第85話:パーティプレイ

 落ち込んだリリィの元にラピスが近づく。


「ど、どうしたの? 元気ないじゃない。ケガとかしたの?」

「そうじゃないんだけどさ……。今の奴をどうやって倒し切れるのか全然思い浮かばなかったんだ……」

「まぁ思いついたのはフィーネの方よ。あたしだって思いつかなかったんだし」

「でもアタシは全然分からなかった。どんな奴でもぶっ飛ばせると思っていたのに……」


 リリィのテンションがやたら低いな。こんなにも落ち込んだ姿を見るのは初めてな気がする。


「アタシは頭良くないし、今みたいな奴はどうやって倒せるか思いつかないんだ……」

「わ、私だって最初は分かりませんでしたよ。ゼストさんがヒントをくれたから思いついただけですから」

「でもアタシは分からなかった。ヒントがあっても思いつかなかった。全然思い浮かばなかった……」

「あたしだって似たようなものよ……」

「多分、次に同じような奴と出会っても思いつける自信が無い……」


 ふーむ。何回死んでも蘇るような相手と初めて遭遇した為か、精神的に参っているようだな。今回は以前のように攻撃が通らないパターンとは違うからな。

 どんなに攻撃しても死なない奴とか見たことだろうしな。今までの常識が全く通じなくてショックを受けているみたいだ。


「アタシは強くなれないのかな……。これ以上強くなるのは無理なのかな……」

「リリィ……」


 ここまで落ち込むなんてリリィらしくない。本当に参っているみたいだな。

 仕方ない。


「なぁリリィ。別に1人で全部背負う必要は無いじゃないか?」

「え……?」

「完璧な人なんて存在しないよ。誰もが不得意な部分がある。それは仕方ないことだろう」

「そ、そうだけど……」

「だからさ。苦手な部分は他の人に任せたらいいじゃないか?」

「任せる……?」


 リリィは恐らくまだソロ狩りの習慣が抜けきっていないんだろう。だから何でも1人で背負い込もうとしてる節がある。

 パーティプレイをしているようでソロの延長戦みたいな立ち回りだった。


「そうさ。1人で何でもこなせることだけが強さじゃない。もっと周りの人を頼ったらどうだ?」

「で、でも……」

「リリィはああいうギミックを解くのが苦手なんだろ?」

「うん……」

「だったらそういうのはラピスかフィーネに任せたらいいじゃないか」


 だがリリィの実力は本物だ。そこらの雑魚に負けるほど弱くはない。

 今回のような相手だと相性が悪いだけなんだ。それさえ克服すればもっと上のランクに行けるはずだ。


「そんなことしていいのか……?」

「何のためにパーティ組ませたと思ってるんだ。こういう時に連携するためだろうが」

「う、うん……」

「何でも1人で背負う必要は無いんだ。出来ない事は他の人に任せたらいい。その代わり、他の人が出来ない事をリリィがやるんだ」

「……!」

「それがパーティプレイってもんだろ」


 パーティを組む以上は連携は必須だ。

 今はまだ強敵が少ないから何とかなるが、これから先は通用しなくなってくる。


「苦手な部分は誰にだってある。他の人にカバーしてもらうのも有りだ。別に恥ずかしいことじゃない。だから他の人が苦手とする部分をリリィが引き受ければいいじゃないか」

「…………」

「そういうことが出来るのも〝強さ〟なんじゃないか?」

「!!」


 リリィは脳筋なのが短所だと思うが、逆に考えれば長所にもなりえる。どんな相手にも怯まず立ち向かうその度胸は評価すべき点だ。

 前衛である以上は、強敵や未知な相手に弱腰になってしまうのは仕方ない部分ではある。しかしリリィはそんな相手にも臆せず突っ込むタイプだ。

 どんなに強い冒険者だろうが、イザという時に実力を発揮できなければ意味がないからな。

 精神的に強いってだけで立派な長所だ。


 もしリリィの欠点をうまく補うことができれば…………化けるかもしれん。


「本当にいいのか……? 皆に任せてもいいのか……?」

「もちろんよ! あたしだってリリィのパワーを頼りにしてるんだから!」

「リリィさんがモンスターを押さえつけていたお陰で考える余裕が出来たんです。もしリリィさんが居なかったら倒す方法を思いつかなかったかもしれません」

「そうよね。あたしが仮に剣を持って前に出てたとしても、冷静に対処できる自信が無いわ。でもリリィが前にいると安心するのよね」

「…………!」


 2人からの信頼も厚い。それだけリリィを認めてるってことだろう。


「そっか……。アタシは難しいこと考えるの苦手だからさ、これからは皆に頼ってもいいかな?」

「こっちだってリリィのことを頼らせて貰うわ。サポートは任せなさい!」

「私も慣れてないので必ず正しい方法が思い浮かべられるか不安なんです。でもリリィさん居るならもっと良い案が浮かぶと思うんです。まだ頼りないかもしれませんが、リリィさんの力になりたいんです」

「……!」


 2人の励ましが嬉しかったのか、リリィの表情が笑顔になっていく。


「それじゃあ……これからもよろしくな!」

「こちらこそ! みんなで強くなるわよ!」

「はい! 一緒に頑張りましょうね!」


 3人はがっしりと手を繋ぎ合い、しばらく喜んでいた。

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