第129話:男の正体

「ここが王都リヒベルか……」


 馬車から降りてから周囲の街並みを眺める。広さこそはセレスティアに劣るが、それなり人は多く十分栄えている。

 俺達はリヒベルに到着し街の中に入り、それからどうしようか悩んでいた。


「さて……こいつどうすっかな……」


 まだ眠ったままの男を見下ろしてため息をつく。


「まだ起きないわね。そんなに疲れていたのかしら」

「本当に大丈夫なんでしょうか……」

「息はあるし生きてはいるだろ。傷は回復スキルで直したから問題ない。でも精神的なことはどうしようもない」


 時々うなされているような寝言もあったし、そのうち目覚めるはずだ。

 とはいえ、このままだと俺達が困る。


「お客さん、そろそろ馬車を動かしたいんだけどね……。その人どうにかならんかね」


 ここまで運んでくれた御者も困った顔で見つめてくる。

 このまま寝かせておく訳にもいかないし、どうしようかな……


「あー……やっぱりここに置いておくのはマズいかな……?」

「こっちも次の予定があるんでね。できればどかしてほしいんだよ」

「だよな……」


 仕方ない。俺が馬車に乗せたわけだし、引き取るしかないか。


「じゃあ俺が連れていくよ。邪魔して悪かった」


 俺は寝ている男を背負って馬車の外まで運んだ。ちと重いがこのくらいならなんとかなるだろう。

 御者はそれを確認した後、馬車を動かして離れていった。


「その人どうするの? このまま連れて行くの?」

「ここに放置するわけにいかんし、宿屋まで運ぶよ。近くに宿屋がないか探してくれないか」

「任せて! あたしは左の道いくから2人は他をお願い!」

「なら私は右に行くね」

「アタシはあっち探してくる!」


 こうして3人は手際よく動き散会して離れていった。




「よい……っしょっと……」


 男をベッドの上に乗せる。宿屋を見つけてようやく一息つくことができた。


「しかし全然目を覚まさないな……」


 何度も声をかけてみたんだけど、一向に目覚める気配が無かったのだ。

 軽くビンタとかしてもダメだった。


「余程疲れているね……」

「かもな……」

「大丈夫なんですか? このまま目を覚まさないってことは……?」

「それはない……と思う……」


 ここまで反応無いと俺も不安になってきた。ただ寝ているだけ……のはずなんだ。

 このまま目を覚まさずにポックリ逝ったりしないよな……?


 …………やっべ。本当にどうしようか……

 とはいえ他にできることは無いし……


「…………う…………ぐっ……」

「……!?」


 男が動き出し、ゆっくりと目を開けた。


「………………ッ! うおっ!」


 そして突然起き上がってきたのだ。


「はあっ……はあっ…………」

「よう。やっと目覚めたか」

「……!? き、君は……?」

「お前が倒れていたからここまで運んだんだよ。随分とお疲れのようだな。ずっと熟睡していたんだぞ」

「…………そ、そうなのか……」


 男は周りをキョロキョロを見回す。


「こ、ここは一体……」

「宿屋だよ。街中で放っておくわけにもいかないからな。だからここに一旦置いておくつもりだったんだ」

「そ、そうか……」


 さて。これでようやく話をすることができるな。


「感謝しなさいよね。ゼストがここまで運んできたんだから!」

「え……えっと……?」

「俺のことだよ」

「そ、そうなのか。助かったよ。ありがとう……」


 落ち着いていて特に変わったところはないな。


「体のほうは大丈夫なんですか……?」

「そういえば……どこも痛くないな……」

「それも俺がやった。回復スキル使ってな」

「! なるほど。何から何まで世話になったようだ。本当にありがとう」


 そういって頭を下げてきた。


「それで? どうしてあんな所に居たんだ? というかお前は誰なんだ?」

「名乗るのが遅れたな。オレはランドールというんだ」

「さっき聞いただろうけど俺はゼストだ。そんでランドールどうして倒れていたんだ?」

「それは…………仲間に襲われたんだ……」

「へぇ……」


 仲間割れでもしたんだろうか。それにしては酷いやられ様だったが。


「いや違うな。元仲間だ。もうあいつら・・・・とは関係ないんだ……。あいつらとは違うんだ……。オレはあんなの望んでないっ……!」

「……? どういうことだ?」

「………………」

「おーい?」


 急に黙ってしまった。

 仲間に裏切られた……とはまた違うような気がする。


「何があったんだ? 仲間って誰の事なんだ?」

「……………………」

「……まぁ別に無理に聞き出すつもりはないけど――」

「いや。話そう。命の恩人に対して隠し事はしたくない。全て話すよ」

「そうか」


 そしてランドールは俺達の方に向いて口を開く。


「オレは……………………元エンペラーだったんだ」

「…………は?」


 エンペラーって……まさか!


