第63話:焦り

 俺達は今日も討伐に来ていた。

 しかしいつもと違って今日はやけに捗っていた。それはラピスの活躍しているお陰である。

 普段と違って随分とやる気なのだ。まるで別人のような活躍に俺も驚かされていた。

 やはりこの姉妹には光るものがある。一流の冒険者になれるのもそう遠くないだろう。


「よし。ここまでしとくか」

「今日はもう帰るんですか?」

「少し早いけどそろそろ撤収だ。キリがいいしな」


 周囲に居るモンスターはほぼ狩りつくしてしまったので帰ることにした。

 まだ続けるにはこれからモンスターを探すことになるからな。下手に探そうとすると日が暮れてしまいそうだ。


「というわけで帰るぞ」

「もう少し戦いたかったんだけどな……」

「また明日来ればいい。これ以上は探すのが面倒だ」


 やや不満そうなリリィであったが、特に何を言うことも無く帰り道に向かって歩いていった。

 俺も続いてセレスティアに向かって歩き出す。


 ここまでは何事も無く進んでいった。


 もう帰るだけのつもりだった。


 そんな時だった。


「……あたしは残るわ」

「へ?」


 振り返ると、ラピスはその場から動かずに弓を持ったままだった。


「どうしたんだ。何かやり残した事でもあるのか?」

「そうじゃないの。まだ狩りを続けたいのよ」

「でもなぁ……そろそろ疲れてきたと思うし、ここらで止めたほうがいいんじゃないか」

「あたしは大丈夫。これくらいならまだいけるわ」

「……?」


 どうしたんだろう。ラピスの様子がおかしい。

 いつもなら疲れた感じで帰りたがっている頃なんだけどな。


「お姉ちゃんどうしたの? 早く帰らないと暗くなっちゃうよ」

「ならみんなは先に帰ってて。あたし1人だけでも続けるから」

「え、えええ? どうしたの? お姉ちゃんだけだと危ないよぅ……」

「まだ平気よ。1日も早く強くなりたいのよ。この程度でへばってたらいつまで経っても強くなれないもの」

「な、何言ってるの? 一緒に頑張ろうって約束したじゃない。お姉ちゃんだけ負担になるようなことは止めようって言ったのに……」

「でも強くなりたいのよ。強くならなきゃ駄目なのよ。それがあたしの目的だもの」

「お姉ちゃん……」


 何だ何だ。ラピスのやつ本当にどうしたんだ。

 いつもの雰囲気が違う。何というか、余裕が無いというか……


「じゃ、あたしはモンスターが居ないか探してくるから」


 そういって移動しようと動き出す。


「おいおい待て待て。どこに行くんだ」

「言ったでしょ。モンスターが居ないか探してくるのよ」

「今日はもう無理だって。ここら一帯はあらかた探したんだし。これ以上は時間が掛かりすぎる」

「なら遠くに行ってみるわ。まだ手を付けてない場所もあるし」

「だから落ち着けっての」


 マジでどうしたんだこいつ。

 やる気があるのはいいんだが、あまりにも必死過ぎる。らしくない。

 別人のような態度だ。


「確かに強くなるのにはモンスターを倒すのが効率がいいけどな、だからと言ってそこまで急ぐ必要はないだろ。このペースでいけばSランクも夢じゃない。何を焦っているんだよ」

「でも……一刻も早く強くなりたいの。早く強くなって一人前になりたいのよ」

「だから何でそんなに急ぐんだ? 十分強くなってきてるじゃないか」

「それじゃあ駄目なのよ!!」

「ッ!?」


 いきなり大声を出されて思わず黙ってしまう。

 他の2人もビックリして固まっているようだ。


「そこまで急ぐ理由は何だ? 言っとくけどこれ以上やるとオーバーワークになりかねんぞ。疲れてると集中力が続かないし、休むのも冒険者として大事な一環だぞ」

「そうだよ! そろそろ日が暮れそうなんだし、暗い中で続けるのは無理だよ!」

「…………」


 この子らはまだまだ初心者レベルなんだ。まだ無茶をするような時期じゃない。


「今日はもう疲れただろ? そんな状態で続けてもまともに狩れるわけないだろうが。やろうと思えば続行できると思うが効率が悪くなるだけだ」

「…………」

「長時間の狩りは慣れてからのほうがいい。今のお前にはまだ早い。下手すりゃ死ぬかもしれないんだぞ。甘く見ないほうがいい」

「…………」


 やはり何か変だ。ラピスらしくない。

 ここまで必死になるような性格じゃないはずだ。


「また明日にすればいいじゃないか。根を詰めすぎても良くなるとは限らん。急ぐ必要はないじゃないか」

「ゼストさんもこう言ってるんだし。今日はもう帰ろうよ。ね?」


 諭すようにラピスに話しかけるが、黙ったままだった。

 しばらく待っているとようやく声を出してきた。


「…………そうね。暗くならない内に帰りましょうか……」

「うん! 手を繋いでもいい?」

「いいわよ……」

「よかった。じゃあ帰ろっ!」

「そうね……」


 フィーネが引っ張るように歩き出すが、ラピスは依然として元気が無いままだった。


 しかし本当にどうしたんだろうな。このままだと明日にも影響が出かねない。

 仕方ない。帰ったら話してみるか。

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