第136話:☆メイドのリリィ①

 時は少し巻き戻る。


 ここは王宮のとある一室。その中に2人のメイドが立っている。

 1人は40代ぐらいの女性。背筋がピンと伸びていて、メイドとして理想的といえる綺麗な姿勢を保っている。

 もう片方は誰もが目を惹きそうな大きな胸をした竜人族……リリィである。


「アナタが今日入ったばかりの新人ですね。お名前は?」

「アタシはリリィだ!」

「リリィさんですね。私はこの王宮のメイド長及び、新人の教育を任されているメリルと申します。以降はメイド長と呼ぶようにしてください」

「分かった! よろしくなメイド長!」


 リリィの言葉遣いに、眉間にシワが寄るメイド長。


「リリィさん。私達はメイドとして働く以上、言葉遣いには気を付けて欲しいのですが……」

「コトバヅカイ? よく分かんないけどアタシはいつもこうだぞ」

「………………」


 さらに眉間のシワが増すメイド長。


「…………一応お聞きますが、接客業として働いた経験はありますか?」

「うーん。やったことないかな。とーちゃんの手伝いとかはしてたけど」

「………………アナタは何故メイドとして働こうと思ったのですか?」

「役に立ちたいから!」

「そうですか……」


 リリィが言った役に立ちたい相手とはゼストのことであったのだが、メイド長はそこまで見抜くことはできなかった。

 メイドとして働くことで貢献をしたい、他の人達の手助けをしたい。そう勘違いしてしまったのだ。

 だがここまで言葉遣いが壊滅的だと接客には向かない。かといって教え込んでもすぐに直せるとも思えない。それに時間も足りない。

 少し悩んだ後、リリィの処遇について結論を出した。


「しかしこのままでは人前には出せませんね。当分の間は裏方で雑用をこなしてもらいます。力仕事が多くなりますがよろしいですね?」

「力仕事なら任せろ! パワーなら自信があるから!」

「よろしい。では一緒に働くメイド達にご挨拶に向かいます。その後は王宮内を人通り案内しますので覚えてくださいね」

「分かった!」


 こうしてメイド長と一緒にメイド全員と顔合わせに向かうリリィであった。

 メイド長の後ろを歩いているリリィは、自分の胸元が気になったのが不満げに呟く。


「ん~。胸が少し苦しいんだけど、もっと大きい服無い?」

「それが一番大きいサイズです。それ以上の物となるとオーダーメイドするしかありません。しばらくはそれで我慢してください」

「う~ん……まぁいっか。これくらいなら何とかなるかな。たぶん」


 何故こんなに接客に向かない人を雇ったのか不思議に思ったが、リリィの容姿を見てすぐに察してしまうメイド長であった。


 メイド長はとある部屋にメイド全員を集め、そこでリリィを挨拶することになった。

 集まったメイド達の誰もがリリィの胸元に一瞬目を奪われた。同性であっても思わず見てしまうほどの迫力であった。


 挨拶が終わるとすぐに解散となり、メイド長はリリィを連れて部屋から出ることになった。


「これからそれぞれの部屋を案内します。広くて迷いやすいので、なるべく早く部屋の場所を覚えるようにしてください」

「が、がんばる!」

「では行きますよ」


 こうして先行するメイド長の後を付いていき、建物内の場所を案内されることになった。

 こういったことは苦手なリリィであったが、必死に覚えようと努力していた。


 そろそろ案内し終わったと思った時だった。

 メイド長が階段を見つめて止まったのだ。


「ここから大事な事を伝えます。ここで働く以上は必ず覚えてもらいます。よく聞いてください」

「? 何のこと?」

「最後に重要な場所に行きます。行く機会はあまりないと思いますが、大事なことなのでしっかり覚えておいてください」

「う、うん」


 リリィは困惑しながらもメイド長の後に付いていった。

 階段を登って進むと、遠くに大きなドアがあるのを目にする。


「リリィさんがこの階に来ることは殆ど無いとは思います。しかしメイドとして働く以上、いつかは訪れるかもしれません。なのでよく覚えておいてください」

「わ、分かった」

「この場所には基本的に近づかないようにしてください。特にあの部屋に近づくことは禁止にします」


 そういって顔をドアの方に向ける。

 部屋の前には2人の兵士が居て、ドアを護るように配置されていた。


「あそこに何かあるのか?」

「あちらの部屋にはリーズ様がいらっしゃいます。リーズ様のことは既にご存じですよね?」

「……! リーズ……!」


 名前を聞いた途端、リリィは驚いてドアの方に向いた。

 ゼストが探している子。その目的の人物が目と鼻の先にいるかもしれない。

 そんな状況にリリィは高揚を抑えきれずにいた。

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