第139話:☆メイドのリリィ④

 翌日。

 リリィは朝早くからメイド服になり、再び庭掃除を命じられて仕事をこなしていた。

 その間にも何とかしてリーズに会える方法を考えていたが、未だにいい案が思いつかないでいた。


「どうやったら会えるんだろう……」


 リリィとしてはリーズと少し会話さえできればいい。わずかにでも情報が手に入ればゼストの役に立てると思っていた。

 しかし現状では会う事すら困難な状況であった。


「せめて……あの部屋に入れたらなぁ……」


 リーズが居る部屋の前には2人の兵士が立っている。不用意に近づけば警戒されるのは間違いないだろう。

 入れるチャンスは限られていて、リリィ1人だけだとまず無理だろう。他に誰か協力してくれる人が居ない限り、あのドアが開かれることは無い。

 唯一の頼めそうな人はメイド長であるが、昨日の態度を見る限り入れてもらえる可能性は限りなく低かった。

 現状はリリィ1人だけであり、八方塞がりの状態だった。


 あれこれと悩んでいる時だった。

 掃除中のリリィにメイド長が声をかけてきたのだ。


「リリィさん。ちょっとよろしいですか?」

「………………え? な、なんだ?」

「アナタは力には自信があるとおっしゃっていましたね?」

「うん。どんな奴だってぶっ飛ばせる自信があるぞ!」

「別にそんなことする必要はないんですが……それよりも、リリィさんの相応しい仕事があります。一緒についてきてくれませんか?」

「でもまだ掃除終わってないぞ」

「それは後回しで構いません。こちらの仕事が終わってからにしてください」

「分かった」


 リリィはホウキを元にあった場所に戻し、メイド長に付いていくことにした。

 メイド長の後に付いていくと、あることに気づく。


「あれ? この階段って近づくなって言われた所だったような」


 メイド長の先には、昨日案内された階段があった。


「それは理由も無く登ることは控えるようにと伝えただけです。今回は仕事として訪れるので問題ありません」

「そうだったんだ」

「では行きますよ」


 メイド長の後に続いてリリィも階段を登り始める。登り終えると、メイド長はとある一室に向かった。

 その部屋に入ると、中にはいくつもの木箱が積まれていた。


「これらの木箱を下の階に運んでもらいます。階段を使用するので台車が使えません。そこでリリィさんの出番というわけです」

「これくらいなら何個でも運べるぞ。任せろ!」

「私も手伝いますのでお願いします」


 メイド長は近くの木箱を両手で持って持ち上げた。


「……ッ! 意外と重いですねこれ。リリィさん大丈夫で――」


 リリィの方を見て言葉を失うメイド長。

 そこには信じられない光景があったからだ。


「ん? どうしたんだ?」

「リリィさん……よくそんなに持てますね……。3つも積み上げて持ち上げるなんて……」

「だから力には自信あるんだって。もっといけそうだけど、これ以上は崩れそうで怖かったからやめたんだ」

「そ、そうですか。頼もしい限りです」


 持っている木箱は決して軽い物ではない。それはメイド長自身が持っている木箱で証明済みだった。

 中身は多少の差は有れど、基本的にはどれも似たような重量をしている。それを3つも同時に持ち上げたリリィには驚嘆するほか無かった。


「これなら早めに終わりそうですね。それでは持っていく先の部屋に行きますよ」


 メイド長が先導してリリィもその後に続く。階段を降りて順調に進み、危なげなく目的の部屋へと到達することができた。

 2人は木箱を指定された場所へ降ろし、一息ついた。


「ふぅ。一度にこの量を運べるなら、あと2、3回往復すれば終わりそうですね。リリィさんは大丈夫ですか?」

「まだまだ全然平気。このくらいなら何往復でもいけるぞ!」

「この荷物に関してはそこまでの量は無いんですが……。まぁその内他の力仕事が回ってくると思うので、またその時にお願いしますね」

「うん」

「では戻りましょうか」


 その場から離れて階段を登り、木箱が積まれた部屋へと戻ろうとした時だった。

 通路を歩いていると、遠くから背が低めの男が歩いて来るのを発見した。それ見てメイド長はすぐに壁際に寄った。


「? どうしたの?」

「リリィさんも同じようにしてください。あの御方の邪魔にならないようにするのが礼儀です」

「そんなに邪魔なのかな?」


 通路は十分に広く、3人が横に並んでも十分に通れそうなほど余裕があった。このまますれ違ってもお互いの肩が接触することはまず無いだろう。そう思えるほどに広い。

 しかしメイド長は壁際に寄り、頭を少し下げて男が通過するのを待っている状態だった。


「そういえばまだ伝え忘れていましたね。リリィさんもメイドとして働くなら必ず覚えておいてください。国王陛下がお通りになる際には、私達はこうするようにしてください」

「え…………国王……?」


 リリィは近づいて来る人物が国王だと初めて知る。

 しかし驚きはあまりなく、納得がいかない表情をしていた。


「なんかあまり強そうに見えないんだけど……」

「そんなことはどうでもいいでしょう! いいから早く! 細かいことは後で教えますから、すぐに私の真似をしてください!」

「う、うん……」


 困惑しながらも、メイド長と同じように壁際に寄って頭を下げた。

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