第73話:リリィの感謝
ディナイアル商会から帰って来て家に辿り着いた。
その夜のことである。
俺は1人で部屋の中でのんびりとしていた。
そろそろ寝る準備でもしようかと思っていた時である。
「ゼストー! これすごくいいぞ!」
「うおっ!? な、なんだよいきなり……」
突然ドアを開けて入ってきたリリィにビックリしてしまう。
「なんだリリィか……いきなり入ってくるなよ。驚くだろうが」
「あーごめん。つい嬉しくて舞い上がっちゃったんだ!」
「そ、そうか……」
確かに今日のリリィのテンションはいつもより高く見える。余程嬉しかったんだろうな。
「これ動きやすいし軽いし丈夫だし破れないしキツくないし、今まで着てきたどんな服より気に入った!」
「そ、そうか……」
「えへへ……」
本当に嬉しそうだ。子供のように喜んでいるな。
「その防具が気に入ったのが分かったけど、何の用だ? 見せたかっただけか?」
「あ、そうだ。ゼストにお礼言うの忘れてたのを思い出してさ」
「そうだったっけ」
「だからね」
近くまで寄り、そしてポニテを揺らし、満面の笑みを浮かべて言ってきた。
「ありがとうゼスト!」
「……おう」
嬉しそうな表情で向けてきたその顔に少し見惚れてしまう。
やはりリリィはかなり美人だ。その上、実力も光るものがある。上手くいけばこのままトップクラスの冒険者になるのも夢じゃないだろう。
ラピスとフィーネとも仲がいいし、仲間になって本当に良かったと思う。
……脳筋だけど。
「まぁ俺が用意したわけじゃないんだけどな。礼を言うならレオンさんに言っておけ」
「でもゼストが居なかったら会えなかっただろうし。やっぱり一番感謝したいのはゼストだよ!」
「そっか……」
妙に気恥ずかしくてつい顔を背けてしまう。
表裏ない性格しているからか、思ったことをそのまま伝えてきやがるからな。分かり易くていいんだけど、こういう場合はこっちが照れくさくなる。
「そ、そうだ。ちょっと待ってな。渡したい物があるんだよ」
「? なんだ?」
インベントリを開いてある物を探す。
実は渡そうかと思ってた物があったんだけどつい忘れてたんだよな。別に無くても困らないし後回しにしてたらうっかり渡しそびれていた。
丁度いい機会だからリリィにあげようと思う。
「実はリリィ用に手に装備するやつがあるんだ」
「そうなの?」
インベントリから取り出したのはとある手袋だ。
これは手装備用の防具でリリィにはピッタリの装備だと思う。
性能はこんな感じ。
――――――――――――
□パワーグローブ
防御力:5
適正レベル:10
・STR+2
・DEX+2
・物理ダメージ+2%
――――――――――――
防具にも武器と同じように適正レベルが設定されている。けど武器よりは低めに設定されている傾向がある。
俺はナックル装備しているから使う機会が少ないし、だからリリィが一番適している。
「これなんだけどリリィにピッタリだと思って――」
むにゅん
「…………へ?」
左手にすごく柔らかい感触が伝わってくる。
手を見てみると……リリィのおっぱいに思いっきり押し付けていた。
見た瞬間に一気に血の気が引く。
「う、うわぁぁぁ! ご、ごめん!」
「!? ど、どうしたんだ!?」
「け、決してワザとじゃないだ! ただこのグローブを渡そうとしただけなんだ! 本当だ! 信じてくれ! 触ろうとする気は無いんだ!」
「な、何を言ってるのか分からないぞ!?」
「え……?」
リリィはやけに落ち着いている。胸を思いっきり触られたってのに怒っているようには見えないし、むしろ困惑してるようにも見える。
「だ、だから。触っちゃったから謝りたいんだよ。でも信じてくれ! 触る気は一切無かったんだよ!」
「? 触ったら謝らないといけないのか……?」
「……?」
……あれ?
なんか話が噛み合わないような……
「いやだから。今リリィの胸を触っちゃったじゃんか。そのことで謝りたいんだけど……」
「別にそれぐらい何ともないぞ。痛くなかったし。これくらい平気だぞ」
「…………」
痛いとかそういう問題じゃないと思うんだけどな……
「俺の手が確かにリリィの胸に当たったよな? 割とガッツリ……」
「うん。それがどうかしたのか?」
「だから……その……気にしないのか?」
「何ともなかったし。この程度は気にしてないぞ」
「そ、そうなの……か?」
本当に気にしていない様子。
あれ……? もしかして俺が間違っているのか……?
いやそんな馬鹿な……
「さっきから変だぞ? どうかしたの?」
「え、いや……その……だってさ、リリィの胸触っちゃったから……」
「だから気にしてないって。体触られた程度で倒れたりしないもん。アタシはそんなに弱くないぞ」
「う、うーん……?」
もしかして竜人族にしてみたらそういう認識なんだろうか。
俺に気を使って我慢してるだけだと思ったけど、リリィの性格的にそういうことしなさそうだしな。ハッキリと伝えるタイプだし。
どうやら本当に何とも思ってないようだ。これ以上は深く追求しないほうがよさそう。
「ま、まぁ気にしてないんならいいんだ。本当にごめんな」
「う、うん」
気まずい雰囲気になりつつも手に持ってたグローブの存在を思い出す。
「そ、そうだ。これを渡したかったんだ」
「これは?」
「リリィにピッタリだと思ってな。受け取ってくれないか」
「え! いいのか!?」
「むしろ受け取ってください。マジで。お願いします。こうでもしないと俺の気が済まないから」
「そこまで言うなら……」
差し出したグローブを手に取り、リリィは両手に装備した。
何度か握ったりして感触を確かめるような動作をした後に、嬉しそうな表情になった。
「おー! これいいな! 手にピッタリだ!」
「だろ? 超おさがりで悪いんだけど俺は使わないし、リリィが使ってくれ」
「うん! ありがとう! えへへ……」
よかった。本当に嬉しそうだ。
「そろそろ俺はもう寝るよ。リリィも部屋に戻ったほうがいい」
「分かった! じゃあおやすみ!」
「おう。おやすみ」
そしてリリィは上機嫌のまま部屋から出ていった。
俺は1人になって何となく左手を見つめてしまう。
………………
リリィぐらいの巨乳だと手が埋もれそうになるんだな……
……………………
…………アホなこと考えてないでさっさと寝よう。
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