第58話:ゴブリン退治⑦

 図体の大きいゴブリンジェネラルは複数のゴブリンを引き連れ、俺達に襲いかかってきた。

 まずはリリィが飛び出し、ジェネラルの前方に居るゴブリン共を薙ぎ払う。


「邪魔だ!」


 さすがリリィだ。大剣でゴブリンをまとめて倒してしまった。

 そしてその勢いでジェネラルに向かっていく。


「ぶっ飛ばしてやる! 覚悟しろ!」


 大剣を振り上げ、ジェネラルに向かって振り下ろそうとする。

 だが……


「グァァァァァ!!」

「!!」


 ガキンと大きな音が鳴り響く。

 ジェネラルが持っていた大きな棍棒で受け止められてしまったのだ。


 リリィは一旦離れて大剣を持ち直し、再び攻撃を仕掛ける。

 だが先程と同じように大きな棍棒で防がれてしまう。


「ぐっ……こいつとんでもない力だ……!」


 あのリリィのパワー持ってしても簡単に防がれてしまうのか。それだけジェネラルのパワーもあるということだ。


「リリィさん危ない!」


 そんな状況が続くが、近くに居るゴブリンがリリィに襲いかかろうとしていた。

 リリィもそれに気づくが、ジェネラルとつばぜり合いをしているせいで避けられない状態になっていた。


「!?」

「《マジックアロー》!」

「グギャッ!?」


 ラピスの矢が襲いかかろうとしていたゴブリンを見事に打ち抜く。


「! 助かった!」

「他のゴブリンは任せて!」

「頼んだ!」


 俺も周囲のゴブリン共を退治しているが、さすがに全部をカバーしきれない。

 これはちょっと面倒なことになってきたな。出来ればもう少し手数が欲しい。

 せめてリリィが安全に戦えるようにさせたいんだが……


 そんな事を思っている時だった。


「オラァ!」


 剣を持った男が近くのゴブリンを切り裂いた。

 あいつはさっきの2人組の片割れだな。


「人手が足りないんだろ? ならおれ達も協力するぞ!」

「いいのか? さっきまで逃げようとしてたのに」


 ついさっきまで弱気で逃げる気マンマンだったのにな。

 てっきり既にどこかに逃げたと思っていた。


「あのデカブツを連れてきたのはおれのせいでもあるからな。そのせいで君達を巻き込んでしまったからな。責任ぐらい取るさ」

「そうか……ならよろしく頼む」

「ああ。おれはショーンって言うんだ。よろしくな!」

「俺はゼストだ。とりあえずリリィ……ジェネラルと戦ってるあいつが安全に戦えるようにしたいんだ。周囲に居るゴブリンを潰したい。頼めるか?」

「おうよ! やってやるさ!」


 よし。これで人手が増えた。

 ふと姉妹の方を見てみると、もう1人の男が弓を持って姉妹をフォローするように動いていた。


「ボクだって居るぞ! 巻き込んでしまった責任はボクにもあるからな!」

「ロイ! こっちは平気だから彼女たちを任せた!」

「ああ!」


 なるほど。剣を持ったほうがショーン、弓を持ったほうがロイと言う名前らしい。

 これは心強い。この2人もなかなか頼りになりそうだ。


「はぁぁぁ!」


 ショーンが次々とゴブリンを切り裂いていく。俺も負けじとゴブリンを倒していく。

 お陰で順調に数が減っていっているようだ。


 そんな状況がしばらく続き、周囲にいるゴブリンはほぼ殲滅し終わっていた。

 残るはリリィが相手しているジェネラルぐらいだ。


「くっ……」


 リリィはなんとか攻めようとしているが、攻撃する度に防がれてしまっている。そのせいで決め手に欠けていたようだ。

 ジェネラルは図体の割には俊敏に動けているからな。さすがにリリィだけでは厳しそうだ。


「こっちは片付いた! おれも手伝うぞ!」


 ショーンがリリィの元へと向かう。

 だがジェネラルは棍棒を振り回しているせいか、攻撃出来ずに少し引いてしまった。


「うおっ! 危ねぇ! ねーちゃんすげぇな……。こんなバケモノとやりあってたのか……」

「でもあの棍棒が邪魔で近づけないんだ……」


 リリィの大剣もなかなかのサイズだか、ジェネラルの持っている棍棒はそれ以上にデカい。

 それに加えてリーチ差があるからな。そのせいで攻撃は全て防がれ、ダメージを与えられずにいたんだな。


「こっちも片付いたわよ! あたし達も援護するわ!」


 ラピスがジェネラルに定めて矢を放つ。

 矢は真っすぐジェネラルに向かって飛び、腕に命中した。


「よし! このまま倒し切るわよ!」


 だがジェネラルは気にも留めずに動き続けている。全く鈍る気配が無い。

