第74話:☆とある冒険者達の不運
話は少し戻る。
ここはとある山岳地帯であり、1つだけ東側に通じる洞窟がある。そこに3人の冒険者が少し緊張しながら立っていた。
「ここが死神の居る洞窟か……」
先頭に立っている男がそう呟いた。
その少し後ろに立っている男も呼びかけるように口を開く。
「おいアレックス。気を付けろよ。今まで戦ってきた相手と違って正体不明なんだからな。どれだけ強いのか分からん」
「分かってるって。もしかしたら盗賊の仕業かもしれないだろ? それともレイは怖いのか?」
「怖いとかじゃねーっての。注意しろってことだよ」
「だから分かってるっつーの」
そんな2人のやりとりを少し離れた所で見つめていた女性が居た。
女性は2人の様子を見てオロオロと心配そうにしていた。
「け、ケンカはだめだよぉ……」
「いや別にケンカしてるわけじゃねーよ。ただもっと緊張感を持ってほしいだけだ」
「緊張はしてるさ。死神さえ倒せばAランクに昇格できるからな。そしたらシイラも嬉しいだろ?」
「そ、そうだけど……」
アレックス、レイ、シイラの3人はBランクパーティである。依頼を受けて死神討伐に向かう最中の出来事だ。
Bランクではあるが実力はAランク相当だと認められており、あと1つ高難易度の依頼をこなせばAランクに昇格間違い無しと言われていた。
そこで引き受けたのが今回の死神討伐である。
「まぁとにかく、さっさと洞窟に入ろうぜ。日が暮れる前に終わらせたい」
「そうだな。危なくなったら逃げればいいしな」
これは別にやる気が無いということではない。最悪を想定してのことだった。
通常ならば討伐しなければ報酬は出ないので、出来れば確実に仕留めるつもりである。
しかし今回は事情は違っていた。
「おれらに何かあったらシイラは逃げろよ。それでも報酬が出るんだから」
「う、うん……」
今回は死神の正体を調べるために調査も兼ねているのだ。なので、具体的にどのような相手だったのか知る必要がある。
仮に討伐に失敗しても死神の情報を伝えるだけで報酬は出るという、通常ではあまりない依頼だったのだ。
つまり情報を持って帰るだけでも十分な成果ともいえる。
「で、でも……死んだらダメだからね……?」
「こっちだって死ぬつもりはねーよ。でも万が一ってことがあるだろ。全滅する可能性だってある。だからせめてシイラだけは逃げ帰れよ?」
「で、でもぉ……」
「どっちみち危険なのは変わりないんだから、いい加減覚悟決めろよ!」
「う、うん……」
何か言いたそうなシイラだったが、それ以上何も言えずに黙ったままだった。
「よし。んじゃ洞窟に入るぞ!」
「おう!」
「…………」
そして3人は洞窟の中へと突入していった。
薄い暗い中を突き進む3人は、警戒しながら周囲を見渡していた。
特に会話も無く、歩く音だけが鳴り響いていた。
そんな状況が続き、ある程度洞窟を進んだ時だった。先頭を歩くアレックスは剣を握りしめながら何かを発見した。
「…………ん? 何か居るぞ!」
「ッ!?」
アレックスが立ち止まると、後ろに居る2人も立ち止まって警戒心を高めた。
「おい誰だ! 出てこい!」
叫んだ後にアレックスは目を凝らす。
そして剣を握る手にも力が入り、前方に居る存在を睨みつける。
………………
しかし何も返事が返ってこなかった。
もしかして気のせいだったのか?
ただの見間違いだったのか?
