第71話:伸縮性のある防具
俺達は大きな応接室まで案内されて座っていた。やはりというかなかなか立派な部屋だ。この一室だけでも住めそうなぐらい豪華だ。
珍しそうに周りを見渡していると、入り口のドアからレオンさんが入ってきた。
「すみません。お待たせしました。こちらが契約書になります。ご確認下さい」
「は、はい」
内容は既に聞いたものとほぼ同じであり、特に不審なところもなく契約書にサインをした。
「ありがとうございます。これで契約は成立です。それからリリィさんでしたっけ?」
「うん! アタシだ!」
「防具を差し上げようかと思いますので、ご希望はありますか?」
「うーん…………軽くて動きやすいやつがいい!」
「機動性重視ですね。分かりました。それならオススメの物があります」
待機していたメイドに振り向いて続ける。
「こちらの方に例の物を着せてあげてください。後は頼みました」
「かしこまりました。ではご案内しますのでこちらまでどうぞ」
「分かった!」
そうしてメイドに連れられリリィは部屋から出てった。
しばらく部屋で待機していると、勢いよくドアが開いてリリィが入ってきた。
「これすごい! 軽くて動きやすいぞ!」
「お、おい。リリィ。いきなり入ってくるなよ。ビックリするじゃねーか」
「だってすごく動きやすいんだもん! これ気に入った!」
リリィが着ているのは白に近い色をしたインナーのような服だった。しかもタイツのように体にフィットしている。
もしかしてあれが防具なんだろうか。
「あれは一体何なんだ?」
「お気に召しましたか。あれはアイアンスパイダーの糸で作られた特別な防具なんですよ。強度と伸縮性を兼ね備えたアイアンウェアと呼ばれる防具です。どうでしょうか?」
「へぇー」
なるほどな。タイツのように伸縮性に優れていてフィットするからか、どの体系にも合うってわけか。あれならリリィのような体系でも着れるもんな。
しかしあれだ。体にフィットしてるせいか、女の子が着ると体形が浮き出てくるからエロく感じる。リリィのような大きなおっぱいしてる奴なら尚更だ。
……いやいや。何を考えているんだ俺は。
「加えて衝撃にも強くて耐久性もあるんですよ。なので上から鎧を装備する事で更なる耐久力を実現できるように――」
「このままがいい!」
「……はい?」
「動きやすいし! 気に入ったからこれがいい!」
本当に気に入ったのか、部屋の中を動きまくるリリィ。
「よろしいのですか? 他にも軽量の鎧もあるんですが……」
「ま、まぁ本人がああ言ってるんだからいいんじゃないかな……」
「そうですか……」
というわけで、リリィの防具はあれで決まった。
だけどあのままだと少し問題だな。リリィの場合は目に毒というか何というか……
「ちょっといいか。出来ればあの上に何か着せたいんだけど……」
「それならこちらで服をご用意しますよ。ご安心して下さい」
「そ、そうか。それは助かるよ」
そして再びメイドに連れていかれてリリィは部屋から出て行った。
しかしあの防具はなかなか便利だ。軽くて防御力も高いとか実用性あっていいじゃないか。
これは2人にも着させてみるか?
「そうだ。ラピスも今のやつ着たらどうだ?」
「え? あたし?」
「うん。ついでにフィーネもだ。どうだ?」
「私もですか? いいんですか?」
「そろそろ新しい防具が欲しいと思っていたところだしな。丁度いいタイミングだと思う」
後衛なら動きやすいほうがいいだろうし。ピッタリだと思う。
「というわけで、今のやつあと2着欲しいんだけどいいかな?」
「すいません。それは出来ないんですよ」
ああそっか。さすがにあと2個寄越せとか言いすぎたな。欲張りすぎて失礼だった。
「じゃあ金は払うからさ。2人分を買い取るからそれでいいかな」
「いえ。そうじゃないんですよ。あれが最後の一品なんです。もう在庫が無いんです」
「マジか……」
それは残念だ。
確かにあんな便利な物だと人気ありそうだしな。仕方ないか。
「それなら入荷するまで待つしかないのか……」
「次の入荷まだ未定です。もしかしたらかなり先になるかもしれません」
「そんなに人気なんだ……」
「いえ。違うんですよ。今はとある問題のせいで流通が滞っているんです」
「どういうこと?」
困ったように苦笑いをしたまま話しかけてきた。
「素材となるアイアンスパイダーは東方面に生息しているのはご存じですか?」
「そういやそうだった気がする」
「通常ならば東方面から運ばれてくるのですが、道中に厄介な存在が居ましてね。そのせいで東からの流通全般がかなり遅れているんですよ」
「厄介な存在?」
「そうです。詳細は不明ですがこう呼ばれています」
レオンさんから笑顔が消え、真剣な表情で口にした。
「…………〝死神〟……と」
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