第56話:ゴブリン退治⑤

 ローズを担いだ取り巻きがどこかに立ち去って行った後、リリィ達がこっちに戻ってきた。


「すげー! 今の爆発ってゼストがやったんだろ? あんなことも出来るんだな!」

「まぁな。あれは広範囲スキルだから一掃しやすいんだ」

「すごかったけど、一言欲しかったわね……。ビックリしちゃったわ……」

「悪い悪い。伝える暇が無かったんでな」


 実はもう少し威力は控えめだと思ってたんだよな。

 けど予想以上にデカかった。これも転生特典ってやつかな。


「ゼストさん……!」

「ん?」


 やたら目をキラキラさせたフィーネが俺を見つめてくる。


「い、今の……なんてスキルなんですか!?」

「あれはヘルズボムっていうスキルだよ。火の玉みたいなボムを打ち出して、何かに触れると起爆するという仕組みだ。広範囲スキルだから周囲のモンスターを巻き込みやすいんだ」

「な、なるほど……!」


 ヘルズボムは杖系統のスキルで、スキルツリーの奥の方に配置されている。

 習得するにはそれなりのSPスキルポイントが要求される。


「わ、私にも習得できますか!?」

「そりゃ出来るけど……オススメはしないな」

「ど、どうしてですか!? とっても強そうじゃないですか! そのスキルがあれば私でも活躍できそうなのに……」

「意外と使い道が限られるんだよ。ヘルズボムは馬鹿みたいに撃てるようなスキルじゃない」

「そ、そうなんですか?」


 このスキルは一見強そうに思えるが、使い勝手が難しいのだ。


「まず詠唱が長い。その間は完全に無防備になるから使うタイミングが難しい。そしてMP消費も激しい。連発できるようなものじゃないんだ」

「なるほど……」

「更にこれが一番の難点。弾速がマジで遅いんだよな……」


 威力は高くて範囲も文句無しなんだが、デメリットも多い。

 習得したのはいいが、使用タイミングが少なく案外使わなかったスキルの1つだ。


「着弾しないと発動しないという仕様だからな。逆に言えば触れなければ何の影響もない。対人戦なら見てから避けれられるのがオチだ。自爆覚悟でやるなら話は別だが」

「そうだったんですね。スキルって奥が深いんですね……」

「そらそうだ。杖は特にスキルが多いからな。強いからといって必ず役に立つとは限らん」


 だからこそ習得したいスキルは厳選しなければならない。全てのスキルを習得するのは不可能だからな。

 中には使い道が無い地雷スキルもあるからな。そういったのはなるべく避けたい。


「……ああそうか。このスキルにはもう一つデメリットがあったな……」

「? 何ですか?」

「威力が高すぎると何もかも吹き飛ばしちゃうんだよな……」

「あ……」


 爆心地を見てみんなもその意味が分かったようだ。

 そこには小さなクレーターがあるが、それ以外は何も見当たらない。

 そう……何も残ってない・・・・・・・のだ。


「ゴブリン程度だとオーバーキルだったな。今回の討伐では封印しとくか……」

「あはは……」

「すごい威力だったもんね……」

「アタシは直接殴ったほうが好きだぞ」


 爆心地にはもはやゴブリンの骨すら残っていない。何もかも吹き飛ばしてしまった。

 今の俺はまだレベルもステータスも低いし、もっと威力は控えめだと思ってたんだけどな。ここまでの威力になるのは予想外だった。

 恐らくフィーネから借りた杖も強かった影響もある。そういやこの杖もなかなかの性能してたしな。


「とりあえず杖は返すよ。ゴブリン退治は終わってないんだし、見張りは継続するぞ」

「はい。頑張ります」

「そうね」

「またさっきみたいな奴が出たら今度こそぶっ飛ばしてやる!」

「もう二度と関わりたくないわ……」


 あいつらはどこかに消えてしまったし、さすがに何度も現れないだろう。そう思いたい。

 とりあえず今はゴブリン退治だ。頭を切り替えねば。

 すぐ見張りに戻ろうとした時、あることに気づく。


「そうだ。すまんがちょっとお前らで見張っててくれないか」

「いいけど、どうかしたの?」

「装備を更新したいんだ」

「装備?」


 そう。さっきのゴブリン集団を一掃した時にレベルが上がったのだ。これでレベル15になった。

 ゴブリンは数が多い分、経験値は低く設定されている。けどあれだけの数を倒せばそれなりの量になったみたいだ。塵も積もればなんとやらだ。


 今までは適正レベルが足りなくて装備出来なかった装備が沢山あったからな。

 けどレベル15あたりから面白い装備が徐々に増えていくんだ。


「ああ。ちとインベントリ漁りたいから見張りは任せたぞ」

「う、うん。よく分からないけど代わりに見張っておくわ」


 その場で立ち止まりインベントリを開いて所持アイテムを漁る。

 さーて。どの装備にしょうかな。


 んー……数が多くてあちこちに散らばっているな。いい加減整理しないとなー。

 そんな中を考えながら漁っていると、とある武器に目が留まる。


 ――――――――――――

 □バーニングナックル

 攻撃力:90

 適正レベル:15


 ・STR+15

 ・スキルダメージ+10%

 ・クリティカル率+30%

 ・攻撃命中時、火属性の追加ダメージが発生する

 ――――――――――――


 ちょうと適正レベル15だし、これにしよう。

 さっそくバーニングナックルを取り出し、今の武器と付け替えることにした。

 ……うむ。燃えるように赤い見た目で気に入った。いい感じだ。


 このように適正レベルが高い武器ほど、アビリティも強力なものになっていく傾向がある。

 だが適正レベルを満たしていないと、アビリティの効果は全て無効化されてしまうのだ。なので身の丈にあった武器を装備するのは非常に重要だ。


 今俺が装備しているバーニングナックルより強い武器はいくらでもある。だが適正レベルが足りない武器を装備するメリットは無い。

 なぜならさっき言った通り、アビリティの恩恵を受けられなくなるからだ。


 それに中には適正レベル以外に、要求能力が設定されている武器も存在する。

 例えばこの武器。


 ――――――――――――

 □ドリルナックル

 攻撃力:260

 適正レベル:30

 要求能力:STR100以上


 ・AGI+30

 ・スキルダメージ+50%

 ・クリティカルダメージ+50%

 ・攻撃命中時、確率で相手の防御力ダウン

 ・確率でダメージ+100%

 ――――――――――――


 このように要求能力が設定されている武器もあり、その条件を満たしていないと当然ペナルティが発生する。

 条件を満たしていない時のペナルティは重く、なんと『攻撃力が90%ダウン』というものだ。つまり本来の10%の威力しか出ないということになる。

 いくらアビリティが優秀でも、威力が殺されている状態では本末転倒である。

 勿論、適正レベルのペナルティと重複する。


 つまり今の俺がこのドリルナックルを装備しても、下手すれば初期武器にも劣る性能になってしまうということだ。

 強力な武器には大抵、この条件が設定されている。だから今は身の丈にあった武器を使うしかないのだ。

 まぁ一番重いデメリットは他にあるんだけどな。


 おっし。これでさらにダメージが上がるし効率もよくなるはずだ。

 さっそく試して――


「!? お、おい! そこの君たち! 今すぐそこから離れろ!!」


 ………………え?

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