そう思っていた時だった。
『カカカカ! そう喚くな』
「ッ!?」
闇から現れた相手に驚くアレックス。
そいつは宙に浮いていて、見下すように高い位置から3人を眺めていた。
「…………なるほどな。確かに死神だ……」
アレックスは前方に現れた相手を見つめてそう呟いた。
そいつは見た目だけは骨型モンスターのスケルトンだった。しかし黒いローブを身にまとっており、明らかに通常のスケルトンとは雰囲気が違っていた。
一番特徴的なのは手に持っている大鎌だった。通常では見ないタイプの武器であったが、スケルトンが持つとまさに死神を連想させる姿になっていた。
「おい! キサマが死神か!?」
『それは人間共が勝手に付けた名だ。余が名乗ったわけではない』
「とりあえずキサマが死神ってことでいいんだな!? だったらここで死んでもらうぜ!」
『愚かな……。余を倒そうなどと何と愚かな連中よ……。身の程を弁えろ』
アレックスは後ろに振り向いてシイラに向かって叫ぶ。
「いつものバフくれ! おれがアイツの相手するから、レイは援護を頼む!」
「お、おう!」
「わ、分かった!」
シイラは手に持っている杖を握りしめ、アレックスに向かってスキルを発動させた。
「《ブレッシング》!!、…………《プロテクション》!」
アレックスは自信が強化されたことを確認し、死神に突撃しようとした時だった。
『無駄なことを……余に勝てるつもりでいるのか?』
「こっちはランク昇格が懸かってるんでね。さっさと終わらせてやる!」
『生き急ぐ愚か共め。そんなに死にたいのなら………………望み通りにしてやるわ!!』
「ッ!?」
一瞬にして距離を詰めてくる死神。あまりにも速いスピードにアレックスは反応出来ずに硬直していた。
「アレックス!!」
「危ない!!」
死神の大鎌がアレックスを襲う。
『食らえぃ!』
「ぐっ……!」
しかし寸前で手が動き、剣で受け止めることに成功した。
「あ、危ねぇ! なんつースピードだ……!」
『ほう! これを防ぐか。一撃で終わらせるつもりだったんだがな』
「こっちだって修羅場潜ってるんでね! この程度でやられて堪るか!」
『フンッ! 威勢だけは立派だな。大人しく死んでいればいいものを』
「ごちゃごちゃとうるせぇな! そっちこそ大人しく死にやがれ!」
剣で押し返すと、死神はそのまま後方に下がって距離を開けた。
『ふむ。今の攻撃に反応したのは貴様が初めてだ。大抵の奴はこれで仕留められたんだがな』
「あれぐらいでやられるほどヤワな鍛え方してねーよ! 冒険者を舐めんな!」
『なるほどなるほど。それなり楽しめそうであるな。ならばこれならどうだ?』
「え……」
次の瞬間、死神の姿がスゥーっと消え――
闇に紛れて見えなくなったのだ。
「き、消えた!?」
「そんな馬鹿な!?」
3人はキョロキョロと周囲を見渡すが、死神の姿はどこにも無かった。
「どういうことだ!? 消えるモンスターなんて聞いたことねーぞ!」
「アレックス落ち着け! 奇襲されないように周囲を警戒しとけ!」
「出てこい死神! 逃げるのか!?」
アレックスは剣を構えながらキョロキョロと見回す。
しかしどこを見ても相手の姿が確認できないでいた。
「レイ! お前はシイラの側にいろ! もしかしたらシイラを狙うかもしれん!」
「あ、ああ! 分かった!」
レイはシイラの盾になるように側に移動し、剣を構えて警戒態勢をとった。
それから間もなくのことだった。
アレックスの背後に突如として死神が出現したのだ。
『死ねぇい!』
「なっ――」
反応して避けようとしたが、避けきれずに背後を斬りつけられるアレックス。
「ぐああああああああ!」
「アレックス!!」
「!!」
そしてヨロヨロと少し動いた後、アレックスは地面に倒れてしまう。
『カカカカカ! さすがにこれは避けられんか!』
「てめぇ! アレックスから離れろ!!」
『おっと』
