第109話:適正レベルの重要性

「やぁっ!」


 リリィが大剣でオークにトドメを刺す。

 周囲を見回してみるが、他にモンスターが居る気配が無い。今のが最後の1体だったようだ。


「しかしすごいわね……」

「何がだ?」

「だって、一番多くオークを倒したのはリリィだもん」


 リリィが活躍したのは間違いないだろう。この場での討伐数なら、リリィがトップだろうな。


「リリィさんは本当に強いよね。スキルも使わないであんなに戦えちゃうもん」

「そうよね。あたしはスキルに頼らないでリリィみたいに強くなれそうにないし」

「…………」


 そういやリリィのスキル構成はどうなっているんだろうか。

 ふと気になって聞いてみることにした。


「なぁちょっといいか?」

「ん? なんだ?」

「リリィはスキル構成をどうしてるんだ? 全然使ってないみたいだけど」

「そんなの無いぞ!」

「……は?」


 スキルが無い?

 いやいや。そんな馬鹿な……


「そうじゃなくて。リリィが習得してるスキルを教えて欲しいんだけど。まだ聞いてなかったしな」

「だからスキルなんて無いぞ。よく分かんないし」

「そんなわけ無いだろ。1つぐらい習得してるだろ?」

「無いってば。スキルとか無くても戦えるし!」

「…………」


 ……あれ?

 そういやリリィがスキルを使ってる場面を見た記憶が無い。

 まさか本当にスキルが無いのか……?


 嫌な予感がしてきた……


「リリィ。スキルツリーを見せてくれないか」

「スキルツリー? 何それ?」

「冒険者カードにあるやつだよ。見せてくれ」

「うん。いいぞ」


 リリィが自分の冒険者カードを差し出したので受け取る。

 そしてスキルツリーを見てみると……


「…………んなっ!?」


 初期スキルしかない……!? そんな馬鹿な!?

 しかも初期スキルすら手つかずだった。つまり本当にスキルを一切習得してないということになる。

 ありえない……こんなことがあるのか!?


 リリィは既にレベル30に達していた。そこまで戦闘経験があるのに、初期スキル以外のスキルが存在しないというのはありえない。

 ここまで育っているのなら、初期スキル以外にも習得可能スキルが増えているはずだ。けど現状は全く増えてない。


 馬鹿な……どうしてこんな状態になっているんだ……?


 レベル30にもなってスキルが全く増えないなんてことがあるのか?


 一体何があったんだ…………


 ………………


 ……いや。1つだけ心当たりがある。


 まさかリリィの武器は……


「な、なぁリリィ。その剣を俺に見せてくれないか?」

「うん、いいぞ。はいこれ」


 リリィから大剣を受け取ると、ずっしりとした重みを感じた。こんなのを振り回していたのか。

 これはやはり……


「《解析アナライズ》!」


 アイテムの詳細を確認できるスキルでリリィの大剣を見てみる。

 すると……


 ――――――――――――

 □メイルブレイカー

 攻撃力:970

 適正レベル:50


 ・確率で相手の防具を破壊する

 ・確率で相手の防御力をダウンさせる

 ・確率で与えるダメージが増加

 ――――――――――――


 嫌な予感が的中した。

 間違いない。習得スキルが増えないのはこの武器のせいだ。


「…………リリィはこの剣をいつから使ってたんだ?」

「うーんとね。ずっと前から使ってた。それは父ちゃんから貰ったんだ! だからそれ以外は使ったことない」

「なるほどな……」


 つまり最初から使い続けてきたわけか。

 もう疑う余地は無い。この剣が原因なのは明白だった。


「そういうことか……すまんリリィ。もっと早く気付くべきだった……」

「え? え? どうして謝るんだ!? 何かあったのか!?」


 スキルが増えない原因。それは適正レベルを満たしてないことにある。

 使ってる剣の適正レベルは50である。だから今のリリィが装備しても、適正レベル不足でペナルティを負うことになる。

 75%の攻撃力ダウンとアビリティが無効化されてしまうが、それ以外にも一番厄介なペナルティがあるのだ。


 それは『熟練度が増えない』ことである。


 初期スキル以外は、熟練度がある程度ないと増えない仕様である。つまり熟練度とスキルは切っても切れない関係にある。


 適正レベルを満たしてない装備を付けたまま戦っているとどうなるか?

 ……リリィのようなスキルが無い脳筋キャラが出来上がってしまう。


 だから必ず適正レベルを満たした装備を付けるわけだ。これは全プレイヤーの共通認識であり鉄則である。

 わざわざ満たしていない武器を使う必要性は無い。それこそパワーレベリングで使うぐらいだろう。

 無理にパワーレベリングしても結局スキルが増えないので、レベルだけが高い脳筋キャラになってしまうわけだ。


 ついでに言えば熟練度は経験値とは別計算なので、パワーレベリングみたいな方法が通用しにくい。

 結局地道にモンスターを狩るしかないのだ。


「ゼ、ゼスト? なんで黙っちゃうんだ!? アタシ何かしたのか!?」

「リリィ。もうこの剣は使うな」

「……え? な、何でだ?」

「スキルが増えないのはこの剣のせいだ。これのせいで熟練度が増えないからな」

「ど、どういうこと?」


 リリィに熟練度関係のことを言っても理解してもらえない気がする。


「とにかくだ。強くなりたいなら他の武器を使え」

「で、でも……ずっと使ってたし……問題無くぶっ飛ばせるんだから変えなくてもいいんじゃ……」

「オーク程度ならこれでも十分だったかもしれない。でもその内に通用しなくなってくるぞ。必ずどこかで頭打ちになる。スキルが無いってのはそれだけハンデを背負ってるってことなんだよ」

「…………」


 今までは竜人のパワーで倒せてきたかもしれない。しかしそんなの何時までも通用するはずがない。

 パワーだけでやっていけるほど甘くは無い。


「リリィはもっと強くなりたいんだろ?」

「……うん!」

「だったら尚更だ。この先も力任せでは打開できない状況に遭遇したらどうするんだ。そういう時にスキルがあれば突破できる可能性が出てくるかもしれないだろ」

「う……」


 リリィは脳筋ではあるが馬鹿じゃないはずだ。

 このままだと遠くない未来に限界がやってくる事には薄々気づき始めているはず。


「別に一生使うなと言ってるわけじゃない。今はもっと適した武器があるってことなんだ。強くなってレベルが上がったらまた使えばいい」

「…………」

「どうだ? 考え直してくれたか?」


 リリィは考え込んで迷っていたようだが、少し待つと顔を上げて見つめてきた。


「…………分かった。他の使う」

「そうか。強制染みた事を言ってしまって悪かった。でもこれもリリィの為にもなるんだよ」

「うん。ゼストのことは信用してるし、アタシのことを思ってくれたことは分かってる」


 これでリリィも更に強くなれるだろう。


「でも……アタシはそれしか持ってないぞ。他のは使ってことないし」


 確かにこのくらいの大剣となると入手手段が限られてくる。

 しかしそれも想定済みだ。


「安心しろ。リリィにピッタリな剣を作ってくれそうな鍛冶師を知っている」

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