第86話:言い争い

 死者の村での狩りを終えて俺達はシュベルの街まで戻ってきた。

 そして宿に泊まり一夜過ごす。


 次の日。ブライアンと合流するために街中を散策することにした。

 この街から出る予定はないと言っていたのですぐに見つかった。

 ブライアンはとある建物の前で話し合っていた。発見したので俺達は近くまでいくことにした。


 遠くに3人が話し合っている。その内の1人はブライアンで2人の男と会話していた。しかし近づくと何やら様子がおかしいことに気づく。

 声が大きいためか近づく前から聞こえてくる。何やら揉めているようだった。


「だから、ワシが最初に買い取ったんだ。後から難くせつけてきたのはそっちじゃないか」

「知りませんねェ。こちらだって事情があるんですよォ。この機会を逃すと、次にいつ入荷してくるか分かりませんからね。今回は譲って戴けませんかねェ?」

「それは出来ん。こっちだって今日にも出発する予定なんだ。そういうつもりで動いていたんだからな」

「あらまァ。せっかちですねェ。ゆっくりしていけばいいじゃないですか。ホッホッホ」

「護衛の人と待ち合わせているんだ。ワシの都合で勝手に変えることは出来んのだ」


 なんだなんだ。何があったんだ?

 ブライアンが胡散臭い男と言い合いになってるみたいだな。


「ど、どうしたのかしら。何か言い争ってるみたいね」

「ちょっと怖いです……」

「何だろうな。交渉でも失敗したのかな」

「とりあえず話だけでも聞いてみない? このままだと終わらなそうだし……」

「そうだな。何かトラブルがあったかもしれん」


 俺達はブライアンの元へと近づく。

 するとブライアンも俺達のことに気が付いたみたいだ。


「! おお! ゼスト殿! すまないが少し待っててくれないか」

「どうかしたの? 揉めてるみたいだけど」

「こやつ等が取引の邪魔をしてきたんだ。そのせいで時間を取られてるんだよ」


 そういって胡散臭い男を指さす。

 そいつは帽子をかぶっていてヒゲを生やしたおっさんだった。


「邪魔とは失礼ですねェ。こちらも正当な取引を要求しているだけではありませんか。むしろ邪魔をしているのはそちらの方では?」

「な、何を馬鹿な事を! 後から割り込んで来たのはそっちじゃないか!」

「到着するのが少し遅れただけではありませんか。私は最初から目を付けていたんですよォ。それを横取りしてくるのはそっちじゃないですか」

「しかしワシが最初にこの場に居たのは事実だ。ならば優先されるべきなのはワシだろう」

「しつこいですねェ……。ディナイアル商会ともあろう関係者がこんなにもケチ臭いなんて失望しましたよ」

「関係ないだろう。しつこいのはそっちじゃないか……」


 まーた言い争いが始まった。

 このままではラチがあかん。


「とりあえずさ。何があったのか話してくれない? 俺らはまだ来たばかりだし。何が何だかサッパリなんだよ」

「ああすまん。説明してなかったな」


 色々と疲れたらしく、ため息をついた後に話してきた。


「実はな。ワシはある物を買い取りたくてここに来たんだ。しかし後からやってきたスポール商会の奴が待ったをかけてきたんだ。それからワシが買い取るはずの物を全部よこせと言ってきたんだよ」


 なるほどね。この胡散臭いおっさんはスポール商会とやらの人間というわけか。


「そういやある物って何だ? まさかアイアンスパイダーの素材?」

「いや。そっちは確保したから安心してほしい」

「よかった。なら何が欲しかったの?」

「ミスリルだよ。レオン殿に頼まれていてな。こっちの地方までやってきたのはミスリルを手に入れたかったんだ」


 そういや東方面にはミスリルが手に入る鉱山があった気がする。それが目的でこっちに来たかったのか。

 しかし死神が邪魔していたからミスリルの入手も難しかった。それが解消されたからようやくミスリルの入手が可能になったわけだ。


「今日中にはこの街を出発したい。だから待ってる余裕なんて無いのだよ」

「そんな時に邪魔してきて言い争いになったと?」

「そういうことだ」


 なるほどね。大体は把握できた。

 とりあえず俺からもお願いしてみるか。


「えーと。スポール商会の人?」

「はい。私はスポール商会のポイルと申します。貴方は誰なんですか?」

「俺はゼスト。ブライアンの護衛の者だよ」

「ああ。ただの護衛の人ですか。なら関係ないですね。あっち行ってなさい」


 そういってシッシっと手で払われる。


「いや無関係というわけでは無いと思うんだけどな……」

「無関係ではない! ゼスト殿はディナイアル商会で専属契約をした冒険者なんだぞ!」

「……! なんですって!? あのディナイアル商会の専属契約者ですって!?」


 ポイルはやけに驚いた表情で睨んでくる。

 そんなに驚くようなことなんだろうか。


「貴方……今の話は本当なんですか?」

「ああそうだ。嘘じゃない。確かに専属契約したよ。それがどうかしたのか」

「確かゼストと言いましたね。聞いたことの無い名前ですねェ……。ランクはいくつですか?」

「まだDだよ。それがどうかしたのか?」

「……………………ハハ……アーッハッハッハッハ! 」


 急に笑い出したよこいつ。気味が悪い。


「ハハハ! ディナイアル商会ともあろうものが……まさかDランクの方と契約するとはねェ! これは傑作ですよォ!」

「な、なんだと……!」

「いやいや。3大商会の1つと言える程に成長したディナイアル商会がねェ。まさかDランクなんかと手を結ぶとはねェ。落ちぶれたもんですねェ! これは予想外でしたよォ! ハハハハ!」

「ゼスト殿だけじゃなくてレオン殿も侮辱する気か……!」


 なるほどなぁ。ランクが低い奴と契約するとこういうデメリットがあるわけか。

 だがレオンさんはそういうリスクを承知の上で俺と契約してくれた。それだけ俺の事を信頼してくれたんだろう。

 あれだけの大企業なんだから、Sランクの冒険者と契約するのも難しくないはずだ。しかしあえて俺を選んでくれたんだ。

 さすがにここまで言われたら黙ってるわけにはいかんな。


「おい。ポイルとか言ったな。俺が契約したのがそんなに可笑しいのか?」

「いやだってねェ……。もっとマシな人は他に居るでしょう? Dランクなんて腐るほど居るじゃないですか。そんなのと手を結ぶなんて、余程弱小なところじゃないとしませんよォ。ホッホッホ」

「ランクは関係ないだろ。実力さえあれば問題なんだから」

「そうよ! ゼストはとっても強いんだから!」


 ラピスがムスッっとした顔で割り込んできた。

 それに続くようにブライアンも声を上げる。


「その通りだ。ゼスト殿は確かにランクはまだDだが、非常に優秀な冒険者だ。ワシが保証する。なんせあの死神をも討伐出来たんだからな!」

「……!! なんですって!? 死神を倒したんですか!?」


 おや。どうやらまだ情報を伝わってないようだ。

 まぁつい最近の事だしな。


「……なんだと? お前が死神を倒しただと?」


 急に話しかけてきたのはポイルの横にいた男だった。ずっと黙ったままで会話に入ってこなかったから気にしていなかったが、そいつは斧を背負った大男だった。

 よく見ると獣の耳と尻尾が生えている。ということはこいつは獣人か。


「おい。今の話は本当か?」


 そういって2メートルはありそうな体格の獣人が俺を睨んできた。

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