第134話:思索

 酒場を出た後も他の人に聞き込みをしていた。

 しかしこれといって目ぼしい情報は得られなかった。酒場のおっさんから聞けた以上のことは聞けなかったからだ。

 どの人も似たような内容しか話してくれなかった。


 日が暮れてきたので、今日は以上の聞き込みはやめることにした。

 宿屋に戻るとラピスとフィーネは既に戻ってきていた。


「あっ。戻ってきたのね」

「おかえりなさいです。どうでした?」

「色々と聞けたけど、リーズのことはレオンさんが話してくれたこと以上の情報は無かったかな」

「そうですか……」

「そっちはどうだった?」

「たぶん……ゼストが既に知ってる内容ばかりだと思うわ……」

「そっか……」


 少し期待したけどやはり難しかったか。


「一応お互いに得られた情報を言い合ってみないか。もしかしたら俺の知らないこともあるかもしれん」

「そうね。あたしも色々聞けたしね」

「なら私が話しますね。ずっとお姉ちゃんの隣で聞いてましたから」

「お願いね」


 そしてフィーネは街の人から聞けた情報を話してくれた。

 しかしやっぱり言うか、全て知っている内容だった。


「…………そっちもリーズの姿をしっかり見た人は居なかったわけか」

「そうですね。遠くからでしか見れなかったことが原因だと思います。王族ということもあって、護衛も多くて近づけなかったみたいです」

「仕方ないか。せっかく見つかったのにまた危険に晒すわけにはいかないしな」


 となると、街の人達からリーズに関する情報を得るにはかなり厳しいことになるか。

 レオンさんから聞いた情報でもここらが限界だったみたいだしな。


「あとね。今の王様ってすごい嫌われているのよ。良い評判は全くと言っていいほど聞かなかったわ」

「うん。どの人も王様の悪口ばかり言ってました」

「そっちもか。こっちも愚痴を聞かされたよ。不人気なのは共通認識らしいな」


 ここまで嫌われてるのもある意味すごいけどな。

 1人も擁護する人が居ないレベルの嫌われっぷりは逆にすごい。

 どんなことをやらかしたのやら。


「多分ですけど、嫌われてるのはマースって人の存在が原因だと思います」

「どういうこと? マースは国王の弟だよな?」

「そうです。マースという人は逆にかなりの人気者でした。今の王様とは正反対の性格だったみたいで、皆に慕われていたみたいです」

「俺も似たようなこと聞いたな。マース様が王に相応しいとか言ってた」

「マースという人物が居たからこそ今の王様と対比のようになってしまい、余計に比較されてしまったのが原因なんじゃないでしょうか?」

「なるほどなぁ……」


 マースが居なかったとしても今の王……ギルバートは嫌われてはいたと思う。

 しかしマースという人格者が王になると期待を抱いてしまったせいで、それを裏切るようなかたちでギルバートが王になってしまった。だから嫌悪感が加速してしまったんだろうな。


「あっ。後これも聞いた話なんだけど、マースの恋人って街の人だったらしいわよ」

「へぇ。それは初耳だな。王族なのに平民に恋したのか」

「何度か街の人と交流してる内に恋するようになったんだってさ」


 となると、リーズはその人との間に生まれた子ってことになるのか。

 それなら一応、リーズは王族という扱いで間違ってはいないのかな。


「そういやその恋人とやらどこに居るんだ? まさか王宮の中とか?」

「マースと一緒に死んじゃったらしいわ。モンスターに襲われてね」

「そっか……」


 父親が居ないなら母親から話を聞こうと思ったんだが、ダメだったか。

 というか両方揃って殺されたわけか。犯人はモンスターなのか暗殺者なのかは不明だけど、今はそこまで重要じゃない。


「でもよく発見できたよね。発見した子は孤児院に居たんでしょ? 探すのもかなり苦労したと思うわ」

「しかも他国の孤児院だもんね。だから時間が掛かったんだと思うよ」

「そうよね。でもどうやって見つけたんだろう? 一目で王族だと分かったのかしら?」

「さぁ……?」


 確かに気になる点ではある。

 仮に本当に王族だったとしても、俺はリーズが王族だなんて全く思わなかったからな。何処にでもいる普通の可愛い女の子って感じだったはずだ。

 特に変わった様子も無かったし、他の子と比べても違いがあるわけでもない。少なくとも俺はそう思った。


 どうやってリーズを探し当てたんだ?

 その方法は何なんだ?

 どうして今になって連れ戻したんだ?


 そもそもの話、どうしてリーズはセレスティアに居たんだろう?


 孤児院にはずっと居たみたいだし、誰かが手伝わないと辿り着けないはずだ。

 ひょっとして……マースが連れてきたのか?

 その後に殺された……?


 うーん…………何か違う気がする。

 わざわざ他国までやってきて孤児院に預ける理由が分からん。一応は王族なんだから、もっと安全で環境がいい場所を用意できるはずだ。

 目の届きにくい他国の孤児院とか不便すぎる。


 仮に命を狙われていて隠す為に孤児院にしたとしてもおかしい。それだと別の疑問が沸くからな。

 そこまで命を狙われているのなら、発見した時点で始末すればいいからだ。国民に公表する意味が分からん。


 自国まで連れてきたってことはリーズに価値があったからだ。

 だからわざわざ探しにきたわけで――


 …………ん? 価値があった……?


 王族ということ以外に、リーズに価値があるってことか……?


 連れて帰ったのは王族としてのリーズじゃなく、別の理由があったからか……?


 リーズ本人に俺も知らない特別な何かがあるってのか……?


 …………いや違う。

 もし本当にそうだとしたら公表する理由が無い。そこまで特別な存在だとしたらずっと隠し通せばいい。そのほうが色々と都合がいいはずだからな。


 やはり王族としての価値があるから連れて帰ったと考えるべきか。

 しかしそれだと疑問が解消されないわけで……


 …………ダメだ。思考がループしそうになる。


 いっそのこと発想を変えてみるか。

 リーズが王族だからという理由じゃなくて、見た目が可愛いから気に入られたとか……


 …………


 ……………………


「…………あっ。ひょっとして……」

「? どうしたの?」

「そうか……前提が間違っていたのかもしれない」

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