第80話:死者の村

 翌日。俺達はシュベルの街から出て南方面へと向かっている。

 そしてとある森の中へと入っていく。そこは湿地帯になっていてジメジメとした雰囲気が漂っていた。


「うう……ここらは薄暗いし不気味だわ……」

「まぁな。でもすぐ慣れるよ」

「そうね……」


 そんな会話しつつ奥へと進んでいく。

 しばらくすると、遠くに古びた家があるのを発見した。


「おっ。見えてきた。あの村に行くぞ」

「え? 村?」


 少し先には人工物らしき家や柵が設置されているのが見える。しかしどれも崩れて壊れていた。

 遠目で見ても廃墟だと分かる。


「ゼストさん……あの村には誰か住んでいるんですか? かなり古そうなんですけど……」

「荒れているというか家が崩れてるわね……」

「誰も住んでないよ。あんなにボロボロな家に住めるはずがないし」

「でも何かいる気配があるんですが……」


 フィーネは鋭いな。いいカンをしている。


「正確に言えば、人間は誰も住んでいないんだよ」

「そ、それってつまり……」

「そうだ。あの村にはモンスターが住みついているんだ」


 あの村は少し特別で、特定のモンスターばかりが出現する場所となっている。

 狙ったモンスターを討伐できるので狩場としては最適だ。

 そのモンスターとは……


「あの村周辺は昔の墓地があったらしくてな。そのせいかとあるモンスターばかり徘徊するようになったらしい」

「え……それってつまり……」

「うん。今から狩りに行くモンスターはスケルトンだよ」

「そ、そうなのね……」

「ということはこの気配は……」

「全部スケルトンだろうな」


 そう。村に出現するのは全てスケルトン系のモンスターなのだ。


「そのせいであの村は『死者の村』なんて呼ばれているんだ」

「し、死者の村……」

「か、変わった所なんですね……」

「まぁな」


 ラピスもフィーネもあまり気が乗らない様子。

 だがリリィだけはそんなことはないようだ。


「よく分からないけど全部ぶっ飛ばしていいんだな?」


 やたらワクワクしながらそんなことを言ってくるリリィ。


「ああいいぞ。その為に連れてきたんだから」

「よーし! じゃあアタシが先に行く! みんなは後から付いてきて!」

「え、ええええ!?」

「リリィさんは大丈夫なんですか?」

「何が?」

「その……不安だったりしないんですか?」

「不安?」

「だって……まだ見たことないモンスターですし……それに、どれぐらいの強いのか未知数ですから……」


 不安そうに効くフィーネに対し、リリィは平然としている。

 まぁフィーネの気持ちは分かる。これから行く狩場は初めて行く所だしな。

 リリィは少しだけ考えてから話す。


「んー。これから倒しにいくのなら早く相手のこと知ったほうがいいと思ってさ。どうせすぐ戦うことになるんだし」

「それはそうですけど……」

「それにゼストが居るから大丈夫だって!」


 笑顔を俺に向けてくる。

 これは相当信頼されていると思っていいのかな。脳筋ではあるが、リリィなりには考えてはいるんだな。


「あーそのことなんだが、今回は俺は手出ししないつもりだ」

「え、えええ!?」

「そうなんですか!?」

「ゼストは戦わないのか?」

「ああ。基本的には戦闘に参加しない」


 これは最初から考えていたことだ。そのつもりでここに連れてきたのだから。


「つまり……あたし達だけで戦うの?」

「そうだ。3人なら十分対処できるはずだ。実力的には問題ない」

「ゼストさんがそういうなら大丈夫ですよね」

「まぁ危なくなったら何とかしてやるから。安心しろ」


 3人の実力から判断して連れてきたから問題はないはず。少なくとも苦戦はしないはず。

 ……だが実力はあっても倒せるとは限らない。そのことを教える為には最適な狩場だ。


「大丈夫だって! アタシが敵を全部ぶっ飛ばしてみんなを守るからさ!」

「リリィもこう言ってるし。俺が居なくても平気だって」

「……うん。そうね。ゼストに頼らなくても戦えるように強くなりたいもんね」

「私もみんなの力になれるようにがんばります」

「おう!」


 というわけでリリィを先頭にして、全員で村へと近づいていった。


 村に近づくと、骨だけのモンスター……スケルトンが数体徘徊していた。


「……!? あれってもしかして死神……?」

「安心しろ。ただのスケルトンだ。洞窟で遭った死神とは比べ物にならないぐらい弱いから」

「そ、そうなのね……よかった……」


 見た目は死神と少し似ているからビックリするのも仕方ない。

 ラピスとフィーネは少し驚いていたが、リリィは臆することなく大剣を構えて近づいていく。


「いくぞ!」


 そのまま近くにいる剣を持ったスケルトンに突撃していく。


「やあっ!!」


 スケルトンはリリィに気づいたようだが、剣を構える間もなくリリィの攻撃が命中した。

 当たりどころが良かったのか、スケルトンは一撃で切り裂かれ体勢を大きく崩れた。その勢いのまま地面に倒れる。

 リリィは次の攻撃体勢に入るが……倒れたスケルトンは動く気配が無かった。


「……おー! すごいわ! 一撃で倒しちゃうなんて!」

「さすがですね! 頼りになります!」

「へへん! これくらいなら大したことないさ!」

「よーし。あたしも負けてられないわ!」


 ラピスは少し離れた所にいたスケルトンに向けて弓を構えた。


「当たれっ!」


 そして矢が放たれる。1発目が命中し、続けて2発、3発と矢を放つ。

 全て命中し、スケルトンは倒れて動かなくなった。


「……あれ。あんまり強くないわね」


 所詮はスケルトンだしな。

 動きも遅く、体力も低い。一応スケルトン達は武器を持っているが、もっさりした動作なので簡単に攻撃をかわせる。


「確かにこれくらいならあたし達でも十分ね」

「だから言っただろ。俺が居なくても平気だって。数がちょっと多いぐらいだ」


 リリィとラピスが倒したスケルトンに反応したのか、離れた所から別のスケルトンが次々と現れて近寄ってくる。


「よーし。ならどんどん倒しちゃうわよ! フィーネは左側お願いね!」

「任せて!」


 それからは順調に狩りが進んでいった。

 3人とも特に問題なく次々とスケルトン連中を撃破していく。非常に安定していて苦戦する様子は無かった。

 そんなこんなで周囲のスケルトンをあらかた倒し終える。


「もう居ないかな?」

「これで全部かしら?」


 見える範囲では襲ってくるようなモンスターの気配は無かった。どうやらほぼ殲滅し終わったようだ。

 だが他にモンスターが居ないか3人とも周囲を確認している時だった。


「!! お姉ちゃんあそこにまだ居る!」

「ど、どこ!?」


 フィーネが指さした先には古びた家が建てられていた。その物陰からのっそりと動く大きな物体が姿を現したのだ。

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