第120話:父親
リリィが先導してその後を追っている間に周囲を見回す。竜人の里というだけあって他にもちらほら出歩く人達が見えた。
よく見てみると、女の人はほぼ全員がおっぱいが大きかった。ある程度成長してる人は皆大きい。
そういや初めてリリィ出会った日に、自分のおっぱいが他と比べてどれだけ大きいのか理解してないような口ぶりだったのを思い出した。
だけど今なら分かる。こんな環境に居たのならあんな反応になるのも納得だ。
リリィや族長が特別に大きいんじゃなくて、竜人にとってはあれくらいが普通なんだろうな。
この村に住んでいたらEカップぐらいなら貧乳扱いされそうだ。
「あそこがアタシの家だぞ。なんか懐かしいなー」
そんなくだらないことを考えていたらいつの間にか到着してたみたいだ。
リリィの前方には古そうな家が建っていた。あそこがリリィの実家なのか。
「こっちこっち。みんなも入って!」
さていよいよリリィの父親と出会うのか。
なぜか緊張してきた……
「父ちゃんただいまー!」
そしてリリィが元気よくドアを開けて家の中に入った。
すると……
「……! おお! リリィ! 帰って来てたのか! おかえり!」
家の中に居たのは、優しそうなおっさんだった。
「元気そうで安心したよ。無事でなによりだ」
「大丈夫だって言ったじゃん! 父ちゃんは心配性だなぁ」
「娘が1人で旅に出るんだから心配もするさ。でも本当によかった。リリィが無事で居てくれて安心したよ」
…………普通だ。すごく普通だ。
背は高く体格がいいこと以外は、どこにでも居る普通の『お父さん』って感じだ。
あの人がリリィの父親なのか……
「おや? その人達は誰だい?」
「みんなアタシの仲間だよ! 街に行った時に3人に出会ったんだ。それでずっと一緒に組んでいるんだよ」
「ほぉ。リリィのお友達か」
「みんな入っておいで!」
リリィに急かされて俺達は家の中へと入っていった。
「僕はリリィの父親のジークだ。まさか3人もお友達を連れてるなんて驚いたよ」
「お、俺はゼストです。リリィとは偶然の出会ったというか成り行きというか……」
「あたしはラピスよ。リリィにはいつも助けられてるわ」
「私はフィーネです。リリィさんは強くて頼りになってます」
「皆よく来てくれたね。疲れただろうからここで休んでいくといい」
俺達は言われた通りに空いたスペースに座ることにした。
「急だったもんで何も用意してないんだ。大したおもてなしができなくてすまない。事前に知っていたら歓迎したんだが……」
「い、いえいえ。急にやってきた俺達が悪いんで気にしないでください」
「しかしリリィのお友達が来てくれたのに何もしないのも気が引けるな。ふーむ……そうだ。今日の食事は少し豪華にいこうか。3人とも今夜はここに泊っていくといい」
「え? いいんですか?」
「ああ、もちろんさ。寝床は余っているからね。少しぐらい増えても大丈夫さ」
まさかリリィの家に泊まることになるとはな。
まぁここは言葉に甘えて泊まらせてもらうことにしようか。
「それじゃあ……お世話になります」
「ははは。そんなに固くならなくてもいいさ。もっと自由にくつろいでもいいんだよ?」
「はぁ……」
「いやぁそれにしても……」
俺達のことをジロジロと見つめてくる。
関心があるというよりも驚いているような表情だった。
「3人もお友達ができたとはなぁ。正直言って予想外だったよ」
「そんなに驚くことなんです?」
「リリィが幼い頃に母親を亡くしてから男手ひとつで育ててきたからなぁ。そのせいか少々やんちゃに育ってしまったからね。だから他の場所で友人ができるか心配してたんだよ」
「ははは……」
リリィの性格を『やんちゃ』の一言で片づけられた事についてすごーくツッコミたかったんだが、グッっと堪えて我慢した。
「もう! 父ちゃんは心配しすぎなんだよ! アタシだって仲間ぐらいできるもん!」