レイは猛ダッシュで死神に向かって剣を振るが、難なく避けられてしまう。
「クソッ! 卑怯だぞてめぇ! いきなり背後から襲いやがって!」
『これぐらい避けられぬ方が未熟というもの。戦場では特にな』
「起きろアレックス! それぐらいでくたばる野郎じゃねーだろ!」
地面に倒れているアレックスをチラッっと見るが、傷はそんなに深そうでは無いと判断。
「シイラ!! 早くアレックスを回復しろ! おれはこいつを押さえとく!」
「う、うん! 任せて!」
シイラは倒れているアレックスに近づき、回復スキルを使用した。
「《ヒール》…………《ヒール》…………《ヒール》!!」
「さっさと起きろ! いつまでも寝てるんじゃねぇ!」
だがすぐに異変に気付く。
回復スキルをかけているのに一向に目覚める気配が無いのだ。
「おいまだか! 早くしろ!」
「やってるよ! でも起きないの! もう回復したはずなのに起きないのよ!」
「は? どういうことだ!?」
シイラはアレックスの体を揺さぶるが、完全に無反応だった。
さすがにおかしいと思い、首元を触る。
すると――
「…………え」
「どうした!? 早く起こせよ!」
「…………息してない」
「……は?」
「脈も無いし……心臓も動いてないし……これじゃあ…………死んでるのと同じ…………」
「そ、そんな……馬鹿な……」
あまりにも衝撃的事態に2人とも手が止まる。
敵がすぐ近くに居るのを忘れ、倒れているアレックスを見つめる。
「お、おい……冗談だろ……? この程度で死ぬわけないだろ! ちゃんと回復しろよ!」
「やったよ……何回もやったよ……。でも起きないのよ……」
「ふ、ふざけんな! もっとヤバい攻撃食らっても回復したことあるじゃねーか! 何でこの程度で死ぬんだよ!?」
「分かんないよぅ……」
そんな2人の会話を聞いて、死神はカタカタと震えて笑う。
『ククク……カカカカッ! まずは1人……』
「…………てめぇ!! アレックスに何しやがったぁぁぁぁぁぁ!?」
レイは剣を強く握って振り回す。しかし剣は死神に届かずに全て避けられてしまう。
『不運よのぉ。一撃で逝かれるとはな。これもまた運命だ』
「ふざけたこと言ってんじゃねぇ!!」
『ふむ。ならば貴様も同じように味わってみるがいい。それで逝くのならそれまでの運命だったということだ』
「……!!」
再び死神の姿が消え、闇に紛れて見えなくなってしまう。
「クソがっ! また消えやがった!」
「うぅ…………アレックス……」
「シイラ! 泣いてる場合じゃねぇ! 今のうちに逃げろ! ギルドにこのことを伝えるんだ!」
「………………」
だがシイラは地面に倒れたままのアレックスの前から動こうとしなかった。
「シイラ! しっかりしろ! このままだと全滅するぞ!!」
「でも……」
「せめてお前だけでも逃げ――」
次の瞬間、レイの背後に死神が出現し、鎌が振り下ろされた。
『カカカッ!!』
「!? グハッ……」
「……!! レイ!!」
避けきれずに攻撃を食らい地面に倒れていくレイは、一瞬だけ死神に振り向いた。
(一瞬で移動して……姿すら完全に消せるモンスター…………こんな奴どうやって倒せば…………)
そして地面に倒れ………………そのまま動くことは無かった。
「そ、そんな…………レイまで……」
『カカカカッ! 愉快愉快! やはりこやつらはここで逝く運命にあったわけだ』
「あ…………あ……」
地面にへたり込んだままのシイラに向かって死神が距離を詰めていく。
「ひっ……」
『安心しろ。すぐに仲間の元に逝かせてやる』
「あ……た……たすけ……て……」
『怯えることは無い。一瞬で終わる。痛みも感じる間もなく逝けるようにしてやる』
「い……いや……」
『ではさらばだ』
そしてシイラに向かって鎌が振り下ろされた――
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