 ダメージはあるはずだが、これくらいでは怯むことはないようだ。


「ちょ……なんで平然としているのよ……」

「クソッ! 駄目だ! ボクの矢が通じない……」


 ロイも弓で援護をしているが、やはりジェネラルに対してはイマイチな結果となっている。

 その間にフィーネは火の矢をチャージしていた。既に5本ほどストックしている。


「…………《ファイヤーアロー》!」


 フィーネが放った火の矢がジェネラルを襲う。その内の3本が命中。


「グガ……」


 さすがに効いたのか、ジェネラルはほんの僅かに動きが鈍った。

 その隙を逃すまいとリリィが仕掛ける。


「おりゃああ!」

「……ッ!」


 だがやはり棍棒で防がれてしまう。

 それを見てショーンが動く。


「オラァァァァ!」


 ショーンの攻撃が届きジェネラルの背中を斬る事に成功した。

 いつの間にか背後に回り込んでいたようだ。


「おっしゃぁ! 見たか!」


 しかしジェネラルは背後に居るショーンに振り向き、棍棒を持っていない方の腕でショーンを殴りつける。


「ぐあぁぁ!」

「ショーン!」


 殴られた衝撃で吹き飛ばされるショーン。

 しかしすぐに起き上がった。


「いてて……」

「ショーン! 大丈夫か!?」

「こ、これくらい平気さ……。クソったれ……効いたぜぇ……」


 恐らくリリィに気を取られていたせいで力が乗っていなかったんだろう。だからあの程度で済んだわけだ。

 それからもショーンは攻撃に加わっていたが、殴られる前よりも慎重に動いていた。


 俺は湧き続けるゴブリンを潰しまわっていたが、ジェネラルとの戦闘は長引いているようだ。

 チマチマとダメージを与えてはいたが、どれも決定打に欠けている。


「しぶといわね……そうだ!」

「お姉ちゃん? どうしたの?」

「まだ習得したばかりで一度も使ってないのを思い出したのよ」


 そういえばまだ使ってないスキルがあったっけ。


「これならどう!? 《ブラインドアロー》!」


 ラピスの放った矢がジェネラルに命中。

 すると――


「……!? グガァァア!?」

「! やったわ!」


 ブラインドアローは確率で暗闇状態にするスキルだ。

 どうやら運よく成功し、ジェネラルは暗闇状態になったようだ。


 ジェネラルは片手で顔を押さえて暴れている。

 暗闇状態は視界を極端に狭める状態異常であり、動きを封じる効果はない。だから攻撃そのものは普通に出来る。

 しかし視界が悪くなったことでジェネラルの行動をある程度制限できたことだろう。


 その証拠にリリィの攻撃を防ぎきれなくなっている。


「……今だっ!」


 大振りの棍棒を受け流し、ジェネラルの胴体に大剣が直撃。

 斬られた部分から血が噴き出した。


「グギャアアアア!?」

「どうだ!」


 さすがに効いたのか、ジェネラルは大きくよろめいた。

 その隙にショーンも接近して切り裂く。


「このまま畳みかけるぞ!」

「おう!」


 それからは状況が一変した。

 ジェネラルは盲目に等しいぐらい視界が悪くなっているせいか、攻撃も大雑把なものになっている。その分隙も大きくなるわけで。

 大振りした棍棒を避けてダメージを与える。そして少し引いて攻撃が届きにくい背後に移動して再びダメージを与えにいく。


 後衛組も手を緩めずどんどん攻撃している。


「《ダブルアロー》!」

「《パワーショット》!」

「…………《ファイヤーアロー》!」


 3人もMPを惜しまずにスキルを使いまくっている。

 ここで一気に倒し切る気だ。


 ジェネラルも徐々に動きが鈍くなっていき、攻撃を防ぎきれなくなっていた。

 纏わりつく前衛2人が次々とダメージを与えていく。さっきと違い、リリィも防御よりも攻撃するチャンスが増えてきた。ショーンも負けじと剣を振るう。

 もはや時間の問題だろう。


 そして……


「くたばれぇ!」

「終わりだ!」


 前衛2人が大きく切り裂いた。

 それと同時にジェネラルの動きが止まる。そして呻き声を上げながら地面に倒れた。

 今の攻撃がトドメになったみたいだ。


「……や、やった」

「倒したのか……?」


 地面に沈んだ巨体はピクリとも動かず、生きているようには見えない。

 2人も警戒しつつ倒れている巨体を見つめる。

 だが起き上がる気配は全く無かった。


 ――ジェネラルの討伐に成功した瞬間だった。

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