真か!?」

「はい。潜入させている者からの報告です。間違いないかと」

「そうかそうか……シシシ……!」


 ギルバートの表情は、リリィの胸を見た時以上の笑顔であった。


「これで予定通りに事が進む。やはり余は幸運に恵まれておる! 楽しみがまた増えたわい!」

「先ほども嬉しそうにしていましたが、何かあったんですか?」

「いやこっちの話だ。貴様には関係ないことだ」

「そうですか」


 ギルバートが嬉しそうにする理由が気になったが、ゾルはそれ以上詮索しようとはしなかった。


「しかし本当によろしかったのですか? 盗賊ごときに古代兵器を渡すような行為をするなんて……」

「なーに。構わんよ。賊は賊。所詮は暴れるしか脳が無い連中よ」

「裏切る可能性だってあります。万が一、この王都が標的にでもなったら危険に陥るかもしれませんよ?」


 心配そうにするゾルだったが、ギルバートは気にした様子は無い。


「その為にネズミ・・・を何人か忍び込ませているんだろうが。それとも頼りないネズミ共なのか?」

「いえ。私が慎重に選び抜いたエリート達です。彼らはいずれもAランク相当の実力の持ち主ですから、盗賊程度に負けるほど弱くありません。例え複数人相手でも、1人で全員倒せる程度には頼りになります」

「そうだろう。ならば心配は要らぬ。歯向かってこようものなら皆殺しにすればいいだけだ。賊が何人死のうが全く困らんからな」


 もっと他にも懸念する点はあると思っているゾルだったが、自信を持って頼れると言ってしまった以上、これ以上余計なことを口にするのは避けることにした。


「これで戦争の準備が整ったというわけだ。今に見ていろよ。散々チビだの小国だと馬鹿にした連中め、後悔させてやるからな!」


 ゾルの記憶ではそのように馬鹿にした人は居なかったはずである。少なくともゾルが聞いた覚えのない罵倒だった。

 もしかしたらギルバートの被害妄想なのかと思ったが、さすがに口にすることは無かった。


「ですがもし戦争を引き起こすとなると、後々厄介になるのでは? 我が国の兵力だと少々心もとないかと……」

「何を勘違いしているのだ。。エンペラーという盗賊集団が勝手に暴れるだけだ。リヒベル国は関係ないではないか」


 ギルバートの言葉の意味を察するゾル。

 だがそれと同時にいくつか疑問が沸いた。


「し、しかし、本当に上手くいくのでしょうか? 奴らは大した実力も無い盗賊集団。規模はかなりのものですが、それでも数が足りません。特に国相手となると圧倒的に戦力が不足していると思うのですが……」

「その為の古代兵器だ。それさえあればどんな国だろうが敵じゃない。伝承によると、破壊神をも退けた破壊力らしいからな」

「言い伝えではそうですけど……」


 破壊神というのは、遥か昔に現れたと言われる最悪の生物。地上のどんな生物も敵わなず、全人類が協力して討伐に挑んだ。

 そんな相手に対抗する為に作られたのが『古代兵器』という存在である。古代兵器をなどを駆使し、ようやく破壊神を撃ち滅ぼした。


 ギルバートの知識ではこうなっていた。ゾルもほぼ一緒の知識であった。


「なら問題あるまい。賊程度の頭でも兵器を扱う程度ならできるはずだ」

「ですが先ほども申しましたが、古代兵器を使用しても勝てる保証はありません。そもそも古代兵器の性能自体が未知数ですので、不安要素は多いかと……」

「勝利に固執する必要はあるまい。負けたら負けたでそれまでの連中だったということだけだ。できれば勝ってほしいがな」

「なっ……」


 予想外の言葉に驚きを隠せないゾル。

 そんなゾルの様子を知らずにギルバートは続ける。


「もしエンペラーが他国の侵略に成功したら、その時は連中ごと乗っ取ればいい。逆に負けて全滅するなら、厄介な大規模盗賊集団が居なくなるだけ。どっちに転んでもこの国の利になるだけだ」

「…………」

「自分の手を一切汚さずに戦争ができるんだ。名案だろう? これを思いついた時は我ながら自分の発想に感動したものよ。天才の発想というのはこのようなことを言うんだろうな。シシシ……」


 エンペラーが勝とうが負けようがリヒベル国にとっては得しかない。これこそがギルバートが想定する策略であった。

 そんな話を聞いたゾルは、一番の問題点に気がつく。


「仮に上手くいったとしても、リヒベル国だけが狙われないとなると他国から怪しまれるのでは? エンペラーがどのような結果を出そうとも、これだけは避けられないと思いますが」


 エンペラーはリヒベル国以外を狙って侵略していく。そういう想定だった。

 しかしエンペラーの拠点は、実はリヒベル国に存在するのだ。つまり一番近い王都はこのリヒベルなのである。

 そうなると当然、エンペラーが最初に狙うべき標的は王都リヒベルということになる。


 だが一番近いリヒベルを避けて他国へ攻撃するとなると、かなり不自然な動きとなってしまう。誰から見ても意図的に避けているとしか思えない行動だ。

 これではリヒベル国がエンペラーと同盟を組んでいると疑われるのは容易に想像できる。

 ゾルの懸念点はそこにあった。


「案ずるな。そこでリーズの出番というわけよ」

「例の子ですか。しかし私には王族だとは思えないんですが。本当にマース様と血の繋がりはあるんでしょうか?」

「恐らくあの愚弟の子のはずだ。目元が似ているからな。奴がセレスティア方面に逃げたという情報を元に捜索したから可能性は高い。実にいいタイミングで見つかってくれたものよ」


 それでも本当に王族なのか懐疑的なゾル。断定するにはあまりにも証拠不足だからだ。


「だが本物かどうかなど関係ない。本物のほうが信憑性が増すからやりやすくなるだけだ。偽物だろうが利用価値はある」


 ギルバートはリーズが居る部屋に向けて不気味に笑った。


「さぁ。存分に役に立ってもらうぞ、リーズ……シシシ……」

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