第137話:☆メイドのリリィ②
リリィが部屋の方を向いている間にもメイド長は言葉を続けた。
「リーズ様がこちらにやって来てからまだ日が浅く、心身共に不安定でいらっしゃいます。なのであまり刺激を与えないようにする為に、極一部の方しか面会を許可されていません」
「………………」
「ですので、リリィさんがこの場所でやる仕事は基本的にありませんし、近づく必要もありません。そもそもこの階に上がることも無いと思います。なので今後はこの場所に近づかないようにしてくださいね」
「………………」
リリィはドアの前に立っている2人の兵士を見つめていた。
部屋の中に入るにはあの兵士達を何とかする必要がある。リリィの実力ならば、兵士を倒して突破することは可能であろう。
しかしゼストから騒ぎを起こすなと言われている以上、そういった手段を取るわけにはいかなかった。
「リリィさん? どうかしましたか?」
「…………な、何でもない」
「そうですか。では行きますよ。仕事場まで案内します」
メイド長の後を付いていくリリィは、しばらく考え込んでいた。
そしてあることを閃いて話しかけた。
「な、なぁ。リーズって人に会うことはできないのか?」
「先ほどの話を聞いていましたか? 現状では極一部の方しか面会を許されていませんよ」
「そっか…………」
だがリリィは諦めずに次の質問をした。
「じゃあリーズと会える人って誰なんだ?」
「国王様を除けば、宰相ぐらいですかね。一応、私も会えますけど。何回か部屋の清掃をするために中に入りましたから」
「……!?」
そう。メイド長が言った『極一部』の中にはメイド長も含まれていたのだ。
リーズの手掛かりがこんなにも身近の居たことに驚くリリィ。興奮を抑えきれずにすぐに声を出した。
「ア、アタシも一緒に掃除を手伝うことってできないか!?」
「……さっきからどうしたんですか。そんなにリーズ様のことが気になるんですか?」
「う、うん」
「先ほども言いましたけど、リーズ様はまだ王宮に不慣れで刺激したくないとのお達しです。面会が制限されているのも国王様のご命令ですよ。私は部屋清掃のために、特別に許可されているだけです」
「…………」
「私以外のメイドも許可されていません。ましてや今日雇われたばかりのアナタが許可されるわけが無いでしょう。それ以前に、メイドとしての働き方を知らない状態でどうやって手伝えるというんです?」
言い返せない正論に黙ってしまうリリィ。
何とかしてリーズの情報を掴みたいと踏み込んでみたものの、現状ではどうにもならないことに落ち込んでしまった。
「誰かに貢献したいというその志は立派です。しかしまず仕事をこなせるようになるのが先です。分かりましたね?」
「うん…………」
「では仕事場に行きますよ。付いてきてください」
メイド長が歩き出すが、その後を付いていくリリィの足取りは重かった。
せっかくここまで来たのに、しかもリーズのことを知っている張本人が目の前に居るのに、何もできない自分を悔やむリリィ。
何とかしてゼストの役に立ちたい。そう決心してメイドになったものの、未だに有力な情報はほぼ無いに等しい状態だった。
だが何とかできないかと必死に頭を働かせて知恵を捻りだす。普段は脳筋思考なせいか不得意なことであったが、それでも必死に脳をフル回転させていた。
しかし、今のリリィでは何も思いつくことは無かった。
何も思いつかず諦めかけていた時、ふとあることが気になった。
リリィは深く考えずにそれを聞くことにした。
「あのさ。リーズってどんな姿をしてるんだ?」
「どうしたんですか急に。まだ気になるんですか?」
「だって、アタシは会ったことないからさ。どんな見た目してるか知りたくて……」
「ふぅ……。これが最後ですよ。さすがにこれ以上は答えませんからね」
「うん。もう聞かないからさ。これだけ教えて欲しいんだ」
「分かりました。そうですねぇ……」
メイド長は困った表情で悩み始めるが、なかなか答えられずにいた。
「? そんなに言い難いことなのか?」
「いえ、そうでは無いんですよ。あまり特徴があるような方ではないので、どのように表現すればいいのか迷っているだけです」
「じゃあ見たままの感想でいいからさ。教えて欲しいんだ」
「一言で言うならば、可愛くて美人になりそうな子……といったところでしょうか」
「そっか……」
「そもそも私は清掃に専念しているので、じっくり見たりしないんですよ。ジロジロ見つめると失礼にあたるので」
あまりにも曖昧すぎる回答で、これといった役に立ちそうな情報は出てくることは無かった。
リリィは諦めてこの場で聞き出すことは止めることにした。
だが再び歩き出そうと思った時だった。
「私からしてみれば、リーズ様は『鳥かごから出られない小鳥』といった感じですけどね」
小さく呟いたメイド長の声がリリィの耳の入ったのだ。
「……? 鳥でも飼ってるの?」
「…………いえ。何でもありません。忘れてください」
気になる内容だったが、深く考えることは無かった。
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