第91話:ネタバラシ
「いやぁ助かったよ! ゼスト殿が居なかったらミスリルが手に入らなかったかもしれん。本当に感謝するよ!」
「いえいえ。向こうが売ってきたケンカを買っただけだからね」
スポール商会との勝負に勝った後、俺達は街へと戻ってきた。
そしてブライアンから何度も感謝の言葉を伝えてきたのだ。
「ワシ1人だけだったらどうなってたことやら……」
「まぁこういう日もあるさ」
「迷惑かけてすまなかった。この事はレオン殿にも伝えておくよ。きっと追加で報酬を上乗せしてくれるはずだ」
「おお。それは嬉しい」
俺としては勝手な判断で勝負を受けたわけだし。何かしら言われるかもしれないと覚悟していたんだよな。
でも結果オーライだ。貰えるものは貰っておこう。
「ではワシはミスリルの取引に行ってくるよ。それまでしばらくここで待っていてくれ。終わったら迎えにくるから」
「分かった」
それからブライアンは忙しそうにこの場から離れて行った。
ということで、ブライアンが戻ってくる間にこの場で待機することになった。
ブライアンの姿が見えなくなってからラピスが近づいてきた。
「ね、ねぇ……」
「ん? どうした?」
「さっきのあれ……ゼストがやったのよね?」
「さっきの? ああ。ダイーザとやらとの勝負か? それがどうかしたのか?」
「一体何が起きたの? 考えても全然分からなくて……」
「……ああ。あれか」
ダイーザをどうやって攻撃したのか聞いているんだろう。
そういやまだ知らせてなかったな。
「ゼストがやったとは思っていたんだけど、あたしの頭では理解できなくて……」
「私も同じです……。何が何だかさっぱり……」
「全然分かんなかったぞ……」
3人とも頭に?を浮かべたような表情で困惑していた。
さすがにアレだけ見て理解するのは厳しかったか。
「そういやまだ
「え? どういうこと?」
「今見せるよ。ステルス解除」
すると、俺の頭上に大きなエイが姿を現し始めた。水中にいるかのようにヒラヒラと動いている。
「あ! それって前にも見た!」
「たしかマンタって言いましたっけ?」
「!? な、なんだそれ!?」
そういやリリィは見るのが初めてだったっけ。
「リリィには見せたこと無かったな。こいつはマンタって言ってな。俺が召喚したモンスターなんだよ」
「へ、へぇ~。ちょっとビックリしたぞ……」
「あたしも知らなかったらビックリしてたかも」
3人とも物珍しそうにマンタのことを見つめる。
「それでどうやったの? まだ分かんないんだけど……」
「今見ての通り、マンタは
「……! もしかして……」
「そう。始まる前にトイレに行っただろ? あの時に召喚したんだ」
だから1人になりたかったんだ。別にトイレに行きたかったわけじゃない。そして誰も見てない所で召喚したというわけだ。
向こうから吹っ掛けてきた勝負だ。卑怯などと言うまい。
そもそもの話、ステルスを見破れない方が悪い。
「後は簡単さ。ステルス状態で足を引っかけたり、体当たりしてただけだよ」
「そ、そうだったのね……」
「最後はどうやったんですか? 相手は苦しんでいたみたいですけど……」
「そうそれよ! それが一番分かんなかったのよ!」
「全然分かんない……」
どうやらトドメの攻撃が一番気になっている様子。
「それも
「そういえば前に聞いた時に、そんなこと言ってたわね……」
「だから相手はずっと超音波攻撃を食らってダメージ受けていたわけさ」
「なるほど~……」
ついでに言えば、この超音波は防御無視攻撃だったりする。
ダメージ自体はあまり高くないが、確実にHPを減らせる。
「勝負が始まる前に言っただろ?
「こういうことだったのね」
「確かにゼストさんは何もしてませんでしたからね。これなら納得です」
「へぇ~……」
例えマンタのことがバレても他に方法はあったけどな。
ぶっちゃけマンタ自体は大して強くないし。
「やっぱり強いわね。こんなモンスター相手だったら勝てないわよ……」
「いや? そうでもないぞ?」
「え……で、でも、見えないんじゃどうしようもないような……」
「透明になるだけで無敵になるわけじゃない。そこは勘違いしないでくれ」
確かに強力な能力ではあるが、これだけでどんな奴に勝てるほど甘くは無い。
「マンタ自体はあまり強く無いんだよ。モンスター中なら、下から数えたほうが早い程度には弱い」
「そうなの?」
「だからこそのステルス能力なんだ。これを上手く使って活躍させるのが腕の見せどころだな」
純粋にマンタだけだったらあまり活躍できない。
超音波もダメージは高くないから、それだけをアテにすることは危険だ。
「前に見せたコラーゲンだってそうだ。あれだって無敵に見えるかもしれんがそうじゃない。厄介そうに思えるが意外と弱点はある。だからそういった部分を上手くカバーしながら戦わなくては駄目だ」
「そうね……」
「死者の村に行った時もそうだっただろ? 巨大なスケルトンだって何度も蘇るが無敵じゃなかった。しっかり対処法を知っていれば勝てるんだ」
これはどんな相手にも言える事だ。
「いいかよく聞け。『最強のモンスター』は存在するが『完璧なモンスター』は存在しない。同じレベル帯だったらどのような相手だって勝機はあるはずだ」
「う、うん……」
「だから厄介そうだから勝てないという発想は捨てた方がいい。本当なら勝てる相手にも勝てなくなるぞ」
「ご、ごめんなさい……」
おっといけない。説教臭くなってしまったな。
「まぁあれだ。簡単に諦めるなってことだ」
「わ、分かったわ……」
「まだまだお前らは経験不足なだけなんだから。そんなに悲観することはないさ」
これも経験だ。これから先何が起こるか分からないからこそ、色々なことを学ばせたい。
「もし今回みたいなことがあったらステルス持ちの存在を疑ったほうがいい。あまりないとは思うけど、一応な」
「そうね……何も知らなかったら見破れなかったと思うし」
「覚えておきます」
こういう知識があると無いとでは大分違う。
他にも山ほど教えたいことはあるが、少しづつ覚えさせていくつもりだ。
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