第96話:衝撃の情報

 翌朝。

 俺は部屋から出て居間へと向かった。

 そこにはラピスとフィーネが既に座っていた。俺より先に起きていたらしい。


「おはよ」

「あ、おはよー!」

「……! お、おはようございます……」


 目が合った瞬間に顔を赤くするフィーネ。そして気まずそうに顔を反らし、ラピスのすぐ近くまで移動してしまった。


「? どうしたのフィーネ? そんなにくっ付いたりして」

「…………な、何でもない……よ……」

「??? 変なの」


 そんなフィーネの挙動不審な行動に、ラピスは不思議そうに眺めていた。


 どうやら昨日の風呂場での出来事を気にしている様子。

 さすがにあの様子だと気になったことを聞くことも出来ず、気まずいままで過ごすことになった。

 あまり触れたくなさそうにしていたので、昨日のことは無かったことにして接することにした。

 俺も普段通りに接していたお陰か、2、3日でいつものフィーネに戻っていた。




 あれから数日後。レオンさんに招かれてディナイアル商会本社へと出向くことになった。どうやら頼んでいた防具が完成したようだった。

 そして応接室で待っていると、後からレオンさんとメイド達の姿が現れた。


「お待たせしました。お二人分のアイアンウェアを用意出来ましたのでお持ちしました。どうぞお受け取り下さい」


 そういうとメイドが動き、持っていた物をラピスとフィーネに手渡した。


「おー。これが防具なのね。なんか軽くて防具って感じがしないわね」

「それがアイアンウェアのメリットです。軽量且つ耐久性に優れた素材で作られていますので、オススメの装備品となっています」

「へー」


 手渡されたのはリリィが着ているやつと同じやつだ。

 あれだけ軽そうならば動きやすくて快適だろう。後衛なら特にそう思うはずだ」


「本当に貰ってもいいんですか?」

「構いませんよ。むしろ僕としてもこれでも足りないと思っているぐらいですから」

「ちなみにこれっていくらぐらいするの?」

「そうですね……」


 レオンさんは少し考えた後に話し出した。


「一般的な防具よりも……約3~5倍、下手すればもっとかかると思います」

「そ、そんなにするの!?」

「素材の入手にも簡単ではありませんからね。それに加えて、加工するのにも相応の技術が求められます。なので、どうしても高額になってしまうんですよ」

「へ、へぇ~」

「そうなんですね……」


 それを聞いてからか、ラピスもフィーネも手に持っている物の見る目が変わった気がした。


「ほ、本当にいいのかしら……? こんな高そうな物を貰っちゃって……」

「前も言っただろ。気にするなって。金より命のほうが大事なんだから装備しとけって」

「……そうね。ならありがたく受け取ることにするわ。いつもありがとね」

「ありがとうございます! ずっと大事に使いますね!」

「おう」


 とはいっても、いつかはまた防具を更新することになるんだけどな。

 それでも当分はこのままでよさそうだけどね。

 ちなみにアイアンウェアの性能を見た感じはこうだった。


 ――――――――――――

 □アイアンウェア

 防御力:70

 適正レベル:15


 ・VIT+15

 ・物理耐性+30%

 ・火属性耐性-30%

 ――――――――――――


 なかなか悪くない性能をしている。

 火属性に若干弱くなるが、それを考慮しても十分実用的な防具だ。

 当分はこれでいいだろう。


「そういえば聞き忘れていましたが、武器のほうはどうなんですか? もしご希望があるならこちらで手配しますけど」

「ああ。武器の心配は要らないよ。こっちで何とかできるし」

「おや? もしかしてアテがあるのですか?」

「うん」


 武器に関してはあの人が居るからね。だから気にする必要も無くなったわけで。


「そうなんですね。差し支えなければで構いませんが、どのようなルートで武器を調達しているのか教えて頂けませんか? これは僕の興味本位で聞いてるだけなので、事情があるのなら話さなくても結構です」

「んー調達してるというか、ラピスとフィーネの武器は造って貰ってるんだよな」

「そうよね。あたし弓は鍛冶師の人から直接貰ったのよ。これもゼストのお陰だわ。名前は確か……えーっと……」

「レオルドって名前だったよ。お姉ちゃん」

「そうそう! そんな名前だったわ!」

「…………なんですって!?」


 急にレオンさんの表情が変わった。まるで信じられない言葉を聞いたかのように驚いている。


「今の話……本当ですか?」

「本当よ。たぶん50歳ぐらいの人じゃないかしら? 初めて会った時は少し怖そうだったけど、意外と気さくな人だったわ」

「…………」

「どうしたの?」


 いきなり黙ってしまった。そんなに驚くことんだろうか。


「……一応お聞きしますが、鍛冶師のレオルドさんで間違いないですか?」

「うん。そのはずよ」

「一体どうやって説得したんですか……? 普通に頼み込んでも断られるはずなんですが……」

「最初は断られたわよ。でもゼストのお陰で作ってくれることになったのよね」

「! どうやって説得したんですか!?」

「えっ」


 今度は俺の方に向いてきた。

 やたら食いついてくるな。いつもの営業スマイルも消えてるし。


「まぁ……色々あってな。だから武器に関しては心配いらないよ」

「そうですか……」

「そんなに気になるの?」

「ええ。衝撃を受けてますよ。あのレオルドさんが個人の頼みで請け負うなんて想像できませんからね」


 最初に合った時も門前払い状態だったしな。そういう認識なのか。


「というかそんなにすごい人なの?」

「僕の知る限り、鍛冶師の中では3本指に入りますね。それほど腕のある方なんですよ」

「そ、そんなにすごい人だったのか……」


 只者ではないとは思っていたが、レオンさんでもここまで褒めるぐらい凄腕の人だったのか。


「彼をディナイアル商会に引き込もうと思ったことがあるんですよ。例え大金を積んででも取り入れたかったんです。しかし上手くいきませんでした」

「あの人は頑固そうだったしな……」

「レオルドさんはお金では動かないタイプの方ですからね。ですから何度も説得を試みたんです。でも未だにいい返事は貰えていないんですよ。さすがに今ではほぼ諦め状態になっています……」


 本当に悔しそうだ。そこまでして欲しい人材だったのか。

 そういった職人とも繋がりを持つことで、ここまでの大企業に成長したんだろうな。

 けどレオルドさんはそんな大企業相手でも断ってしまった。本当に神器以外は興味無いんだろうな。


「ハハハ……まさかここまでとは……」

「? レオンさん?」

「完全に予想外でした……この情報は知らなかった……! ゼストさんを選んで正解だった! やはり僕の目に狂いは無かったんだ!! これなら……きっと……!」

「おーい?」


 ブツブツと独り言で喋り出してしまった。どうしたんだろう。


「もしもーし?」

「…………ああ。失礼……ちょっと考え事をしていました」

「はぁ……」

「ゼストさん。貴方に出会えてよかった。これからもディナイアル商会をよろしくお願いします。僕個人としても、貴方とは末長くお付き合いしたいと思っています」

「あ、うん。こっちこそよろしくね」


 手を差し出してきたので、俺も手を取ってがっしりと握手を交わした。

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