第131話:リリィの覚悟

「さて……どうしようか……」


 リーズを探す為に宿を出て王都リヒベルの街中に出たのはいいが、さっさそく行き詰ってしまった。

 結局どうやったら会いに行けるか不明のままだ。こっちから会える方法が思い浮かばなかったんだよな。


「あの大きなお城に居るのかしら?」

「たぶんな」


 遠くには立派な王宮が存在している。この街で一番大きくて目立つ建物だからな。あそこに王族が居るのは間違いないだろう。


「でもどうやって入るんですか?」

「それなんだよなぁ……」


 俺達はどこにでもいる冒険者の一人にすぎない。そして相手は王族。

 こっちから会おうにも気軽に会いに行けるような立場じゃない。相手が王族である以上、会うだけでもかなりハードルが高い。


「普通に会いに行けばいいんじゃないの? 姿だけでも確認できたらいいんでしょ? ゼストのこと知ってるかどうか伝えてもらえばいいんじゃない?」

「真正面から行っても門前払いされるのがオチだ。まともに取り合ってはくれないだろうな」

「難しいわね……」


 こっちとしては一目見るだけでもいいんだけど、それすら叶わないのが辛い。

 実際に見たことがある人に話を聞いて回るしかないのかな。しかし人によっては印象が違うだろうし、正確に思い出してくれるとも限らない。

 もっと確実に姿を確認できる方法は無いんだろうか。


「う~ん…………」

「……あれ? 何かしら?」

「ん? どうした?」

「あそこに紙が貼ってあるわ」


 ラピスが指さした先には、壁にポスターみたいに張り紙が貼ってあった。

 俺達はその張り紙の前まで移動することにした。


「何か書いてあるわね」

「どれどれ…………んーと。どうやら王宮でメイドを募集してるみたいだな」

「へぇ~。メイドって誰でもできるものなの?」

「さすがに女性限定だろうけどな。雑用ばかりやらされそうだし、ある程度体力があるなら誰でもなれるんじゃないかな」

「そうなのね」

「……………………」


 そういやディナイアル商会に行った時もメイドが何人か居たっけか。

 金持ちならああいうのを複数人雇うぐらいの余裕はあるんだろうな。


「さーて……これからどうするかな……」

「ゼストさん。リーズさんを見つけるいい方法を思いついたんですけど……」

「……ッ!? ほ、本当かフィーネ!? 教えてくれ! どうすればいい!?」

「その…………私がメイドとして王宮に入れば……姿ぐらいなら見られるんじゃないかと思ったんです……」

「なっ……」


 全員が張り紙の方を向く。


「まさか……この募集を利用して潜入するってことか!?」

「はい。それなら王宮の中に入れることもできますし、上手くいけば本人に会えるかもしれません」

「それはそうかもしれないけど……」


 しかし行くとなると危険を覚悟する必要がある。

 相手はリーズを攫った連中。しかも盗賊との繋がりがある可能性まである奴らだ。

 正直言ってかなり不安である。


「本当に大丈夫なのか? 王族とはいえ、あまり信用できない連中だ。フィーネ1人にそんな危険なことをさせるわけには……」

「ならあたしも付いていくわ!」

「ラピス!? 正気か!?」

「だってフィーネだけに任せるわけにはいかないもの。それに、人が多いほどリーズって子と会える可能性も高くなるんじゃない?」

「お姉ちゃん……!」


 確かに2人なら協力すればできるかもしれない。

 しかし……やはり危険なことには変わりない。


「じゃあアタシも一緒に行くよ!」

「リリィまで……」

「そのメイドってのは女なら誰でもなれるんだろ? だったらアタシだっていけるはずさ」

「そうだけど……本当にいいのか? 相手は王族だ。何が起こるか分からない。万が一のことがあったら……」

「大丈夫だって! そんな簡単にやられたりしないって!」


 リリィなら何とかしそうな気がするが……やはり心配だ。


「しかしだな……」

「ゼストさん。この方法が一番だと思うんです。これなら怪しまれずに会えるかもしれませんし、会えなくてもリーズさんがどういった人なのか分かるかもしれません」

「そうね。城の中にいる人なら何か聞けるかもしれないしね」

「それはそうだけど……」


 スパイみたいに潜入できるのなら、手っ取り早くリーズに関する情報が手に入るかもしれない。

 だけど危険な事には変わりないんだ。

 3人にそんな無茶をさせるわけには……


「こういうのは女の子じゃないとなれないんでしょ? だったらあたし達が適任じゃない。ゼストだと変装でもしないと無理でしょ?」

「変装って……それは俺に女装しろってことか……?」

「そうなるわね」


 俺が女装か…………

 さすがに嫌だ。それだけは避けたい。絶対やりたくない。

 でもリーズのためなら……我慢してでもやるしかない……のか……?

