第125話:☆行方不明のSランク冒険者

 ここは冒険者ギルドの資料部屋。ここには冒険者関する情報やモンスターなのどの詳細が載っている本などが置かれている一室だ。

 その中で1人の女性が資料を見ながらため息をついていた。


「ふぅ……どうしましょう……」


 彼女の名はフローラ。冒険者ギルドで働く職員の1人だ。

 机の上に置かれている資料を見て浮かない表情をしていた。


「ニャ? フローラさんどうかしたのニャ?」


 そんな時にドアから入ってきたのはレイミだった。レイミもフローラと同じく冒険者ギルドで働く職員で、獣耳が生えている獣人である。

 レイミは心配そうにフローラのことを見つめていた。


「あら。レイミさん。今ちょっと冒険者リストを整理してたのよ。その中で判断に困る冒険者をどうするか迷ってたのよ」

「判断に困る? 何の話なのニャ?」

「この人なんだけど……」


 フローラは手元にあったリストをレイミに渡す。

 レイミはそれに目を通すが、記憶にない冒険者だった。


「この人は何ですかニャ?」

「その人は有名なSランク冒険者でね。実力もかなりあって有望な人だったのよ」

「でも私は会ったことが無いですニャ。聞いたことも無いニャ……」

「ああそっか。レイミさんが来る前のことだもんね。知らなくても無理ないわ」

「……?」


 レイミが困惑していると、フローラが再びため息をついて暗い表情になった。


「その人はね。もうずっと冒険者ギルドに現れてないのよ。それどころか目撃情報すら無いのよ……」

「でも冒険者が何日も姿を見せないのはよくあることだと思うニャ。依頼

 ために遠出するのも珍しくないし……」

「でもね……その人はね………………もう10年以上も行方不明なのよ……」

「じゅ……10年!?!?」


 予想外の長期間にレイミも思わず叫んでしまう。


「そ、そんなに長い間姿を見せて無いんですかニャ!? 道理で私も知らないはずニャ……」

「ええそうよ……」

「もしかして、ほ、他の国で暮らしているとか……?」

「目撃情報を求めたんだけど、やはり全然手掛かり無いのよ。他の冒険者達にも聞いたけど誰も知らないのよ。まるで忽然と消えたかのように……」

「それって……つまり……」


 これだけの長期間の行方不明。となれば答えは一つしか無かった。


「やっぱり……もう……生きてはいないと思うニャ……」

「そう思うのが自然よね……」


 冒険者という命がけの職業である以上、そう思われるのは当然であった。

 フローラもそれを否定はしなかった。しかし納得してない表情をしている。


「でも判断に困るというのはどういうことなのニャ?」

「実はこの人を死亡者判定にするかどうかについて未だに議論されているのよ」

「どうしてそこまで特別扱いされているんですかニャ?」

「Sランク冒険者の中でも実力が評価されていたの。実際にどんなモンスター相手でも倒してきたし、危険な場所からも帰還してきたから不死身なんて呼ばれていたのよ」

「へ~。そんなにすごい人だったのニャ……」

「だからこそまだ生きていると信じて疑わない人が居るのよ。まぁその気持は分かるけどね……」


 フローラは自嘲気味に笑った後に何度目かのため息をついた。


「話を聞いてるとすごそうな人なのニャ。でも10年も姿を見せないとなるとさすがに厳しいと思うニャ……」

「だよね……」


 生存が絶望的と言っていいほどの年月。しかしそれでもフローラは諦めていなかった。


「……うん。やっぱり保留にしておくわ。ごめんなさいね。変な話に付き合って貰ったって」

「聞いたのは私のほうニャ。気にしなくてもいいニャ」

「もう少ししたら整理も終わるから、後で一緒にご飯食べよっか?」

「はいニャ!」


 元気よく答えるレイミを見て微笑むフローラ。そして整理作業を再開した。


 ちなみに彼女達が見ていたリストの名前には〝ジークフリート〟と記載してあった。




 ゼスト達が住む屋敷の前に、豪華な馬車が停まった。そして中から1人の青年が降りてきた。

 今降りてきた彼はスーツのような立派な服装をしていて、顔立ちもよくイケメンと言っていいほどの姿をしている。

 そんな美青年――レオンはゼストの屋敷前で立っていた。


「ふぅ……」


 しかし降りてから動かずにその場で立ち止まっていた。

 数メートル先には玄関があるが、そこに向かおうとはしていなかった。

 レオンがゼストの屋敷までやってきた理由。それは依頼されていたとある人物・・・・・の捜索状況を報告するためであった。


 いつもなら笑顔を絶やすことは少ないレオンだったが、今は真剣な表情で悩んでいた。


「やはり…………伝えるべきですかね…………」


 その場で数分程度悩んでいたが、ようやく顔を上げて正面を向いた。

 深呼吸をし、決心した後に、玄関に向かって足を進めた。

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