第110話:頼れる鍛冶師

 王都に戻った後、皆でとある場所に向かっている。

 もちろん行先は前にも世話になった例の工房だ。


 工房に到着し、中へと入った。


「すいませーん」

「……! おお! 久しぶりだな!」


 中には体格のいい50代くらいの男――レオルドさんが立っていた。


「今日はどうしたんだ? 嬢ちゃん達の武器を強化しにきたのか?」

「ああいや。今日は新しい武器を作ってもらいたくて来たんですよ」

「ふむ? 別にいいが、お主が使うのか?」

「俺じゃなくて、こっちの子の武器を作ってもらいたくて……」


 後ろに居たリリィに顔を向ける。


「…………ほう。これはまた珍しいな。竜人族か」

「うん! アタシはリリィってんだ!」

「儂はレオルドだ。その子の武器を作ればいいんだな?」

「はい。こんなこと依頼できるのはレオルドさんしか居なくて今日来たんですよ」

「ふむ。よかろう。そのくらいお安い御用だ」


 あっさりと引き受けてくれたな。

 そんな流れに不思議に思ったのか、リリィが首を傾げる。


「あれ? いいのか? アタシは何もしてないぞ」

「ゼストには恩があるからな。頼みとあれば武器なんていくらでも作ってやるわい」

「恩? 何かあったの?」

「まぁ色々とな」


 この人には神器を見せただけなんだけどな。それから性格が変わったみたいに接してくれている。

 リリィには後で事情を話してやろう。


「それで。どんな武器を所望だ?」

「出来ればこれと似たようなのがいい!」


 リリィは背負っていた大剣をレオルドさんの前に差し出した。


「これは何とも迫力のある武器だな……」


 この人でも驚くのか。このサイズの武器はあまり見かけないからな。


「けどこんなデカい物はロクに扱えんだろう? 別の剣にしたほうがいいのではないか?」

「アタシはこれくらいのがいい! だってどんな相手だろうがぶっ飛ばせそうだし!」

「そ、そうか……。まぁこだわりは人それぞれだから、これ以上は何も言わんさ……」


 色々言いたいことはあるんだろうけど、リリィの態度で察したのかそれ以上は説得を諦めたようだった。


「しかしその剣自体はなかなかの業物だ。よくそんな物が手に入ったな」

「これは父ちゃんから貰ったんだ! 気に入ったからずっと使ってる!」

「なるほどな……親から譲り受けた物だったのか。いや待て……ひょっとして……」


 レオルドさんは俺の方をチラッと見てきた。


「もしかして新しい武器を作るキッカケって……」

「予想通りかと……」

「そういうことか……」


 さすが腕利きの鍛冶師だ。リリィの置かれた状況をすぐに理解してくれたようだ。


「え? ど、どういうこと?」

「その大剣の性能が良すぎるせいでリリィには合わないってことだよ。身の丈に合った武器を使わないとスキルが増えないからな。つまりというわけだ」

「その通りだ」


 適正レベルを満たした武器を使わないと熟練度が増えないからな。だから新しい武器が必要なわけだ。

 これらの状況も全て察してくれたようだ。


「ふむ。事情は把握した。そういうことなら尚更他の武器が必要になるな。よし任せろ」

「お願いします」

「リリィとか言ったな。具体的にどのような物を望む?」


 リリィは少しだけ悩むが……


「んとね。どんな奴でもぶっ飛ばせそうなのがいい!」

「……うん? 出来ればもっと具体的に話して欲しいんだが……」

「強くて壊れないやつ!」

「………………」


 さすがにレオルドさんも困惑している模様。


「えーと……リリィはたぶん、重くなってもいいから頑丈な剣が欲しいらしいです」

「うん!」

「そ、そういうことか。しかし重くすると扱いにくいのでは……いや何でもない」


 リリィが持ってきた大剣を見てすぐに考えを改めたようだ。

 気持は分かる。女の子があんな重い武器を振り回せるとは思えないからな。


「重量を気にせず頑丈にするとなると……やれることが増えそうだな」

「やはり大変なんです?」

「なるべく重量を抑えつつ性能を求める人が大半だからな。しかしそれを気にせず作るという経験は殆どない。となると別の技術が必要になりそうだ」

「やっぱりそういった依頼をされた事は無いと?」

「それはそうだろう。どれだけ性能が良くても、重くて扱えないのなら意味が無いからな」


 さすがにこんな変わった武器制作の経験は少ないのか。


「試してみたいこともあるし、10日ほど貰えないだろうか」

「いいですよ」

「すまんな。こちらとしても手を抜きたくないし、可能な限り儂の出来る事を尽くしたいのだよ」


 以前は弓と杖を作ってもらった時は3日で終わらせてたっけか。

 けど今回は10日も必要ということは、それだけ難しい作業なんだろうな。


「ついでにそっちの嬢ちゃん達の武器も強化しておくよ」

「え? あたし達のも?」

「いいんですか?」

「そろそろ新しい武器が欲しくなる時期だと思ってな。それならついでに強化してやるさ」


 ラピスとフィーネの分もやってくれるのか。それはありがたいな。


「前に渡したやつを預けてくれんか。それを元に強化したいからな」

「だ、大丈夫なの? リリィの分もあるのに……」

「なーに。既にある武器を手直しするだけだ。大して労力はいらんさ」

「そういうことなら……お願いします」


 2人はそれぞれ持っていた武器を預けた。


「うむ。ではさっそく作業に入るよ。楽しみにしておくといい」

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