「ね、ねぇ。エンペラーって確か前に恐れわれた時の……!」

「う、うん! あの時の盗賊団の名前だよ……!」

「ってことはこいつ悪い奴か!!」


 全員が一瞬で離れて警戒態勢に入った。

 3人ともランドールから離れて敵意むき出しだ。


「ま、待て! 違うんだ! もう関係ない! オレはエンペラーを抜けたんだ! 何もする気は無い!」

「う、嘘よ! そうやって油断させておいて襲う気だわ!」

「そんなつもりはない! 信じてくれないだろうけど本当なんだ!」

「悪い奴ならアタシがぶっ飛ばしてやる! 前は手こずったけど今度は絶対負けないぞ!!」

「ひ、ひぃ!」


 リリィが今にも飛び掛かろうとしたのですぐに止めに入る。


「待てリリィ。落ち着け。剣をしまえ」

「何で止めるんだ!? あいつは悪い奴なんだろ!?」

「とりあえず話を聞いてからでも遅くは無いはずだ。ラピスもフィーネも落ち着いてくれ」

「で、でも……」

「俺が話を聞くから。それまでお前らは下がってていいからさ。だから話をさせてくれないか」

「「「…………」」」


 3人はお互いに顔を見合わせた後、緊張感が和らいだ。


「で、でも本当に大丈夫なんですか? 私も少し不安なんですけど……」

「少なくとも俺達を襲うようなマネはしないと思う」

「あいつは悪い奴なんだろ? だったらここでぶっ飛ばしたほうがよくないか?」

「本当に騙す気なら元盗賊だとか、しかもエンペラーの名を出したりしないだろう。そんなことしたら誰でも警戒するに決ってる。それが分からないほど馬鹿じゃないはずだ」

「確かにそうね……」


 倒れていた時の傷は本物だった。あれが演技のためにつけたものだとは思えないんだよな。

 全部計算した上での名演技だったのならもうお手上げだけど、今の奴からはそんな雰囲気を感じられない。


「奴と話をしてみたいんだ。俺が連れてきたんだし、全部責任は持つよ」

「ま、まぁ……そこまで言うのなら……」

「悪いな」


 3人はランドールから離れているため、俺だけが近づくことにした。


「さて。さっきエンペラーを抜けたと言っていたが、詳しく聞かせてくれないか」

「もちろん話すさ。でも君は……オレのことを信じてくれるのか……?」

「別に信用したわけじゃない。お前程度なら俺一人で対処できるってだけだ」

「そ、そうか……信用が無いのは仕方ない。もし不安だったらオレの手足を縛ってくれても構わない。だから話を聞いてもらえないだろうか?」

「そのままでいい。いちいち縛るのが面倒だ」

「ならこのままで……」


 今すぐにこいつを追い出すのは簡単だ。しかしその前に事情を聞いておきたかった。

 さっきの話を聞いてから何か気になるんだよな。それが何なのかが具体的に分からない。

 これは勘というやつだろうな。ここで聞き逃すと後悔しそうな気がするんだ。

 運命だとか信じてるわけじゃないが、ここで出会ったのは訳がある気がする。


「オレは元々盗賊になりたくてエンペラーに入っただけじゃない。連中は理不尽な世の中を変えるために活動していると聞いたから入ったんだ。最初は本当に改革してくれると信じていたんだ……」

「ふぅ~ん……」


 そういや前にエンペラーと遭遇した時に勧誘してきたっけか。あの時のもそんなこと言っていた気がする。あの時は半信半疑だったけど本当にそういう集まりだったんだな。

 つまりはエンペラーってのは革命集団みたいなもんか。


「だが違っていた。奴は改革なんてするつもりは無かったんだ……! もっと恐ろしいことを計画していたんだ……!」

「それを知ったから脱走したと?」

「ああそうだ。奴らがしたいのは改革なんかじゃない! 虐殺なんだ!!」

「へぇ……」


 正直あまり驚きは無い。盗賊なんてそんなもんだろうし。


「奴はそのために戦争を仕掛けるつもりなんだ! もしそんなことが起きたら大量の犠牲者が出ることになる!」

「おいおい。たかが盗賊ごときに戦争なんてできるわけ無いだろ。まさか国にケンカを売るつもりなのか? 無謀にも程がある」

「確かにそこらの賊にはできるはずがない。しかしエンペラーは違う! 奴はとんでもない物を作り上げようとしている!!」


 そしてランドールかの口から予想外の言葉を聞くことになる。


「奴は…………〝古代兵器〟を使うつもりなんだ!!」


 ……………………ッ!?

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