第106話:依頼

 孤児院を後にしてそのまま家に帰ろうかと思っていた。しかしリーズのことが気になって頭から離れなかった。

 せめて一度でいいから会いたかったんだが、まさか既に孤児院から居なくなっていたことは予想外だった。

 ならばと思ってこっちから会いに行こうとしても居場所が不明。これでは一目見ることすら叶わない。

 無事であることが確認できたらそれでいいんだ。もし平和に暮らせているのなら俺からは何も言うことは無い。

 だがそれすら出来ないから気になって仕方なかった。


 せめて……せめて……居場所だけでも分かれば……


 ……そうだ。

 あの人なら……あの人なら何とかなるかもしれない。


 俺は自分の家に向かうのを止めてとある場所へと向かった。




 歩き続けてとある場所に到着した。

 そこは圧倒されるほどの豪邸を思わせる外観をしている。

 中に入るとメイド達が対応してくれた。俺の名前を出すとすぐに応接室まで案内ししてくれた。


 そしてしばらく待つと、ドアが開かれて1人の男が入ってきた。


「お待たせしてすいません。まだ仕事が残っていたもので遅れました」


 入ってきたのはニコニコと営業スマイルを絶やさないイケメン――レオンさんだ。

 ここはディナイアル商会の本店である。もしかしたらと思ってここまでやってきたのだ。


「悪いな。突然来ちゃって」

「いえいえ。ゼストさんなら何時でも歓迎ですよ。事前に連絡を頂けたのならこちらから迎えを出しましたのに」

「来る予定は無かったんだけど、ちょっと事情があってね。頼みたいことがあるんだ」

「頼み事ですか……聞きましょう」


 そしてレオンさんは対面に座った。


「それで頼み事とは?」

「人を……探して欲しいんだ」


 そう。この人ならリーズを探してくれると思ってきたんだ。

 商人の情報網ならば人探しも可能だと思いついた。なんせ俺の事も入念に調べ上げていたぐらいだしな。

 そして頼れるのはこの人しか居ない。


「人探し……ですか」

「ああ。実は前に世話になっていた孤児院のことなんだけど……」


 さっき孤児院であった出来事を話した。

 話し終えると、レオンさんは営業スマイルをやめて真剣な表情になっていた。


「……ということなんだ」

「なるほど。つまりそのリーズという子の行方が知りたいと?」

「ああ。そういうことなんだ。出来るか?」

「難しいですね……」


 やはりそう簡単にはいかないか。手掛かりが少なすぎるしな。

 だがここで諦めるわけにはいかない。


「もちろんタダでとは言わない。探してくれるのなら可能な限り払うつもりだ」


 そして金貨が入った袋を机に置いた。


「これは……?」

「金貨50枚ほど入っている。もし足りないのならもっと追加で出してもいい。これで引き受けてくれないかな?」

「…………」


 とはいっても殆どレオンさんからの報酬で貰った金なんだけどね。

 それをほぼ全て出すことにした。


「どうかな? 探してくれないかな?」

「…………それだけ本気……というわけですね?」

「ああ」

「……分かりました。引き受けましょう」

「! 本当か!」

「ゼストさんの頼みですからね。可能な限り協力しますよ」

「助かるよ」


 よかった。これで一安心かな。


「しかし難しいことには変わりありません。ですから結果は期待しないでくださいね?」

「分かってる。無理は承知の上だ」

「情報が入り次第お伝えしますので、後はお任せください。何かありましたらそちらに直接お伺いするので、わざわざここまで出向く必要は無いですよ」

「ありがとう。じゃあ後は任せるよ」


 それからレオンさんと別れて家に帰ることにした。


 俺が出来ることはやった。もうこれ以上は出来ることは無いだろう。

 本当に無事なのか確認できたならそれでいいんだ。例え会えなくても、本人が幸せになっているのなら諦めるつもりだ。


 だが引き取りにきた夫婦とやらはリーズを名指ししたみたいだからな。そこだけが気になった。

 数いる子供たちの中で一番可愛かったから選ばれた……という理由かもしれないし、それだったら俺も納得する。

 しかしもし別の理由だったら……いや、深く考えるのはよそう。


 今は変な事を考えずにレオンさんに全て任せるべきだろう。

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