第124話:帰還

 リリィが帰ってきてからは全員で朝食を頂くことになった。

 どうやらリリィは族長と一緒に墓参りに行っていたようだ。そこで何を話したのか詳しくは聞かなかったが、嬉しそうにしていたので上手くいったようだ。

 これでカルラさんも一安心したことだろう。


「さて。んじゃそろそろ帰ろうか。長居するのも悪いしね」

「そうね。楽しかったけどずっと居るわけにもいかないもんね」

「泊めて頂いてありがとうございました。ご飯も美味しかったです」

「そう言ってくれると僕としても嬉しいよ。また皆で来てくれてもいいんだよ。いつでも歓迎するさ」


 ここは居心地が良くて楽しかった。

 いつかまた訪れようと思う。


「リリィもいいか? そろそろ出発するぞ」

「うん! いつでも行けるぞ!」

「なら行こうか。ジークさんありがとうございました。リリィのことは任せて下さい。きっと次はもっと強くなってますよ」

「それは心強い。次会うのが楽しみだ」

「それではまた」


 リリィも大剣を担いでから振り向く。


「とーちゃん! 行ってくるね!」

「ああ。行ってらっしゃい。たまには帰ってくるんだぞ」

「うん!」


 そして俺達は家を出ることになった。

 家から少し離れた所で止まり皆に向かって話そうかと思った時、遠くから声がしてきた。


「おーい! もう行くのか?」

「あ、長だ! うん今から出るところだよ!」


 カルラさんは俺達の姿を見るなり近くまで寄ってきた。


「どうしたの?」

「いやなに。見送りたかっただけだ。しばらく会えなくなると思うと少し寂しくなってな」

「アタシも寂しいけど大丈夫だよ。絶対またここに帰ってくるから!」

「そうか……!」


 族長もいい笑顔だ。

 恐らく心の内を打ち明かしたことで大分親密になったんだろう。


「あと君にも世話になったな。ありがとう」

「俺は話し相手になっただけですよ」

「よければまた里に来てくれると嬉しい。次はアタイも一緒に歓迎するからさ」

「はい。いつかきっと来ますよ」


 さて。後は帰るだけだな。


「じゃあ3人とも俺に掴まっててくれ」

「え? どうしたの急に?」

「何かあるんですか?」

「今から家に帰るんだよ。そのために俺に触れといて欲しいんだ」

「……???」


 3人とも頭に?がついたような表情で見つめてくる。


「どういうこと? ゼストを掴むと家に帰れるの?」

「あーそっか。言ってなかったか。帰りは『リターン』っていうスキルを使って戻るんだよ」

「リターン? そんなスキルがあるんですか?」

「うん。これは自身が設定した場所に一瞬で戻れるスキルなんだよ。自分以外の他のプレイヤーも同時に連れていける仕様だ。帰る時はこれで戻るつもりだった」

「へー。便利なスキルが使えるんだね。さすがリーダー」


 このスキルは詠唱が長くて安全な時にしか使えないんだよな。1分ぐらい完全に無防備になるから狩場で使うと危険が伴う。


「……あ! もしかして! 闘技場のあった街から帰る時に不思議なこと言ってましたよね? あれってまさか……」

「ん? ああそうだよ。リターンで帰るつもりだったんだよ。つーかよく覚えてるな」

「そういえばそんなことあったわね。すっかり忘れてたわ」

「う、うん……。なぜか気になっててずっと頭に残ってたの」


 リターンは設定した場所に戻ることができるので、基本的には安全な拠点に設定するのが普通だ。

 俺が家が欲しかった理由の1つでもある。


「? みんな何の話してるんだ? さっぱり分からないぞ……」

「そっか。リリィはまだ居なかった頃のことだもんね。知らなくて当然だわ」

「前にゼストさんと色々あったんですよ。帰ったらお話しますよ」

「う、うん」


 今となっては懐かしいな。

 あの時はラピスが大変なことになっていたが、今ならリリィが居るからあんなことにはならないだろう。


「まぁ別に普通に来た道を戻ってもいいんだけどな。それならお前らもいい経験値稼ぎにもなるし」

「う……それってまたあの森を通るってことよね……?」

「お、お姉ちゃん……大丈夫?」

「あの森の出てくるモンスターはちょっと苦手というか……」


 出現モンスターはどれも昆虫型のモンスターばかりだしな。

 しかもどれも素早かったり装甲が分厚かったりするもんだから、ラピスにとっても戦いにくい相手ばかりのようだ。


「冗談だよ。それは今度ここに来るときの楽しみにとっとけ」

「そ、そうね……」

「じゃあいくぞ。俺に掴まってろ」


 3人とも俺を中心に集まって体を掴んできた。

 そしてスキルを発動させて長い詠唱が始まった。

 そんな最中にカルラさんが叫んできた。


「リリィ! お前ならきっとサリィのように強くなれる! がんばれよ!」

「うん! 長がビックリするぐらい強くなってくるよ!」

「それは楽しみだ! また会おう!」


 そしてスキルが発動した。




 目の前には見慣れた室内の光景。無事に家に到着することができた。


「おー。本当にすぐに戻ってこれたわ……」

「便利なスキルですね!」

「すげー!」

「まぁな。つっても詠唱長いから咄嗟には使えないのが難点だけどな」


 ついでに言えばクールタイムも長く、1日に1回しか使えない。

 それを差し引いても便利なのは変わりないけど。


「あたしは部屋に戻らせてもらうわね」

「私も一度部屋に戻りますね」

「おう」


 そして2人はこの場から離れていった。

 ふと隣にいるリリィが気になって振り向く。


「しかしリリィの父親が竜人族じゃないってのは驚いたな。というかなんであの里で暮らしてたんだ? あまり接点が無さそうな気がするんだけど」

「んとね。確か、かーちゃんがとーちゃんに勝負を挑んだんだって。それでとーちゃんが勝ったから、その時にかーちゃんが惚れて付き合い始めたって言ってた!」

「へ、へぇ……そんなことがあったのか……」


 リリィは母親似だろうな。間違いない。

 というかいきなり勝負を挑まれたわけか。ジークさんも困惑しただろうな。

 当時の状況が目に浮かぶな……


 ………………


 …………あれ。まてよ?


 確かカルラさんは武術大会で勝ち残ったから族長の座についたと言ってた。つまり実力的には竜人の中でトップクラスと言っても過言ではないだろう。

 そんな相手にリリィの母親は互角に渡り合ったという。つまり実力はほぼ一緒だと言える。


 そんなに相手に……勝っただと……?


 竜人でもない普通の人間が……?


 マジで……?


「? どうしたの? 急にアタシの顔を見つめたりして」

「………………い、いや……何でもないんだ……」

「???」


 リリィの……その強さの根源が見えたような気がした――

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