第105話:孤児院の様子

 俺は1人で家を出てからとある場所へと向かっていた。

 行先は決まっている。もちろん俺が世話になったあの孤児院だ。


 あの後の孤児院のことが気になったし、リーズのことも心配になった。

 場合によってはそのまま俺に付いて来ることになるかもしれない。そうなったらまた一緒に暮らすことになるだろう。

 今の家は割と広いし、2~3人ぐらいなら増えても問題無いしな。


 そして歩き続けていると、懐かしいの孤児院の近くまでやってきた。

 建物に近寄ってドアをノックする。


「すいませーん」

「はーい。ちょっと待っててね」


 すると中から声が聞こえてきた。

 少し待つとドアが開き、中からお婆さんが姿を現した。


「どちら様……おや! もしかしてゼストちゃん?」

「はい。久しぶりですね。シスタさん」

「まぁまぁ! 久しぶりねぇ! ゼストちゃんも大きくなったわねぇ!」


 この孤児院を経営しているシスタさんだ。短い期間ながらも世話になった。


「気になって様子を見に来たんですよ」

「そうなのねぇ。また会えて嬉しいわ!」

「その後はどうですかね?」

「そうそう。ゼストちゃんが居なくなっちゃった後にね、急に寄付が増えたみたいなのよ! お陰で子供たちにいいものを食べさせるようになったのよぉ!」


 奥の方を見ると何人かの子供たちの姿があった。

 俺が居た頃は顔色が優れない子が多かったが、今はどの子も健康的な表情をしている。食環境も大きく向上したみたいだ。

 服も違っていた。前は年季の入った穴空きの服を着ていたが、今はみんな綺麗な服を来ていた。

 以前と比べて明らかに改善されているようだ。


「これなら当分は安心できるわぁ。もう少し受け入れ人数を増やそうかと思っているのよ」

「よかった……」


 寄付は無駄じゃなかったんだな。ここまで改善されているなら安心だ。

 ここの孤児院の心配は必要無いだろう。


 しかし子供たちを見回しているとあることに気づく。


「……あれ。リーズはどこに居るんですか? 姿が見えないようだけど……」

「…………!」

「……?」


 言った途端、シスタさんの表情が暗くなった。


「あの……どうかしたんですか?」

「…………い、いえ。平気よ。そういえばゼストちゃんはリーズちゃんと仲良かったもんねぇ……」

「それでリーズはどこに?」

「あのね。落ち着いて聞いてちょうだい」

「?」


 何やら深刻な表情で話してくる。

 嫌な予感がする……


「リーズちゃんはね…………もう居ないのよ」

「…………へ?」


 リーズが……居ない?


 …………


 マジかよ……


「ど、どういうことです?」

「少し前にね。孤児院の子を引き取りたいと言ってきた夫婦が居たのよ。それでリーズちゃんが気に入ったらしくて強く希望したのよ。それでその人達と一緒に暮らすことになったのよ」

「つまり養子になったと……?」

「そういうことになるわねぇ。こっちとしても問題無ければ断ることはしないのよ」

「…………」


 ……そっか。うん。孤児院だもんな。

 引き取り手が現れたら養子なるのも無理ないか。


「リーズちゃんはずっと嫌がっていたんだけどねぇ。でもその後も何度か説得されてたんだけど、とうとう付いていく決心がついたみたいなのよ」

「なるほど……」


 余程気に入られたみたいだな。

 もう一度会ってみたかったんだが、こうなってしまった以上は仕方ないか。

 せめて一目だけでも見ておきたかった。今からでも会えないだろうか。


「引き取りに来た人の居場所って分かりますか?」

「ごめんなさいねぇ。聞きそびれちゃったのよ。すぐに馬車に乗って離れていちゃったもんだから……」

「そうですか……」


 居場所も不明か……

 一目見る事すら叶わないのか……


「でもきっとリーズちゃんも幸せになっていると思うわ。その夫婦の乗っていた馬車も少し高価な感じだったし。少なくとも孤児院にいるよりは裕福な生活を送れているはずだわ」

「それなら安心ですね……」

「ゼストちゃんと会わせたかったのが心残りだったけど……ごめんなさいねぇ……」

「いえいえ……」


 これも仕方のない事か。孤児院側としても、まともな引き取り手が現れたら拒否しにくいだろうし。

 残念ではあるけど……


「それじゃあそろそろ俺は帰りますよ。気になって様子を見たかっただけなんで」

「私もゼストちゃんが無事にいてくれて安心したわぁ。いつかまた会いに来てちょうだいね!」

「はい。ではまた」


 そして挨拶を済ませて孤児院から離れることにした。


 ………………


 やはり気になる……


 俺は自分の家に戻るはせず、とある場所へと向かうことにした。

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