色々と言いたいことはあるが、ここで口出しするのも野暮だろう。
「ごめんごめん。でも父親としては心配の一つぐらいはするさ。リリィは僕の大事な娘なんだからさ」
しかし本当に普通だ。
この人がリリィの父親だなんてビックリだ。
リリィの性格的にもっとワイルドな感じだと思ってたんだがな。イメージと全然違った。どこにでも居そうな優しそうなお父さんといった雰囲気だ。
うーむ。父親は普通なのにリリィはどうしてあんな脳筋になったんだろうな。
こんなにも普通で優しそうなのに……
……………………
……いや待て。おかしいぞ……
この人…………
よく見てみたらおかしい。
リリィの父親だったらあるべき物が無いからだ。
だって……だってこの人は……
「……あ、あれ? 無い……?」
「ん? どうしたのよ?」
「ジークさんの頭……角が無い……?」
「え?」
フィーネも違和感に気づいたようだ。
そう。ジークさんの頭にはリリィのような角が生えていない。
竜人だったらあるべき特徴的な角が見当たらないのだ。
「あっ! 本当だわ! リリィみたいな角が無い! 何故かしら……?」
「ん? ああ。そのことか。実は僕はこの村の生まれじゃないんだ。他所からこの場所にやってきたんだよ」
「そ、そうだったんですね……」
なるほど。この人は普通の人間なのか。ということはリリィはハーフだったわけか。
だったら性格が親に似てないのも納得……なのかな?
「ところで今日はどうしたんだい? 帰って来てくれたことは嬉しいんだけど、それ以外に何か用でもあるのかい?」
「あ! そうだった! 剣を返すんだった! ゼストお願い!」
「あいよ」
インベントリからリリィから預かっていた大剣を取り出す。それをリリィに手渡した。
さすがにこのレベルの重量の大剣を2本も担ぐのは大変だろうと思って預かっていたのだ。
「これ父ちゃんに返そうかと思ってさ。いつかは返そうかと思ってたんだけど、中々そんなタイミングが無かったんだ。でもゼストのお陰でやっと返せるチャンスがきたんだよ。今日来たのはこれが目的なんだ」
「いいのかい? 前にも言ったけど、それはリリィがずっと使ってていいんだよ? そのつもりで与えたんだから遠慮しなくてもいいのに」
やはり返却されることは想定して無かったみたいだな。
一生リリィの物としてプレゼントしたつもりなんだろう。
「でもさ。やっぱりこれは父ちゃんの物だからさ。貰いっぱなしはよくないと思って」
「しかしだな……」
「父ちゃんの剣もすごく気に入ってたし、強かったんだけどさ……だけど……」
「だけど?」
「……これからはアタシ1人……いや、仲間と一緒に強くなりたいんだ! 父ちゃんの剣に頼らずに強くなれることを証明したいんだよ!」
「リリィ……」
へぇ。リリィのやつそこまで考えていたのか。
脳筋ではあるが、リリィなりに色々と悩んでたんだな。
「大丈夫だって。アタシには新しい剣があるから! これはとっても強いんだぞ!」
「ほう……」
リリィは背負っていた大剣を見せつける。
するとジークさんは興味深そうに見つめた。
「ふむ……中々の業物みたいだな。持ちやすいように工夫がされてるし、性能もリリィに会うように調整されているようだ。これはゼスト君が作ったのかい?」
「いえいえ。俺じゃなくて腕のいい鍛冶師が作ってくれたんですよ」
「ほうほう。ここまで丁寧に仕上げるとは相当な腕前のようだな」
すごいな。剣を軽く見ただけでそこまで見抜くとはな。
「確かに、これ程の腕を持った鍛冶師と知り合いなら問題は無さそうだ。これならリリィでもやっていけるな」
「だろ? だから大丈夫だって言ったじゃん!」
「うん。安心したよ。そういうことなら受け取ろう。ありがとう」
こうして無事に大剣を引き渡し終えることができた。
それからは雑談しつつ日が暮れていった。
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