 う~ん…………


 ……いや、やっぱり無い。これだけはない。

 やるとしても本当に最後の手段にしたい。


「お姉ちゃんったら……ゼストさんに女装なんてさせたらダメだよ……」

「じょ、冗談よ……言ってみただけ」


 ラピスの目は本気だった気がするが……


「ゼストさんがそんなことする必要は無いですよ。私が代わりにやります。少しでもゼストさんのお役に立ちたいんです。私達を信じてくれませんか?」

「いつもゼストばかりに頼ってばかりだもんね。少しぐらいあたし達に頼ってもいいじゃない!」

「ゼストの代わりにできることなら何だってやってやるさ。危ないことなんて慣れてるからな!」

「みんな……」


 そうか……今はこんなにも頼りになる仲間が居るんだったな。

 俺1人で全部解決しようと思ってたせいで、皆に頼ることを忘れていた。これからはもっと頼っていいかもな。

 そうと決れば……


「それじゃあ、3人ともお願いできるか? メイドとして王宮の内部に入ってリーズに関する手掛かりを手に入れてほしいんだ」

「はい! やってみせます!」

「安心しなさい! 絶対見つけてやるわ!」

「任せろ!」


 本当に頼りになる仲間だ。これならいけるかもしれん。


「じゃあさっそく行ってくるわ! みんな行くわよ!」

「ちょっと待て。武器は置いていけ。さすがにそのまま王宮に入るわけにはいかんだろ」

「あ、そっか」


 というわけで皆の武器を預かることになった。

 改めて全員王宮へと向かっていった。


 俺は少し離れた所で見守ることにした。

 3人は王宮に入る為に大きな外壁へと近づいていく。そして外壁の一部にある門には、2人の衛兵が立っていた。

 3人とも衛兵に話しかける。そして衛兵はすぐ近くにある建物を指差した。

 どうやらあの建物が面接会場らしいな。


 3人は指示された場所へと向かっていった。


 後は皆に任せよう。

 そう思い一旦離れようとするが……なぜかラピスとフィーネがすぐ出てきたのだ。

 2人は俺のほうに向かって近づいて来た。


「ど、どうしたんだ?」

「ご、ごめんなさいぃぃぃぃぃ! 追い出されちゃいました……」

「は?」

「もう! 子供にできる仕事じゃないって言われたのよ! 酷いと思わない!?」

「ああ、なるほど……」


 ラピスもフィーネもまだ子供体型に見えるもんな。外観だけで判断されてしまったわけか。

 さすがにそこまで幅広く募集してなかったか。


「ま、まぁ仕方ないさ。こういうこともある。他に方法を探せばいいだけで……ってあれ? リリィは?」

「リリィならそのまま中に案内されていったわよ」

「……!」


 ということはメイドになる資格はあると判断されたわけか。

 これならリリィならいけるか……?


「ここはリリィに賭けてみるか……」

「あの子ならきっと大丈夫よ」

「リリィさん……」


 すごい不安ではあるが、リリィに望みを託すしかない。

 すっげぇ不安だけど…………


 そしてしばらく待っていると、リリィが建物から出てきた。

 リリィは俺達を見つけると走って近寄ってきた。


「リリィ! どうだった!?」

「アタシはメイドとして働けるってさ! 今日から来てくれって言われた!」

「おお!!」


 メイドとして認められたのか。

 これで王宮内部に入れるのはリリィだけということになる。


「さすがリリィね。あたしも一緒に付いていきたかったんだけど残念だわ」

「お役に立てなくてごめんなさい……」

「心配するなって! アタシに任せろ! メイドってのはよく分かんないけど何とかやってみせるさ!」


 リリィ1人に潜入させるのは不安だけど……これはある意味好都合かもしれん。

 王宮には武器なんて持ち込めるわけが無いし丸腰で入ることになる。もし何かあったときに素手で対処できそうなのはリリィぐらいだしな。

 そう考えたらリリィが適任かもしれないな。


「リリィ。お前1人に任せることになってしまったけど、本当にいいのか?」

「うん。今までゼストには助けられてばかりだったもん。アタシの暮らしていた里に付いてきてくれたし。とーちゃんにも会うことができたし。いっぱい感謝してるんだ」

「…………」

「だから今度はアタシが助ける番だ。ゼストのためなら何だってするさ。アタシだってゼストのために頑張りたいんだ」

「リリィ……」


 そこまで想ってくれていたのか……

 俺は本当にいい仲間に恵まれたな。リリィが居なかったらリーズ探しにもっと手こずっていたかもしれん。

 ここはありがたくリリィを頼らせてもらおう。


「リリィありがとな。お前がいてよかったよ」

「へへっ! アタシに任せろって!」

「でも無理はするなよ。何が起こるか分からないんだ。危険だと思ったらすぐに逃げていいからな?」

「大丈夫だって。どんなやつでもぶっ飛ばしてやるからさ!」

「いやさすがに王族をぶっ飛ばさないでくれよ? そんなことしたら即死刑もんだからな」

「分かってるって!」


 少し不安になってきたけど……まぁいいか。ここはリリィを信じよう。


「あと騒ぎだけは起こすなよ? 俺の知ってるリーズ本人なのかどうかすらまだ不明のままだからな。他人の可能もあるんだ。というかそもそもリーズという人物が本当に滞在してるかどうかすら不明なんだ。そんな状態でもめ事は起こしたくない」

「うん! 騒がない!」

「俺達はさっきの宿屋で滞在するつもりだ。何かあったらすぐに連絡してこい」

「分かった!」


 後はリリィに任せよう。

 頼んだぞ……リリィ!

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