第138話:☆メイドのリリィ③

「ではリリィさんにはこちらの庭を掃除して頂きます。掃除道具はあちらにあるので必要に応じて使用してください」


 メイド長の視線の先には広い庭があった。手入れされただろう植物も多く配置されていて、眺めているだけで安らぎを感じられる光景だった。

 既に数名のメイドがあちこちで作業をしていて、忙しそうに動いていた。


「ここ全部掃除するのか?」

「全てではありませんが、可能な限り綺麗にしてください。それが私達の仕事ですから」

「でもこんなに広いとアタシだけだと時間が足りないと思う……」

「一日で完璧に掃除する必要はありません。誰が見ても不快にならない程度の景色を維持するのが目的です。こういうのは毎日の積み重ねが大事なのです」

「ふ~ん……」


 リリィからしてみたら十分綺麗に思えるほどに手入れされている。パッと見程度ならゴミは落ちてないように感じる。

 これ以上綺麗にする必要は無いと思ったリリィは、どこから手をつけたらいいか悩んでいた。


「さて。私は他の仕事が残っていますので離れますね」

「え? ずっと教えてくれるんじゃないのか?」

「常に側に居られるほど暇ではありません。私にもやるべき仕事があるんです。それにこの程度なら教えるまでもないでしょう?」

「う、うん。掃除ぐらいならできるし」

「しばらくは仕事の雰囲気に慣れることから始めます。新しい仕事があればその都度教えますから安心してください」

「分かった」

「では後は任せましたよ。分からないことがあれば他のメイド達に聞いてください」


 そういってメイド長はこの場から離れて姿が見えなくなった。

 本当ならすぐにでもリーズと会って色々と聞き出したい。その情報を持ち帰ってゼストの役に立ちたい。

 そう思うリリィだったが、現状ではその手段を思いつくことはできなかった。


「…………掃除しようかな」


 仕方なく言われた仕事をこなすことにした。

 残されたリリィは自分の周囲を見回し、少し離れた所にホウキがあるのを発見した。


「あれでここらを掃けばいいのかな。よーし」


 ホウキを手に取り、ゴミがありそうな個所を掃き始めた。


 しばらく掃除に専念していると、離れた所にバケツを持ったメイドが歩ているのを発見した。


「うん……っしょ、…………よい……っしょ……っと」


 そのメイドは水の入ったバケツを両手で持っていて、重そうに歩いていた。

 零れないようにしているためか速度は遅く、ヨタヨタと歩いていて危なっかしい様子だった。

 そんな光景を目撃したリリィは、そのメイドのすぐ側まで近寄った。


「それ、代わりにアタシが持とうか?」

「えっ!? こ、このバケツをですか? たしか……リリィさんでしたっけ? これすごく重いですよ?」

「大丈夫だって。力なら自信あるし。それぐらいなら簡単に運べるぞ」

「それなら……お願いしていいですか?」

「おう! 任せろ!」


 メイドからバケツを片手で手に取るリリィ。


「…………!! す、すごい……。あの重いバケツを片手で持つなんて……」

「これはどこに運べばいいんだ?」

「あ、えっと……あの小屋の近くまでお願いします」

「分かった!」


 リリィは言われた場所に向かって歩き出す。メイドもそんな姿を眺めていたが、すぐに我に返って一緒に歩き出した。

 2人が一緒に歩いていると、離れた所に男の兵士が数人居る場所にやってきた。

 その内の1人の兵士がリリィを見て驚く。


「お、おい……見ろよあのメイド……」

「ん? どうしたんだ急に」

「あそこにいるメイドだよ。片方の角がある方を見てみろよ」


 男がリリィの居る方向を見ると、それに釣られて他の男達もその方向に向いた。


「……!? な、なんだあのデカいおっぱいは!? あんなの居たか!?」

「新しく入ったメイドじゃね? まだ募集してたからな」


 男達は作業していた手を止めて、集まってヒソヒソと話し始めた。


「すげぇ……あんなデケェおっぱいは初めて見たわ……」

「娼館でもあんなサイズの子は見ないぞ。なんつー大きさだよ……」

「まさか詰め物でもしてるのか? あんな大きさはありえねぇだろ」

「いやいや。あの揺れっぷりは本物だろ。偽物だったらあんなに揺れないって」

「何を食ったらあんなに成長するんだろう……?」

「挟まれてぇ……」

「いやぁ、雇った人に感謝だな。目の保養になるぜ……へへっ」


 そんな男達の会話に対し、周囲のメイド達は冷ややかな目で見ていた。

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