第123話:父親の願い

 朝になり目が覚めてボーッっとしていると、いつもと違う天井が見えてきて少し混乱してしまう。


「…………ああそっか」


 そういやリリィの実家に泊ったんだっけか。

 昨日はあの後に戻ってきてから皆に心配されてたんだよな。説明したら一応は納得してくれたけど。

 それからは晩御飯をご馳走になってから寝たんだった。


 起き上がってから居間に行くと、既にジークさんが起きていた。


「おはようございます」

「おや。おはよう。グッスリ眠れたかい?」

「は、はい」

「それはよかった。他の子はまだ寝てるのかな?」

「ラピスもフィーネもまだ起きてないですね」

「そうか。ならもう少ししたら朝ごはんの用意するよ。リリィはまだ戻ってきてないし」

「え?」


 あれ。そういえばリリィの姿が見えないな。


「リリィはまだ寝ているんです?」

「いや。朝早く起きたんだけど、丁度その時に長がやってきてね。リリィを連れてどこかに出かけてしまったよ。なにやら二人きりで話がしたいそうだ」

「……そうですか」


 二人きりで話か……

 間違いなく昨日の件だろうな。

 積もる話もあるだろうし、少し時間かかりそうだ。


「………………」

「………………」


 その後は会話も無くお互いに黙ってしまった。

 こっちはリリィの父親と二人きりで色々と気まずい……


 早くラピスかフィーネが起きてこないかな。

 昨日は打ち解けていて会話も進んでたみたいだし、俺だけだと会話が続かない。

 どうするかな……


 ……そうだ。

 いい機会だからあのことを聞いてみるか。


「あの、ちょっといいですか?」

「うん? どうかしたのかい?」

「リリィが持っていた剣なんですけど、なんであれをリリィにあげたんですか? リリィにはまだ早いというかレベルが足りないというか……」

「ああうん。言いたい事は分かるよ。リリィがレベル不足だから武器の性能を引き出せないと言いたいんだろう?」

「そ、そうです」


 あ、やっぱり適正レベルの事は知っていたのか。

 それなら尚更あの剣を渡したのかが気になる。


「それに関してはあまり心配してなかったかな。ある程度のレベルになるまではスキルが無くても戦っていけると信じていたし」

「へぇ。かなり信頼してたんですね」

「まぁね。サリィも似たような状況だったらしいし。なら娘のリリィもそれぐらい問題無いと思ってね」

「そ、そうなんですか……」

「というか竜人族はスキルに頼らずに戦えるみたいだからね。あまり深く考えてなかったみたいだよ」


 なるほど。

 脳筋思考なのは竜人族だと珍しくないらしいな。


「後はそうだな。リリィがあれを特に気に入ってしまってね。なかなか言い出せなかったというのもあるかな。小さい頃から持ち出していたからね」

「へ、へぇ……」


 まさか子供の頃からあの大剣を振り回してたのか……?

 リリィならありえそうだ……


「リリィはそんな小さい時から大剣を持ってたんですか……」

「それに関しては僕のせいかもしれないんだ」

「え? 何かあったんです?」

「リリィが幼い頃から僕が冒険してた話を聞いていたからね。そのせいで村の外のことに興味が湧いたみたいなんだ。それであの剣を持っていつかは村から出てみたいと思ってたんだろうね」


 そういえばこの人は元からここの住人じゃなかったんだっけ。

 やっぱりというか昔は冒険者だったんだろうな。


「あれから成長して大きくなった頃に旅に出たいと言い出したんだ。村を出たそうな雰囲気だったしね。本当は僕も付いていきたかったんだけど、結局リリィ一人で旅立つことになったんだ」

「やっぱり心配だったんです?」

「そりゃあ心配するさ。大事な娘だからね」

「だったらどうして一緒に付いて行かなかったんですか?」

「僕はここから……村から離れたくなかったんだ」


 そういって少し悲しそうな表情をしだした。


「何か事情でもあるんです?」

「これは僕個人の問題なんだ。この地で妻を……サリィを失ったからね……」


 ああ……そうか。

 そういう理由なら仕方ないか……


「僕はこの村で骨を埋めるつもりでいる。だからそれまではここを守りたいんだ。それまでこの地を離れたくないんだよ」

「そういうことだったんですね……」


 なるほどね。

 父親としてリリィは心配ではあるが、嫁が眠っているこの地を守りたい気持ちもある。

 リリィが旅に出たいと言い出した時は相当悩んだだろうな。


「でも今は安心しているよ。なんせゼスト君が居るからね」

「え? 俺が?」

「リリィから話は聞いているよ。君のことはかなり信用しているみたいだ。あんなに楽しそうに他人のことを話すリリィは初めて見たよ」

「へ、へぇ……」


 何を言ったのか気になるな……

 変な事を話してなければいいが……


「そこでゼスト君に頼みがある」


 そういってから姿勢を正して俺の正面に移動し……


「これからもリリィのことをよろしく頼む」


 そして頭を下げた。


「え、あ、あの……いきなり言われても……というか俺でいいんですか?」

「ああ。君達になら安心して任せられると思った。それだけの実力はあるみたいだからね。それにかなり仲が良さそうだったし。ラピスとフィーネという子と一緒に居ると楽しそうにしていたしね」


 あの3人はいつも楽しそうにはしているからな。

 どうやら色々と気が合うみたい。


「だからこんなことを頼めるのは君達しか居ないと思ったんだ。リリィはまだ知らないこともあるし迷惑もかけるかもしれない。それでもあの子に外の世界を冒険させてほしいんだ」

「それで俺に……?」

「これは父親としてのお願いだ。リリィのことはこれからも仲良くしてやってほしいんだ」

「…………」


 そこまでして俺達のことを信頼してくれているのか……

 だったら俺もその期待に答えないとな。


「顔を上げてください。俺達はこれからもパーティ継続するつもりですよ」

「! そうか! それはありがたい!」

「リリィはそこらの冒険者なんかより実力はあるし、前衛として十分役に立ってますよ。ラピスもフィーネも頼りにしているし、お互いに欠点を補うように動けています。リリィは立派なパーティの一員ですよ。だからこれからもリリィと一緒と共に行動するつもりです」

「ありがとう……君達と出会えてよかった」


 リリィはまだまだ粗削りな部分もあるし足りないところもある。しかしそれらはこれから学んでいけばいい。

 というかあの2人にとってもリリィを信用してるし、今さら他の奴に任せられないしな。

 俺抜きで3人での動きに慣れてきたんだから、この面子を変えるわけにはいかん。


「本当によかった。これで安心して過ごせるよ。あとは……そうだな……できればでいいんだが……」


 何やらブツブツと喋り出した。


「どうかしたんです?」

「……ああいや。何でも無いんだ。これは独り言なんだがね」

「?」

「できれば僕が生きている内に孫の姿を拝みたいんだよなぁ……」

「!? あ、あの……それって……」

「いやいや。今のは独り言だ。気にしないでくれ。はっはっは」


 今のは冗談…………………………だよな?

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