第111話:怪しい占い師

 武器を作ってくれる間は討伐にいけないので、しばらくは各々自由行動とすることにした。

 特にやることも無く暇になったからか、皆で街を散策することにした。


 しばらく歩いていると、ラピスが前方にとある店を見て指さした。


「ねぇねぇ。あの店行ってみない?」

「もしかして服屋?」

「そうそう。新しい服欲しいと思ってたところだったし、行ってみようよ」

「そうだね。寄ってみたいかも」

「じゃあ入ってみましょ」


 ラピスが先行して店に入ろうとする。

 それに続いてフィーネも後を付いていくが、俺は動かなかった。


「なら俺は待ってるよ」

「そう? なら3人で入ろっか」

「え? アタシも?」

「そうよ。リリィも新しい服ほしいと思わない?」

「いや別に……」

「いいからいいから。見るだけでいいから行きましょ」

「う、うん……」


 ラピスに引っ張られるようにしてリリィも店に入っていく。

 それから3人は服を物色し始めた。


「う~ん……あっ。これなんかリリィに似合いそうだわ! これとかどう?」

「服とかあまり気にしたこと無いし、よく分かんないや……」

「じゃあ一度身に着けてみましょうよ」

「リリィさんならきっと似合いますよ!」

「そこまでしなくても……」

「いいから。ほら早く!」

「え、あ、うん……」


 女子グループは盛り上がってる様子。まぁ楽しそうでなによりだ。けどこれはしばらく時間が掛かりそうだな。

 待ってるのも暇だし、俺は1人で散歩でもしてこよう。


 そう思い一声かけてから、俺はその場から離れることにした。




 それから歩き続けて広場にでも行こうと思い進む。そこならば店も多いし色々見て回ろうかと思ったからだ。


 そこで少し近道を通ることにした。

 その道は他よりも細くなっていて、人通りの少ない道だ。そんな道を進んでいた時だった。

 前方にテーブルが置かれていて、すぐ近くに誰かが座っている姿が見えたのだ。そいつは全身が黒いローブで覆われていて、明らかに怪しい格好をしていた。

 しかし俺は構わず進んでいく。だが近くを通り過ぎようとした時だった。

  

「そこの貴方。これから先不幸が訪れますよ」

「……?」

  

 いきなり声を掛けられてしまって思わず足を止めてしまった。

  

「このままだと不幸が貴方を襲い、絶望する未来が見えます」

「……何が言いたいんだ?」

「しかし私ならばそんな未来を回避させることが出来ます。どうです? ここで未来を占ってみたいと思いませか?」

  

 なるほどね。こいつは占い師ってわけか。通りで胡散臭い格好をしていると思った。

 よく見ると顔も布で覆っていて、目元ぐらいしか晒していない。

 ぶっちゃけあまり近づきたくない雰囲気だ。

  

「いや結構だ。興味無いし占いは信じてないしな」

「ですがこのままだと後悔しますよ。不幸な未来を回避したいと思わないんですか?」

「別に。その時はなんとかするさ。それじゃ」

「……!! ま、待ってー!」

  

 その場から離れようとした瞬間に腕を掴まれてしまった。

  

「……なんだよ」

「い、一回だけ……一回でいいから! 占ってみましょうよ! もしかしたら役に立つかもしれませんよ!?」

  

 身を乗り出して捕まえようとするとか必死すぎるだろこいつ……

  

「だから興味無いんだっての。やるなら他の人にやれよ」

「お、お願いします! 私に占わせてくださいぃぃぃ!」

  

 このままだと離してくれそうにないし、仕方ない。

  

「はぁ……分かったよ。少しだけだぞ」

「! あ、ありがとうございますぅ! ではこちらに座ってください」

  

 ようやく離してくれたので、テーブルをはさんで対面に座った。

  

「コホン……では始めますね」

「んで? さっき言ってた不幸とやらは何なんだよ」

「貴方には不幸が降りかかる呪いにかかっています。それを祓わない限り、いつまでも続くでしょう」

「ふ〜ん……」

「ですが安心しください。私ならば回避する術を持っています!」

  

 そういって横に置いてある入れ物に手を伸ばした。

  

「貴方はラッキーです! 偶然にも私は不幸を跳ね除ける事ができる道具を持っています! それはこの壺です! この壺はあらゆる災いから守ることができるとても神聖な道具なんです! これを持っていれば貴方も幸福な人生を歩むことが出来ます! 1つしか無いんですが、特別に貴方にお譲りします! 今ならたったの――」

「じゃあ俺はこれで」

「ま、待ってぇぇぇぇぇ! 帰らないでぇぇぇぇ!」

  

 立ち上がった瞬間に再び腕を掴まれてしまった。

  

