第133話:情報収集
「すまないねぇ。私は見たことないんだ」
「そうか……ありがとう」
話し終わると老婆はすぐに去って行った。
情報収集のためにその辺に居る住民にリーズの事を聞いてみたんだが、結果がこれだった。
ここの住民全員がリーズを見たことがあるわけでは無いようだ。そもそも全員がリーズに興味を持ったわけでは無さそうだしな。
やはりそう簡単に手掛かりは得られそうにないな。
となると……あそこに行ってみるか。
ある場所を目指して街中を歩き回る。目的の建物を探して周囲を眺めながら歩ていると、ようやく目的の場所を発見した。
建物の中に入ると、何人かが飲食しながら雑談していた。
俺が今は入ったのは酒場だ。
情報収集といえば定番の場所だと思ってここに来たわけだ。
店内を見回すと、ちらほらと酒を飲んでいる人達が見える。
どの人に話しかけようか迷ったが、壁際のテーブルに座っている2人の男に決めた。
さっそく近づいて声をかけてみることに。
「ちょっと聞きたい事があるんだけどいいかな?」
「ん? なんだ? ワシに用か?」
ヒゲの生えた50代ぐらいのおっさんだった。
その人はジョッキ片手に俺の方に顔を向けてきた。
「リーズって子についての情報を知っているのなら教えて欲しいんだ。何か知らないかな?」
「あー。最近発見されたと噂の王族のことか?」
「そうそう。その子のことを調べてるんだけど、知ってることは無い?」
「少しだけなら知ってるぞ。とはいってもよく見えなかったけどな」
「……!」
この人はリーズの姿を見たことがあるのか……!
「ど、どんな子か覚えてるの!?」
「ギルバート王が誇らしげに公表してたからな。その時にちょっとだけ見たんだよ」
「ギルバート王……? この国の王様?」
「ああそうだ。もしかしてお前は他所から来たのか?」
「う、うん」
ギルバートか……
そいつが国王として居座ってるわけか。
「わざわざこんな国に来るなんて変わり者だな。お前は」
「そ、そうかな……?」
「何もない小さな国だしな。モンスターが少なくて平和だと思っていたら、盗賊が増え始めて迷惑してるんだ」
その盗賊とやらはもしかして……
「だな。ここ最近は大人しくなったと思ってたんだけどな。オレも迷惑してるんだ」
話に割り込んできたのは、ヒゲのおっさんの対面に座っているもう1人の男だ。
「こいつも大変だったんだぜ。この前も馬車を襲われたんだっけか?」
「ああそうだ。お陰で大損だよ。ったくあいつら荷物だけ綺麗に持っていきやがるからな。そこがまたムカつくんだ」
「まぁお前が無事だったんだからいいじゃねーか。命あってこそだ」
「だけどよぉ。人には危害を加えずに荷物だけ持っていくんだぜ? あれは次も襲って奪う気満々だぞ。オレ達は舐められてるんだよ」
「優しい盗賊じゃねーか。命取られるよりマシだろ。ははは!」
「笑いごとじゃねーっての!」
おいおい。
俺を無視して2人で雑談し始めたぞ。
「あの……さっきの事について詳しく聞きたいんだけど……」
「おおっと悪い。何の話だっけか?」
「リーズの姿を見たというのは本当なの?」
「まぁな。でも遠目で見ただけだからハッキリとは思い出せんぞ」
「それでもいい! どんな姿だったのか教えて欲しいんだ」
「つってもなぁ……年頃の可愛い女の子だったと思うぞ」
レオンさんに聞いたのと同じだ。
しかしあまりにもアバウトすぎてリーズ本人なのか断定できない。
「もっと詳しく覚えてない? その子の特徴は?」
「すまんがそこまで細かく覚えて無いんだ。そもそもあまり興味無かったしな」
「そうか……」
「というか王族かどうかも怪しかったからな。あのギルバート王のことだし、あまり信用できん」
「え……? 王族じゃない可能性もあるの?」
「そう疑われても仕方ないってこった」
リーズが王族かどうかすら疑われてるのか。
これは予想外の情報だ。
「でも国王が王族だと発表したんだよね? なら国王がリーズを王族だと勘違いしたってこと?」
「いやそうじゃない。そもそも王族が現れたこと自体が怪しいんだ。聞けばマース様の子供だって言うんだからな。そんなのありえねーんだよ」
「マース様? その人も王族なの?」
「そうだ。マース様はギルバート王の弟なんだよ」
へぇ。リーズは現国王の弟の子供だったのか。
それなら王族と判断されても問題ないような。
「じゃあそのマースって人に確認したらいいんじゃない? それならハッキリするだろうし」
