第70話:ディナイアル商会本社

 レオンさんと握手を交わした後にあることを尋ねた。


「さっそくで悪いんだけどさ。ちょっと急ぎで仲間の防具が欲しかったところなんだ。あそこでローブ来て座ってる女の子の分が欲しくてさ」


 離れた所に座っているリリィを指さす。


「まだ何もしてないんだけどさ。先に装備品作ってもらえないかな?」

「ええ。構いませんよ。お近づきの印として無償で提供致しますよ」

「マジか。それは有難い」

「では皆さんで本社までご案内します。外に馬車を待機させてあるのでそちらまでどうぞ」


 というわけで全員で馬車に乗り込むことになった。馬車は普通より大きく、なかなか豪華な外見をしていた。貴族とかが使ってそうな雰囲気だった。

 そんな派手な見た目のせいか、馬車に乗り込んだ後もラピスとフィーネが落ち着かない様子で周りをキョロキョロ見ていた。


「ね、ねぇ。本当にあたしも乗っていいのかしら……?」

「こんな立派な馬車に乗ったのは初めてです……」


 そんな2人の態度に見てレオンさんが話し出す。


「そんな身構えなくても大丈夫ですよ。皆さんも気を楽にして下さい。ゼストさんのお仲間でも全力でおもてなしさせて頂きますよ。ですからリラックスして下さい」

「は、はぁ……」


 レオンさんの話を聞いてもあまり落ち着かない2人だった。

 ちなみにリリィはいつもと変わらない態度だった。




 そして馬車に揺られて十数分経った後、とある建物のまで馬車が停まった。

 先にレオンさんが降りてから俺達も続けて降りることになった。


「ここがディナイアル商会の本社です。応接室までご案内しますので付いてきてください」

「………………」


 俺達は言葉を失っていた。何故なら予想外の光景を目にしたからだ。

 想像した建物とはあまりにも違っていた。

 だって――


「な、なぁ。本当にここで合ってるの?」

「何がですか?」

「なんというか……場違い感が半端ないっていうか……」

「正真正銘、ここがディナイアル商会ですよ。どうかなされましたか?」

「い、いや……何でもない……」


 一言で言うと豪邸だった。それもかなりの規模の。その大きさに圧倒されていたのはラピスとフィーネも同じ様だった。

 マジでここが本社なのか?

 こんな大企業の社長だったんかい。


「ひ、一つ聞いていいか?」

「はい? 何でしょうか?」

「なんで俺と専属契約しようと思ったんだ?」

「その件について先程お話した通りですが。まだ納得頂けませんか?」

「いやそうじゃなくて……」


 だってこんな一流企業だとは思わなかったしな。大企業が無名の個人と手を結ぶようなものだ。

 ここまで立派になっているのなら、もはや専属契約してでも稼ぐ必要はないはずだ。


「俺とか要らなくない? もう十分成長してるじゃん……。これ以上稼ぐ必要あるの?」

「ああ。そのことですか」


 レオンさんは顔を反らしてから続けた。


「実は僕には夢というか、やりたいことがあるんです。その為にもっと大きくなる必要があるんですよ」

「…………?」

「立ち話もなんですし、応接室までご案内しますよ。こちらにどうぞ」


 そう言って歩き出したので俺達もついていくことになった。

 大きなドアをくぐって中に入ると、予想通りというか立派な内装をしていた。

 そして壁際に数人のメイドがレオンさんを見ると、一斉に頭を下げ始めた。


「「「「お帰りなさいませ」」」」

「ご苦労様です。専属契約の書類を作ってくるので、その間に僕の大事なお客様を応接室までご案内お願いします」

「かしこまりました。ではこちらまでどうぞ」


 1人のメイドが俺達を引き連れて移動し始めた。

 しかし全員が移動し始めようとした時、奥から従業員らしきおっさんが現れ、レオンさんに向かって小走りで近寄って行く光景を目にした。


「社長! 例の件でお伝えしたいことがあります!」

「……なんでしょう?」

「実は……」


 おっさんはレオンさんに向かって早口で話し始めた。

 それを聞いたからなのか、レオンさんの笑顔が消え始めた。


「…………なんですって?」

「やはり……このままだと厳しいかと思われます……」

「そうですか……やはり現状では難しいですか……」

「それに加えて……例の盗賊団も現れたという情報もあります……」

「…………」

「どうしますか?」

「…………その件は保留にします。別の案が無いか後で検討しましょう。今は損失の補填を急いで下さい」

「はっ! かしこまりました!」


 そしておっさんは忙しそうにどこかに走り去っていった。


「ゼストー! どうしたのー? こっちよー!」

「ああすまん。すぐ行く」


 俺だけ立ち止まっていたからかラピス達は離れた所に居た。それに追い付くために急いで向かうことにした。

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