第132話:謎の行動

 リリィを見送った後、残った俺達は街中を散策することなった。


「リリィさん1人で大丈夫でしょうか……?」

「色々と不安ではあるが、現状はリリィが一番リーズに近くにいけるチャンスがあるんだ。ここはリリィを信じるしかない。きっと何かしらの情報を掴んでくれるはずさ」

「そうね。でもあの子なら平気よ。いつも頼りになってるし、1人でも強いもん。今回も何とかやり遂げてくれるはずよ」

「……そうだな」


 俺達がいつまでも心配してるわけにはいかないか。

 リリィは自分から王宮に潜入してくれることを望んだわけだし。あいつなりに考えがあったに違いない。それに期待しようじゃないか。

 ここは信じて無事を祈ろう。


「さて、俺達は俺達でやれる事をやろう。リリィだけに任せっきりにするわけにはいかないしな」

「これからどうするの?」

「まずは情報収集だ。期待は薄いけど、リーズに会える方法が他にあるかもしれんからな。できればリーズのことを詳細に知ってる人が居ればいいんだけど、まぁ難しいだろうな」

「王族に会える人は限られてそうですもんね」

「そういうこった」


 レオンさんの情報網でもこのあたりが限界だったもんな。手掛かりを探すのはかなり骨が折れそうだ。

 とはいえやらないことには始まらない。わずかな可能性があるならそれに賭けてみたい。

 なので街の住人に話を聞いてみることにする。


「まずはどこから行くかな……」

「結構広いもんね……」


 俺達が住んでいるセレスティアよりは広くないとはいえ王都には変わりない。それなり人も多いし十分広い。

 これはしばらく帰れそうにないな。


「まぁこのまま迷ってても仕方ないし、近くの酒場にでも――」

「………………ッ!! ゼ、ゼストさん! こ、こっちに来てください!」

「えっ!? お、おい! フィーネ!? 急に引っ張り出してどうしたんだ!?」


 フィーネが突然俺の手を掴んで早歩きで進み始めたのだ。


「ちょ、ちょっとフィーネ!? 何があったのよ!?」

「と、とりあえずこっちに来て!」

「だからどうしたのよ!? そんなに慌てるようなことなの!?」

「その……えっと……と、とりあえずこっちに来て!」


 なんだなんだ。フィーネのやつどうしたんだ?

 俺の手を引っ張ってまで急ぐような事態なんだろうか。


「おいフィーネ。どこに行くんだ」

「と、とりあえずこっちに……」

「そっちに何かあるのか?」

「そういうわけじゃないんですけど……」

「じゃあ何なんだよ急に。理由ぐらい教えてくれよ」


 こんな強引な行動に出るなんてらしくない。本当にどうしたんだろうか。

 いや待てよ。ここまで慌てるってことは……


「もしかしてリーズの手掛かりを見つけたのか!?」

「い、いえ。そういう事では無いんですけど……」

「じゃあ何なの!? とりあえず止まりなさいよ! ずっと引っ張るなんてゼストが可哀そうよ!」

「あ……ご、ごめんなさい」


 ようやくフィーネが立ち止まり、手も放してくれた。


「そろそろ説明してくれないか。何も話してくれないとこっちだって分けわからんぞ」

「そうよ! いつものフィーネらしくないわよ! 本当にどうしたの?」

「えっと……その……何というか……」


 マジでフィーネらしくない。もっと大人しい性格だと思ってたんだけどな。

 顔も少し赤い気がするし、様子が変だ。

 どうしてこんなことをしたんだろう。


 今の行動はまるで……そう、何かから逃げるような感じだった。

 だけどこんな街中で逃げるようなものは無いはずだ。なんせ今日初めて来たからな。何も接点は無いはずなんだ。

 でもあの慌てっぷりは異常だ。ラピスですら困惑しているからな。

 本当に何があったんだ……?


「そのぅ…………あのぅ………………あっそうだ。二手に分かれませんか!」

「え? どういうこと?」

「こんなにも広いと街の人に話を聞くにも苦労しますよね? なので二手に分かれて行動すれば効率がいいと思ったんです」

「確かにそうだな……」


 とてもじゃないが、1日で回りきるのは不可能な広さだ。この街には慣れてないし、探しながらだと余計に時間が掛かるだろう。

 なら手分けして聞き込みしたほうがいいか。


「そういうことなら頼んでいいか?」

「は、はい! 任せて下さい! お姉ちゃんと一緒に調べてみます!」

「もう。初めからそう言いなさいよ。急に連れますもんだから何事かと心配したじゃない」

「ご、ごめんね……」

「まぁいいわ。どっちみち手分けして動くことになったはずだしね。それじゃあ……あたし達はこっち側を――」

「ゼストさんは向こう側をお願いします!」


 ラピスの言葉を遮るようにしてフィーネが割り込んできた。

 フィーネが指さしたのは俺達がさっきまで居た方向とは逆の方角だ。


「いいけど、あっちに何かあるのか?」

「そうじゃないんですけど…………その……ゼストさんならやりやすいかなーって思ったんです」

「そ、そうか……」


 やっぱり今日のフィーネはどこか変だ。さっきから何かを隠しているような気がする。

 けど無理して問い詰めるのも可哀想な気がするし、ここは様子を見るか。


「それじゃあ後で宿屋に集合ってことで。2人とも気を付けてな」

「はい。じゃあ行こ! お姉ちゃん!」

「う、うん……」


 戸惑うラピスと一緒にフィーネは歩き出した。次第に離れていき、姿が見えなくなった。

 それを確認した後に来た道を戻ることにした。


 やはりフィーネの行動が気になった。さっきの場所から逃げるように動いていたからな。そこに何かあるかもしれない。

 そう思い来た道を戻ってさっき居た場所の近くまでやってきた。


 立ち止まって周囲を眺めてみるが、特に変わった様子は無い。怪しい人が居るわけでもないし、気になるようなモノも存在しない。

 だとしたらフィーネのあの行動は何だったんだろうな。


 悩んででも仕方ない。さっさと戻ろう。


「…………ん?」


 とある方向にスタイルのいい女性が立っているのを発見した。その人は服装は少し変わっていて、男受けが良さそうな格好をしていた。

 その人を周辺をよく見ると、奥の方には細い道があった。その道の奥には同じように変わった服装をした女性が立っているのが見えた。


 あーなるほど。あの人は客引きの娼婦として立っているのか。

 ってことは、あそこは娼館エリアってわけだ。よく見たら一帯からそういう雰囲気を感じる。


 そういやさっきフィーネはあの方向を見ていた気がする。

 どういう場所なのかすぐに察したんだろうな。だから急いで俺達を連れて離れていったのか。

 その証拠に、フィーネが移動したのは娼館エリアとは真逆の方向だしな。


 フィーネの謎の行動はこれのせいだったのか。

 言い難そうにしてのも顔が少し赤くなっていたのも納得した。

 娼館エリアから離れたかった理由は……まぁ何となく察せる。ラピスが発見したらフィーネか俺に聞いてくるだろうし、その後は気まずい雰囲気になりそうなのは簡単に予想できる。


 謎が解けてスッキリした。

 大した事なさそうでホッとしたので元の場所に戻ろう。

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