第128話:行き倒れ

「そうですか……やはり向かわれるのですね」

「ああ。現時点での唯一の手掛かりだしな。直接行って確かめてくる」


 レオンさんはこうなることを予想していたかのように微笑んだ。

 俺は今、ディナイアル商会の応接室に居る。用事はもちろん、手掛かりの詳細を聞くためである。


「だからリーズが居るであろう場所を教えて欲しいんだ」

「ですが以前に話した以上の情報はまだ入ってきていません。なのでここからは僕の予想となります。それでもよろしいですか?」

「それでもいい。教えてくれ」

「分かりました」


 そして一呼吸おいてから続けた


「既に伝えた通り、リーズという名前の子はリヒベル国の王族だという情報が入ってきています」

「王族だとは信じられないけどな……」

「そしてリヒベル国の……王都リヒベルに居ると考えられます」

「王都か……」


 やはり王都まで連れていかれのだろうか。本当にリーズだったらの話だけど。


「行方不明だったという噂が本当であれば、真っ先に王都で確認しに行かれるでしょうからね」

「ん? 本当であれば? そこから疑ってるの?」

「これは疑いと言いますか、リヒベル国があまり信用できないだけです。これに関しては僕個人の意見なので忘れてください」

「へぇ……」


 この人がそんなに信用できない国なのか……

 それはそれで気になる。


「信用できない理由について聞いてもいい?」

「まぁ隠すような事ではないので気になるのであればお話しますが……」

「これから行く国だから、少しでも情報が欲しいんだ」

「そうですか。ならこれは僕の独り言だと思って聞いてください」

「分かった」


 思わず前のめりになって聞き耳を立てる。


「これはあくまで噂なんですが……」

「うん……」

「リヒベル国は黒い噂を聞くんですよ。他国に対して攻撃的だとか、領土を広げるために手段を選ばないとか……」

「そこまでして領土がほしいものなのか……」

「これはリヒベル国が比較的小さな国だからというのが関係しているんでしょうね」

「へぇ」


 そういやあまり広くない地域だったような気がする。


「そして中には……盗賊と繋がりがあるという噂まであります」

「は、はぁ? 賊なんかと協力してるのか!?」

「あくまで噂ですけど……」


 おいおい。そんなやべぇ国にリーズが居るのかよ。

 ……いやいや落ち着け。まだ本人だと決まったわけじゃない。


「ですので、個人的には積極的に関わろうとは思わないですね。あの国一帯は避けるようしています。盗賊が多いという噂もありますしね」

「そうなのか……」


 この人がそこまで言ってしまうぐらい危険な国なのか。まさかモヒカン集団が襲ってくるような国じゃないだろうな。

 少し前までは王都リヒベルにリーズが居て欲しいという気持も心のどこかにあったが、こんなこと聞いた後だと別人であって欲しいという気持が強くなってきた。


「何度も言いますが、あくまで噂レベルの話ですからね。事実は違う可能性だってあります。深く考えないほうがいいですよ」

「そうかもしれないけど……」

「すみません。脅すつもりは無かったんです。そういった噂もあるってだけで」

「あ、ああ……」


 とはいえ、かなり気になる情報ではある。

 用心したほうがいいかもな。火の無いところには煙は立たないし。


 それからは馬車を手配してもらうことになり、俺達は王都リヒベルに向かう事となった。




 馬車に揺られて数日が経ち、もう少しで王都リヒベルに辿り着きそうだと思っていた時だった。

 急に馬車が止まってしまったのだ。


「ど、どうしたの? いきなり止まったけど……」

「前に人が倒れているんですよ! 驚いて思わず止めてしまいました……」


 御者が指差した先には、人が道端で倒れている姿があった。

 他のみんなも身を乗り出して前方を眺める。


「な、なにあれ……」

「もしかして……行き倒れでしょうか……?」

「かもな。あんな場所で倒れてたら邪魔だな」


 道を塞ぐように倒れているせいで馬車が通りにくい。まぁ普通に迂回すれば通れなくはないけど。

 しかしあんな所で倒れているのが気になる。


「なぁなぁ。あれって死んじゃってるのか?」

「さぁな。死んでてもおかしくないけど」


 遠目で見た感じだと、生きてるかどうか判別できない。


「じゃあアタシが見てこようか?」

「いや。リリィはここで待っていてくれ。俺が見てくるよ」

「分かった!」


 ラピスとフィーネにも待機するように伝え、馬車から降りることにした。

 倒れている人に近づいてみると、やけにボロボロな格好になっている事に気づく。まるで賊にでも襲われた後みたいだ。

 さらに近づいてみるが、やはり反応が無い。


「おーい。生きてるかー?」


 …………返事が無い。

 本当に死んでるんだろうか。


 嫌な予感がしつつすぐ近くまでやってきた。見た感じだと、30代ぐらいの男のようだった。

 とりあえずしゃがんで体を揺さぶってみることに。


「おい。大丈夫か?」

「………………………………ぐっ」


 お、動いた。

 よかった生きてるみたいだ。


「意識はあるか? なんでこんな所で倒れてるんだ?」

「…………あい……らは………………危険だ……」

「は?」

「奴は………………を……しかけ……もりだ……」

「お、おい! しっかりしろ! 何があったんだ!?」

「………………」


 どうやら意識を失ってしまったようだ。

 回復スキルを使って治してみたが、まだ意識が戻る気配が無い。

 これは当分このままだろうな。


「仕方ない……」


 男の体を背負い、馬車がある場所へと戻っていった。

 馬車に乗り込んで男を床に置く。


「そ、その人大丈夫なの……?」

「死んでるのか?」

「いや生きてるよ」

「よ、よかった……」


 息はあるからその内目が覚めるはずだ。


「で、でもどんな人か分からないんでしょ……? 平気なの……?」

「正体は分からないが、だからといって放っておくわけもいかん。あんな場所に居たらモンスターの餌になるだけだからな」

「そ、そうね……」


 ここで待っていてもいつ目覚めるか分からんし、このまま連れていくことになりそうだ。


「この人随分とボロボロなんですけど、何かあったんでしょうか……?」

「さぁな。盗賊にでも襲われたんじゃないのか」


 何となくだが、衣類の破れ具合からして人の仕業な気がする。となると盗賊に襲われて命からがら逃げてきた……ってところだろうか。

 まぁ真実は本人から聞いてみることにしようか。


 そのまま王都へと向かうことになったが、結局到着しても目覚めることは無かった。

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