第65話:話し合い

 次の日、俺は1人で家を出ることにした。皆には散歩に行くとだけ伝えている。

 外に出てたまず最初にしたのは情報収集だ。その為に冒険者が多く来る冒険者ギルドへと足を運んだ。


 何の情報かって?

 勿論、ローズの所在地だ。

 あの姫プ女に直接会いに行く為にこちらから出向くことにした。


 色々な人にローズの居場所を聞いて回ったが、割とあっさり情報は集まった。もう少し苦労するかと思ったから意外だった。

 ローズとかいう奴は良くも悪くも有名らしい。だからこんなに簡単に情報が手に入ったんだろう。あれだけ目立つような恰好をしてるんだ。嫌でも有名になるわな。

 となれば話は早い。さっそくローズの家に向かうことにした。


 教えてもらった道をしばらく進むと、ローズが拠点としているらしい建物に到着した。

 建物はそれなり大きい外見をしている。4~5人程度なら住めそうだ。


 入り口に近づいてドアをノックする。少し待っても反応が無かったので何度かノックを続けた。

 すると中から女の声が聞こえてきた。


「はいはい。今いくからちょっと待ってよぉ」


 そしてゆっくりとドアが開かれた。


「まだ集合時間じゃないのに一体何の用……」

「よう」

「……ッ!?」


 出てきたのは間違いなくローズ本人だった。

 さすがにビックリしたのか目を見開いて固まってやがる。


「ちょっと話しようぜ。お前に言いたいことが山ほどあるんだ」

「くっ……」


 すぐにドアを閉じようとしたがもう遅い。

 ローズは閉じようと必死に押さえて付けているが、俺はドアごと蹴り飛ばすと勢いよく開いた。


「きゃあ……」

「会いたかったぜ姫プ女。この時間ならまだ家に居ると予想したが正解だったな。しばらく付き合ってもらおうか」


 ドアごと蹴飛ばした反動のせいかローズは倒れていたが、構わず中へと入る。


「へぇ。意外と綺麗な場所に住んでいるんだな。まだCランクなのによくこんな家が手に入ったな? 全部お前の稼ぎで買ったのか?」

「…………」

「それとも男達を誘惑して貢いでもらったのか? まぁ今はどうでもいいか」


 明らかにこいつの実力では住めないような家だしな。とても自分の力で手に入れたとは思えん。

 俺には関係ないからどうでもいいけど。


「な、何しにきたのよ!?」

「ちょっとお礼をしにきたんだよ。お前はラピスに色々と吹き込んだらしいな?」

「ラピスって……あの小娘のこと?」

「思い出したか? なら話が早い」


 ローズの元へと近づく。


「ラピスに何を話したのか詳しく知らんが、寄生扱いしたそうだな?」

「そ、それがどうしたのよ!?」

「お前が言える立場かよ。自分だって姫プしてるくせによく他人を寄生扱い出来るもんだな」

「姫プ……? よく分からないけどそれが何よ!?」

「ラピスと一緒にすんなってことだよ」


 強くなる為に楽をしているだけならともかく、こいつは何もしてないからな。

 こういうタイプが一番嫌いだ。


「……だから何よ」

「自分が言える立場なのかって聞いてんだよ。お前だって寄生してるようなもんだろ」

「それの何が悪いのよ……!?」

「ほぉ……」


 開き直りやがったぞこいつ。

 ある意味すげぇな。


「私は女の子でか弱いのよ!? どう頑張っても男よりも劣るわよ!」

「だったらパーティ組んで一緒に戦えばいいじゃねーか」

「それでも限界があるわ! だって私には才能がないもの!」

「才能だぁ? 何言ってんだお前。んなもん何とでもなるだろ」

「でもこれでも精一杯なのよ! レベルは上がらないしスキルは全然増えないし……」


 そりゃ当たり前だ。自分は何もしてないんだから経験値が入るわけがない。


「そんなんでよくCランクになれたな……」

「これも仲間のお陰よ! 皆が私の為に戦ってくれたからね! これも私の人徳ってやつ?」


 その仲間とやらは奴隷か何かか?