「……それは無理だ。マース様はもうこの世に居ないからな……」
「…………」
ヒゲのおっさんはそういってうつむいてしまった。対面にいる男もそれに釣られたように暗い表情になった。
リーズの父親は既に他界しているのか……
本当にマースの子供だったらの話だけど。
そしてヒゲのおっさんはポツリと話し始める。
「マース様は偉大な方だった……。あの人こそが王になるべきだったんだ……」
「ああ……そうだな……。マース様が王様になるのなら誰も文句は言わないさ……」
ヒゲのおっさんに同調するように対面の男も同じように寂しそうな声を出した。
「そんなにすごい人だったの?」
「そりゃそうさ。マース様は国民を愛し、身分関係なく優しく接してくれていた。何度か王宮を出て、ワシらみたいな平民とも楽しそうに話し合っていたさ。王族だと感じさせないぐらいに仲良くしてくれていた」
「オレもその時の事は覚えてるさ。あれほど王族らしくない人は初めてだったよ。皆とも仲が良かったし、オレ達も楽しかった。住民の声をよく聞いて、国を良くしたいと努力していた。あの人こそが国王に相応しい人物だよ」
「だよな……」
マースって人はすごい慕われていたんだな。ここまでべた褒めされるぐらいの人格者が王族だったのか。
リーズの父親は予想以上に人気者だったらしいな。
だが今はもう居ない。そんな人を失った市民の悲しみは想像以上だろうな。
「その人はどうして亡くなったの? 病気とか?」
「殺されたんだよ。モンスターにな」
「……!」
「マース様が遠征中のことだ。マース様が乗っていた馬車がモンスターの襲撃に遭って全滅したらしい。そう聞いている」
モンスターの襲撃……か……
よりにもよってマースが乗っていたところを襲われたってわけか。
なんと不運な……
「だがワシは信じねぇぞ! そんなタイミングよくモンスターが襲ってくるもんか!」
「え? どういうこと?」
「その時は王位継承争いをしている最中だったんだ。前国王様が病で倒れていたからな。だからギルバートとマース様で継承争いすることになっていたんだ。そんな時にマース様が殺されたんだ! きっとギルバートの奴が暗殺者を雇ったに違いない!」
「お、おい……滅多な事いうんじゃねーぞ……」
「お前だってそう思うだろ!? あんなタイミングよくマース様が殺されたんだ! ギルバートの仕業としか思えないだろ!」
「気持は分かるが落ち着け……。そこの兄ちゃんがビックリしてる」
「…………」
ヒゲのおっさんは言い終わると同時に酒を一気飲み。
そして空になったジョッキをテーブルに叩きつけた。
「すまねぇな……つい熱くなっちまった……」
「い、いや……気にしてないから」
「まぁ言いたい事は分かっただろ? そういうわけだからマース様の子のはずがねーんだ。マース様の子ならどうやって生き延びたって話になる。そもそも子供が居た事自体が怪しい」
「なるほど……」
確かに色々と不自然な点はある。
なぜ継承争い中に国を離れたのか。本当にモンスターに襲われたのか。子供はどうやって生き延びたのか。生き延びたとしたらなぜ他国の孤児院に居たのか。
いくらでも疑問が沸く。
ここまで聞いたらリーズが王族だと疑わしくなるのも分からなくもない。
だとしたらどうしてリーズを王族だと公表したんだ?
本当に王族だったのなら根拠はどこからきたんだ?
わざわざ連れてきたその目的は何なんだ?
………………分からん。
まだ情報が足りない。この場では答えが出ないだろう。
「ワシが知っているのはこんなところだな。とは言ってもこれくらいなら誰でも知ってる。たぶん他の連中も似たようなことしか言わないと思うぞ」
「だな。オレが言いたいことも全部言ってくれたし。これがこの国の現状さ」
「そっか。色々とありがとう。ためになったよ。これはお礼だ」
俺は銀貨1枚をテーブルの上に置いた。
「お! そんなにいいのか!? 大したことは話してねーぞ!?」
「聞きたいことを話してくれたしね。遠慮せずに貰ってくれよ」
「気前のいい兄ちゃんだな! なら有り難く貰うぜ! これで一日中飲める!」
「お、おい……まだ飲むのかよ……」
「飲まなけりゃやってらんねーよ! おーい! 酒追加してくれ!」
途端に嬉しそうになるおっさんを後に、この場から離れることにした。
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