「そういう商売なら他所でやれよ」

「ご、ごめんなさい……これは冗談です! 次は真面目にやるから帰らないで!」

  

 安っぽい壺を取り出した瞬間に嫌な予感がしたんだよな。

 こんな感じで不安を煽って物を売りつける商売をしているんだろうな。

  

「だったら最初からやれよ。俺は何も買わないからな」

「謝ります! 謝りますから!  もうしませんから!」

「次に同じことしたら今度こそ帰るからな」

「はい! 真面目に占いますから! ですから座ってください! お願いします!」

  

 このままだと離してくれなさそうだし、ここは付き合ってやるか。

 だがまた変な物を売ろうとしてきたら今度こそ帰る。

  

「そんで? 次は何をするんだ?」

「先程言っていた不幸についてです。貴方には不幸な未来が訪れる予感がします。それについて占ってみようかと思います」

  

 まだ言うか。言ってることが曖昧すぎて全然信用できない。

  

「じゃあやってもらおうか。その不幸とやらを回避できるんだろうな?」

「安心してください。今からそれを証明してみせます。これを使えば未来を見通すことが出来ます」

  

 占い師の手元には水晶のような丸い物体があった。

 こうしてみると本格的に占い師っぽい雰囲気が出るな。

  

「言っとくけどそれは買わないからな」

「し、しませんよ! これは大事な物なので売ったりしません!」

「じゃあどうするんだよ」

「これを使って貴方の未来を見てみます」

  

 そして両手をかざして変な動きをしていく。

  

「むむ……これは……ふむ……なるほど……」

「どうだ? 何か分かったか?」

「………………」

  

 どうやら集中している様子。

 最初からこうしていればスムーズに進んだのにな。

  

「………………ふむ。そういうことでしたか」

「どうした?」

「ごめんなさい。先程の言葉は訂正します。不幸が訪れるのは貴方ではありません」

「……は?」

  

 おいおい。いきなり前提が崩れたぞ。

 俺に不幸が訪れるんじゃなかったのかよ。

  

「どういうことだよ。さっきのは嘘だったてことか?」

「いえ。これは私が未熟だったせいです。あまりにも闇のオーラが大きすぎて見間違えたんです」

「なんだそりゃ」

「これから先、貴方には運命の出会いが待っているでしょう。その人との出会いで貴方の周囲は大きく変化するはずです」

  

 出会い……ねぇ……

  

「しかし運命の人は大きな不幸を背負っています。生まれてきたことを後悔するほどの不幸です。そのオーラがあまりにも大きく、貴方に覆い被っていたんです。それを見間違えたんです」

  

 あくまで自分は悪くないと。そう言いたいんだろうか。

  

「そんで運命の人とやらどういう奴なんだ?」

「どうやら女性みたいです。しかし周囲の人から疎まれ、家を追い出されたようです。しかし暗闇に覆われていて誰にも頼ることも出来ず、自分だけで必死に生き延びようとしています」

  

 どうして女性だと分かるんだろうな。そもそも家から追放されたのに暗闇ってどういうことだよ。

 実はその不幸な人は私でーす!とか言い出してきたら速攻で帰ってやる。

 とりあえずツッコまずに話の続きを聞いてみる。

  

「そんな状況に救いの手を差し伸ばすことが出来るのは貴方です! 貴方しかいません!」

「何で俺なんだよ。別に他の人でもいいんじゃないのか?」

「いいえ。これは貴方しか出来ません。貴方こそが運命の人なんです! 救えるのは貴方しか居ないんです!!」

  

 ビシッと指を突きつけてくる。

 すごい自信たっぷりな態度だ。

  

「ふ~ん……」

「あれ? 信じていませんね? 気にならないんですか?」

「運命の人って言われてもなぁ。本当に存在するならいつかは会えるんだろ? だったらその時に考えればいいだけだしな」

「そうですか……」


 というか信じてないしな。でも一応話は合わせておく。


「これで終わりか? もう他に無いよな?」

「そうですね。現状だとこれくらいしか分かりません。後は実際に確かめてみるしか……」

「そうか。じゃあこれで終了だな。そんじゃ俺はこれで」

「あー! 待って!」


 再び腕を掴まれてしまう。


「……今度は何なんだ? もう占いの結果は出たんだろ? なら用は無いはずだ」

「お代がまだです……」

「…………いくらだ?」

「銀貨1枚です……」

「…………」


 色々と面倒になったので、銀貨1枚取り出してテーブルの上に置いた。


「ほらよ」

「や、やったー! ありがとうございますぅぅぅ! これで久々にまともな食事ができます!」


 当分の間はこの道を使うのは止めよう。

 そう心に誓いながら離れていくことにした。

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