 いや。前に見たあの男どもか。確かにあの集団なら喜んでやりそうだ。


「これが私の生き方なのよ。か弱い女の子なんだから前に出て戦うわけにはいかないし、皆のサポートするのが仕事なのよ」

「はぁ……」


 よくもまぁ偉そうに言えるもんだ。

 単なる寄生宣言じゃねーか。思った以上に頭がお花畑だったな。


「それにあのラピスって子も私の一緒じゃないの!」

「……は? 本気で言ってるのか?」

「だって私より年下なんでしょ? そんな子がまともに戦えるわけがないじゃないの。だからアナタに頼りっぱなしなのよね?」


 そういやこいつはラピスが戦う姿を見たことが無いのか。だから何もせず荷物持ちとでも思ってやがるのか。

 自分を中心に考えてるからそんな発想になるんだろうな。


「あのな。ラピスは立派に戦えてるぞ? お前と一緒にすんな」

「え……。で、でも大して役に立ってないんでしょ!?」

「そりゃ最初の頃は弱かったさ。スライムすら倒せないほどに」

「ほらみなさい! やっぱり私と一緒じゃない!」

「でも今ではゴブリンジェネラル相手に活躍する程に成長したぞ。言っとくがお前よりは強いはずだ」

「そ、そんな……あのゴブリンジェネラルを打ち取ったパーティってアナタ達のことだったの!?」


 へぇ。そういう情報は流れてくるのか。

 恐らく集計しにきたゲイルという人から聞いたんだろうな。


「で、でもどうせアナタが倒したんでしょ!? 周りは見ているだけだったんじゃないの!?」

「そら2匹目は俺が討伐したけどな。1匹目はラピス達が討伐したんだぞ。まぁその時は助っ人も居たけどな」

「う、嘘よ……」

「あの時は間違いなくラピスも活躍していたぞ。もしラピスが居なければもっと苦戦していたかもしれん」


 これは嘘ではない。

 あの時は周囲に湧くゴブリン共を潰しながら見ていたが、ラピスが使ったスキルで流れが変わったと言っても過言ではなかった。


「嘘だと思うのならショーンかロイという人に聞いてみるといい。その時、一緒に戦ってくれていたからな」

「…………」

「これがお前との違いだ。まだ年下でランクの低い女の子でも立派に戦ったんだぞ。か弱いだとか、才能が無いだの言い訳するぐらいなら1匹でも多く狩ってきたらどうだ?」

「…………」


 さすがに言い返せないのか黙ってしまった。

 だがこれで終わりかと思ったら、また睨みつけてきた。


「納得いかないわ……」

「ん?」

「それだけ強いのにどうしてあの子達の面倒を見てるのよ!? 何もメリットがないじゃない! どうせ物で釣っていい気になってるんでしょ!?」

「はぁ……」


 まーだ勘違いしてるなこいつ。

 さすがに頭が痛くなってきた。


「あのな。あの子らは一度たりとも、金や装備を寄越せなんて言ったことが無いぞ。しっかり自立しようと頑張っているんだよ。貢いで貰おうなんて発想は元から無かったと思うぞ。お前とは違うんだよ」

「なっ……」

「だから俺も手助けしようと思えたんだよ。お前みたいに、最初から寄生目的の性格だったら断ってたさ。これで納得したか?」

「…………」


 再び沈黙しだした。

 言いたいことは大体話したし、ここらで終わろうかな。

 そう思っていると……


「ふ、ふふふ……」


 急に笑い出したぞ。

 気でも触れたか?


「男なんて……みんな一緒よ……」

「あん?」

「ねぇ坊や。私の元に来ない?」

「……は?」


 ローズはゆっくりと近づいてきて変なポーズを取るようになってきた。


「私の仲間にならない? いえ、もっと親密な関係になりたいと思わない?」

「いきなりどうしたんだ……」

「私と一緒になれば……いいこと・・・・もいっぱいしてあげるわよ?」

「お、おい……」

「もし仲間になってくれるなら……私の事を好きにしていいわよ……?」


 胸元を見せつけるようなポーズで見上げてくる。

 それから更に近づき、体を押し当てるように密着させてくるよになった。


 …………


 そういうことか……


「ねぇ……どぉ? 私のこと好きにしていいわよ?」

「…………」

「あの子達では満足できないような気持ちいいこともさせてあげるわよ?」

「…………」


 …………もういいか。


「さっき好きにしていいとか言ってたな。あれは本当か?」

「ええ。私の体を好きにしていいわよ? 坊やが満足するまで付き合ってあげるわ」

「そうか。なら1つ頼みたいことがあるんだ」

「うふふ……何でも言ってちょうだい。坊やが望むままにしてあげるわ」


 少し離れてから丁度いい位置まで移動した。


「さあ言ってごらんなさい。私に何を望むの?」

「じゃあ歯を食いしばれ」

「……え? それってどういう――」


 拳に力を入れ、ローズの顔面めがけて渾身のストレートを放つ。


「フンッ!」

「ぐほぉっ!?」


 ローズは殴れた衝撃で後ろに吹き飛ばされた。

 しかし本人は何が起きたのか分かっていないみたいで、倒れたまま混乱した表情でこっちを見ていた。


「げふっ……え……あ……あ、あれ? い、今……何を……」

「直接ラピスに手を出さなかったみたいだし。手加減はしてやったぞ」

「ま、ま、ま、ま……まさか……私を殴ったの……? 女である私に……?」

「ああそうだ。好きにしていいんだろ? だから好きにさせてもらった」


 何をされたのか理解したらしく、ローズは徐々に怯えるようになっていく。


「お、女の子に対して……殴ったの……? この私を殴ったの……?」

「好きにしろって言ったのはそっちだぞ。別にいいだろ?」

「男が女の子を殴るなんて何のつもりよ……!?」

「俺が女に手を出さない優男に見えたか? 悪いが、男女平等主義なんだよ」


 倒れているローズに近づいて行く。

 すると怯えたような表情で少し下がっていった。


「いいか。もう二度と俺らに関わるんじゃねーぞ。もしまた妙なマネをしてみろ。今度は今の1000倍は殴ってやるからな」

「ひぃ……」

「お前の住処は割れてんだ。何かしてきたらすぐにやり返しに行くからな」

「も、もう嫌よ……」

「例え逃げても無駄だ。どれだけ逃げようとも地獄の果てまで追いかけてでも後悔させてやる。分かったな!?」

「ひぃ……わ、分かったから殺さないで……」


 何か変な匂いがすると思ったら、ローズを中心に水溜まりが広がっていくのが見えた。

 汚れたくなかったのですぐ離れ、その場から立ち去ることにした。


 ……これくれらい脅せば大丈夫だろう。

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