第115話:リリィの悩み
皆が新しい武器を受け取ったので、明日からまた討伐を再開する予定だ。
武器も新調したしどこへ行こうかと考えている時だった。リリィが俺の部屋にやってきたのだ。
「ゼストいるか?」
「ん? どうした? 俺に用か?」
いきなりドアを開けて入ってくるリリィ。こういった行動にも慣れてきた。
「ちょっと言いたい事があるんだけど……聞いてくれないか?」
「言いたい事? どうしたんだ急に」
「明日の狩りなんだけどさ。アタシは行けないと思うんだ」
「へ?」
何だろう。リリィらしくない。
新しい武器が手に入ったんだから、『早く試し切りしてみたい!これでどんな奴でもぶっとばしてやる!』とか言いそうなのに。
「行けないって……理由を聞いてもいいか? 新武器を試したいじゃないのか?」
「そうなんだけどさ。アタシはしばらくここを離れようと思ってるんだ」
「離れる? 突然どうしたんだ。何かあったのか?」
「少し悩んだけど……一度家に帰ろうかと思うんだ」
「故郷に戻りたいのか?」
「うん。だからしばらくここに戻ってこれないと思う」
なるほどそういうことか。
実家に戻りたいから明日は狩りに行けないと。そう言いたいのか。
「しかし唐突だな。何があったんだ?」
「アタシが持っていた剣……これを父ちゃんに返したいんだ」
そういって元から持っていた大剣を取り出す。
「確かそれは父親から貰ったと言ってたな」
「うん。父ちゃんがアタシの為にプレゼントしてくれたんだ。それからずっと使ってた」
「それを返したいと。その為に実家に戻るわけか。しかしなぜ返しに行くんだ? それはリリィにプレゼントしたやつなんだろ?」
「そうなんだけど……」
恐らく父親もリリィに一生使ってもらいたくて譲ったはずだ。リリィの口ぶりだとそう感じる。
わざわざ返しにいくのも手間が掛かるしする必要も無いと思うだけどな。
「ひょっとして新しい剣を手に入れたからか? だから今まで使ってたやつは元の持ち主に返しにいきたいと。そういうことか?」
「うん……」
だろうな。
あんなに大きい剣は2つも持ち歩けないし、どうしても片方は別の場所に保管しておくしかなくなる。
「前にも言ったけどさ。父親から貰った剣は結構強いと思うぞ。今のリリィには扱えないだけで、レベルが上がって強くなってからまた使えばいいんだよ。わざわざ返しに行かなくてもいいんじゃないか?」
父親の剣のほうが性能面では上回る。現状はリリィの適正レベル不足で真価を発揮できていないだけだ。
新しい剣は今のレベルに適しているのであって、今後はまた別の武器になるかもしれない。そう考えたら適正レベル不足でも保管しておく価値はある。
「それも考えたんだけどさ。これは父ちゃんの物なんだ。貰った時はすごく嬉しかったんだけど、やっぱりいつまでも貰いっぱなしはよくないと思ったんだよ」
「そっか」
「この剣も父ちゃんに戻りたがってるような気がしてさ。アタシよりも父ちゃんが持っていたほうが相応しいと思うんだ」
リリィの父親がどういう人物なのかは知らない。けどこれだけの武器を預けるってことはそれだけリリィのことが心配だったんだろうな。
しかしよく考えたらリリィの父親ってどんな人なのか気になってきたな。
リリィにプレゼントした剣もそこらの武器屋では手に入らない程度には強い。そんな武器を持っていた父親ってどんな人なんだろうか。
リリィの父親かぁ……
………………
…………軽く想像してみたが、パンツ一丁で出迎えてきそうなイメージがするのは何故だろう……?
「ゼスト? どうしたんだ?」
「あ、い、いや。何でもない! ははは……」
「?」
いかんいかん。変な想像をしてしまった。
さすがにそんな変態なわけないよな。
「そ、それより、一度実家に帰るんだっけか?」
「そうそう。少し遠いから何日か戻ってこれないと思う。だからそれを伝えたかったんだ」
そういや工房で新武器を手に入れた時に、悩んでたみたいなこと言ってたっけ。あれはこういうことだったんだな。リリィなりに考えた結果なんだろう。
ならば丁度いい。
「リリィの実家ってどの辺にあるんだ? というかどっから来たんだ?」
「んとね。ここからたぶん北のほうにある山がある場所に住んでた!」
「ほうほう」
たしかあの辺りは森を超えた先は山岳地帯になっていた気がする。
そこそこ強いモンスターも生息していて、生半可な腕だと返り討ちに遭うだろう。
リリィはそんな場所を通ってきたというわけか。やはり竜人族というのはステータスが高いだけあって強いな。
「それなら俺達も一緒に付いていくよ。どうせ皆で狩りに行くんだ。それなら道中のモンスターを蹴散らしながら行こうぜ」
「! みんなも付いてきてくれるのか? いいの?」
「ああ。リリィさえよければだけどな。どうだ?」
「一緒に来てくれるなら歓迎するよ! みんなのことも父ちゃんに紹介したかったんだ! 少し心配してたから」
「なるほど」
大事な娘が旅立つんだから、そりゃあ親としては心配するだろうな。
「やっぱりゼストに出会ってよかった! アタシの為に剣も作ってくれてすごく嬉しかった!」
「だから作ったのはレオルドさんだってば……」
「でもゼストが居なかったら手に入らなかったよ。ありがとう!」
「え――」
リリィが両手を広げて近寄ってくる。
あれはまさか……!
「ス、ストップ! 待て待て! なにするつもりだ!?」
「え? 何って……抱きつきたかったんだけど……」
やっぱり……!
工房でされた時をまたやる気だったのか……
「嫌だった……?」
「そうじゃない。むしろ嫌なのはリリィのほうじゃないのか?」
「え? なんでアタシが?」
「いやだって……その……抱きつくときに……思いっきり……」
「?」
「その……胸に触るし……」
リリィはこういうところが無防備すぎるんだよな。
マジでどういう環境で育ったんだろうな……
「それがどうかしたの? 別におっぱいが触れたぐらいで気にしないぞ?」
「いやいや。リリィも少しは気にしたほうが……」
「だから気にしてないってば。ゼストになら触られても平気だぞ」
「へ? う、嘘だろ?」
「嘘じゃないって。何なら今やってみてもいいぞ」
まさか本当に……触ってもいいのか……?
リリィのおっぱいを……?
マジで……?
「……………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………いや止めとく」
「そう? ならいいけど」
「そ、それより今日はもう休んだらどうだ? 少し早いけど寝た方がいいぞ」
「そうする! じゃあお休み!」
「おう。お休み」
リリィはテンション高いまま部屋から出ていった。
……………………
…………少しもったいないことしたかも?
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