第118話:脳筋戦法

 遭遇したモンスターを全て倒し、どんどん森の奥へと進んでいく。

 3人とも強くなってきているお陰か、特に苦戦することなく順調だった。

 具体的に指示することなく動けているので、俺もサポートに専念することができた。


 このまま問題無く辿り着けると思っていた時だった。

 遠くから何かが動いてる音がしてきたのだ。


「何だろう? またモンスターかな?」

「かもね。ここらで待ち構えることにしましょ」

「アタシが前に出る。みんなは下がってて!」


 リリィが大剣を構えると、他の皆は少し下がることにした。


 そして徐々に音が大きくなり、小枝を薙ぎ倒しながらやってきたのは――


「!? な、なにあれ!? 大きいわよ!」


 姿を現したのは巨大なカブトムシ型のモンスターだった。


「あいつはロックビートルだな。それなり強いから注意しろ。あの大きな角で攻撃してくるぞ」

「この森に出てきたモンスターの中で一番強そうね……」

「すごく頑丈そう……」


 岩のように固い装甲をしているからな。見た目通り防御力も高くなっている。

 さすがに2人とも緊張しているようだ。


「こいつは初めて遭遇したけど関係ない! どんなやつだろうがぶっ飛ばしてやる!」


 リリィが叫んだ後に突っ込んでいく。


「やぁぁぁ!」


 その勢いで大剣をロックビートルに向かって振り下ろそうとする。


 だが――


「――ッ!?」


 ガキンッ!


「う、受け止められた……!?」


 ロックビートルは器用に動いて大剣を受け止めたのだ。


「リリィの攻撃を簡単に防ぐなんて……あの角は厄介ね……」

「でも今の内なら……!」

「あっ! そうね! チャンスよ!」


 2人はすぐに動いて武器を構えた。


「食らいなさい……《ソニックアロー》!」

「私も………………《ファイヤーアロー》!」


 2人の同時攻撃がロックビートルに襲い掛かる。

 しかし……


「え……」

「うそ……」


 ラピスの放った矢もフィーネの火の矢も装甲に弾かれてしまったのだ。


「そ、そんな……あたしの攻撃が全然通らないなんて……」

「私のファイヤーアローも全然効かないみたい……」


 恐らくこの森で出現するモンスターの中では一番の防御力を誇るはずだ。

 並大抵の攻撃は通らない。


「だったら……フィーネの炎の槍しかないわ! あれなら一番威力あるしいけるはず!」

「そっか! フレイムジャベリンならきっと……」

「落ち着け2人とも。ロックビートルはかなり防御力があって簡単にはダメージは与えられない。でもそれは特定の部分での話であって――」

「やぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


 リリィの叫びで思わず振り向く。いつの間にかロックビートルの側面に移動していたようだ。

 そのまま大剣を振り下ろして斬ろうとしていた。

 しかし……


「ぐっ……か、固い……! こいつ背中は岩みたいに固いぞ……!」

「だから言っただろ。並大抵の攻撃は弾かれちゃうんだよ。だから――」

「だったらスキルを試してやる!!」

「えっ……」


 リリィが大剣を振り上げてスキルを発動させた。


「これなら……《パワースラッシュ》!!」


 勢いよく振り下ろされた大剣がロックビートルに直撃した。

 その衝撃のせいかロックビートルが少し揺れたのだ。


「………………は?」

「1回じゃだめか……なら何度でもやってやる!! 《パワースラッシュ》!!」


 再び大剣が直撃。

 だが今度は弾かれることなく、攻撃した部分にヒビが入っていた。


「もう一回! 《パワースラッシュ》!!」


 同じ部分に直撃すると、今度は目に見えて大きな亀裂が入っていた。


「今度こそ……《パワースラッシュ》!!!!!」


 そして振り下ろされた大剣は装甲を破壊し、生身の部分を切り裂いていた。


『――――――!』


 さすがに効いたのかロックビートルが苦しそうにもがく。


「これで……トドメだ!」


 装甲が破壊され生身が露出した部分に向かって大剣を勢いよく突き刺さした。

 逃げようと動くロックビートルだったが…………すぐに力尽きて動かなくなった。


「や……やったー! 倒したぞー!」

「……マジかよ」


 やりやがった。まさか装甲破壊するまで殴り続けるとはな……


「す、すごいわね……リリィ1人で倒しちゃったわよ……」

「さ、さすがです……」

「んなアホな……」


 正直ビックリしている。さすがにリリィでも装甲を貫けないと思っていたからだ。

 少なくとも俺が同じ条件で試したらまず無理だと思う。


「ね、ねぇ。あのモンスターはああやって倒すのが正解なの……?」

「い、いや……正攻法じゃないよ。さすがに今のレベルでは火力不足……だと思っていたんだが……」

「というと?」

「ロックビートルは防御力が高くて簡単にはダメージは与えられない。でもそれは特定の部分での話であって一部はそうじゃない。腹部は柔らかくダメージが通りやすいんだよ。だから態勢を崩してやれば攻撃のチャンスが生まれる……って言いたかったんだが……」


 刺さった大剣を抜いてから満足しているリリィの向く。


「まさか装甲を難なくぶち破るとは予想できなかったんだ……」

「さ、さすがリリィね……」

「あはは……」


 脳筋も極まるとあんなパワーが出るんだな……

 恐らくレオルドさんが作ってくれた剣のお陰でもあるんだろうが、それでもあのパワーは予想上のようだ。

 竜人恐るべし……

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