第135話:発想の転換

「前提が間違っていたって……ど、どういうこと?」


 そうか。なぜ今まで気が付かなかったんだろう。


「リーズが王族だという前提が間違ってたんだ。王族だからとか特別な存在だから連れていかれたんじゃなくて、そもそも誰でもよかったんじゃないか?」

「ええええ!? 王族じゃなかったってこと!?」

「王族が発見されたから連れて帰ったわけじゃなくて、連れて行った子を王族として扱ったんじゃないかな。つまり欲しかったのは『王族としてのリーズ』じゃなくて、『王族の子』という存在だと思うんだ」

「それって、リーズさんは運悪く選ばれてしまっただけということですか?」

「そうなるな」


 選ばれた理由は見た目が可愛かったからとかそんな理由だろう。仮にも王族として扱うんだから、少しでも顔立ちが整ってるほうがいいはずだ。

 王族だと判別する必要が無いんだから見た目だけで選べばいい。判別する方法なんてそもそも不要だったんだ。


「で、でもそんなことってあるの!? 王族でもない子を連れ去ったってことでしょ? 信じられないわ……」

「だけどこの仮説なら色々と納得できるんだよ」


 他国の子を選んだ理由。それは顔見知りを避けたかったからだ。

 国内の孤児院だと顔見知りがいるかもしれない。万が一にもそれは避けたかったた。だからわざわざ他国の孤児院までやってきたわけだ。


 そして大々的に公表することによって、国民にリーズが王族だという認識を植え付けたわけだ。

 王都にいる国民は怪しむかもしれないが、他国からしてみればそんなの関係ない。国王が王族だと発表したんだからそれを信じるしかない。

 というか、マースに子がいること自体が怪しかった。酒場のおっさんも公表されるまで存在を知らなかったみたいだしな。


「そもそもの話、発見までの経緯が既におかしいんだよ。国もセレスティア以外にもあるんだぞ。なのにピンポイントでセレスティアの、しかも孤児院に居る子を探し当てたなんて無理がある。そんな都合よくいくわけがない。話が出来すぎだ」

「なるほどね。どうやって探したのか気になってたんだけど、そもそも探してすらいなかったわけね。てっきり人を探せるスキルか道具みたいのを使ったと思ってたわ」

「そんなものは無い。似たようなアイテムはあるが、会ったことすらない人の元へ行けるほど便利じゃない」


 それこそ某猫型ロボットの道具でも無い限りは発見することは不可能だろう。


「でもゼストさんの言う事が本当だとしたら、何故ここまで手間かけて王族だと公表したんでしょうか?」

「そこなんだよなぁ……」


 結局のところ、これが一番の謎だ。偽者を用意してまで王族に仕立て上げるメリットが分からん。

 嘘だとバレたら非難が殺到されるのが目に見えてる。リスクリターンが釣り合ってないように思える。


 今の国王は不人気みたいだし、そのことは本人の耳にも入っているはず。なら人気稼ぎのためのパフォーマンスか?

 いや、さすがに回りくどすぎるな。そんなことするぐらいなら減税でもしたほうが手っ取り早い。


 じゃあなんでこんなことしたんだ?

 仮に本物の王族だったとしても、わざわざ他国まで探しに来たことには変わりない。つまりそれぐらいやる価値はあると判断されたわけだ。


「それだけはいくら考えても分かんないんだよな。今の情報だけだと判断材料が少なすぎる」

「そうですよね……」

「でもこれ以上の新しい情報を聞くのは難しいと思うわよ。どの人も同じようなことしか言ってなかったし」

「だよな……」


 酒場のおっさんもそう言ってたしな。

 俺達だけだとここらが限界かもしれんな。


「とすれば……一番可能性があるのはリリィさんでしょうね……」

「そうよね……」

「リリィか……」


 王宮内部なら国民でも知らない情報が聞けるかもしれない。

 やはりリリィに賭けるしかないのか。


「とりあえず今日はもう休もう。明日にまた聞き込みしてダメだったら別の方法を探すよ」

「そうね。さすがに疲れたわ」


 こうして話は終わり、宿で夜を過ごすことになった。




 翌日。

 俺達は宿を出て街中を歩いていた。


「今日は別の場所で聞き込みしてみるか。まだ全部回ったわけじゃないしな」

「そうね。じゃあ昨日と同じで二手に分かれましょ」

「では私達は向こうを…………あれ?」


 そんな時だった。数人の衛兵達が街中を走っている姿が見えたのだ。


「なんなのあれ。みんな慌ただしく走ってるみたいだけど……」

「周りの人も驚いてますね」

「ランニングには見えないし、何なんだろうな」


 衛兵達は周囲を見回しながら走り続けている。

 街の人達も困惑した表情でそんな光景を眺めていた。


「何かを探しているようにも見えるな」

「確かにそういう雰囲気がありますね」

「あんなに必死になるぐらい大事なものを探してるってこと?」

「もしくは犯罪者でも現れたかもしれん。それなら必死に探すのもうなずける」


 一般人じゃなくて衛兵が動ているからな。しかも複数人。

 絶対に捕まえてやるという気迫が伝わってくる。


「犯罪者って……そんなのが逃げ回って街中に紛れ込んでるってこと……?」

「単にそう思っただけだよ。根拠も無いし間違ってるかもしれない。真に受けなくてもいいぞ」

「なら何があったんでしょうか……?」

「俺に聞かれても困るよ。こっちが知りたい」


 仮に犯罪者を追っているとすると誰なんだろう。あそこまで必死になるんだから盗んだ程度の犯罪ではないはずだ。

 盗むと言えば、昨日会ったあの元盗賊を思い出した。


 まさか追っている相手はランドールのことなのか……?

 元とはいえ盗賊だったことには変わりないし、追われていても不思議じゃない。エンペラーという有名な連中に居たんだから、賞金首になっていた可能性もある。

 運悪く衛兵に発見されて追われている……といったところだろうか。


 ま。いずれにしろ俺達には関係ないことだ。盗賊団にいたのは事実だし、こうなることも想定済みだったはずだ。

 無事に逃げ切れることを祈ってやることぐらいはしてやろう。


 そんな時だった。

 近くに居た人が気になることを喋り始めた。


「おいおい……なんじゃありゃ。どうしてあんなに走り回ってるんだ?」

「さっき耳にしたんだけどさ……」


 その人から驚愕の話を耳にすることになる。


 衛兵達の目的を知ることになるのだが、俺が予想してたことは一部的中していた。


 しかしあまりにも衝撃的すぎて、俺達はその場で立ち尽くすことになった。


 その内容は――


「王宮に居たメイドが例の王族をさらって逃げたらしいぞ」


 …………………………………………は?

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