第52話:ゴブリン退治①
俺達は冒険者ギルドを訪れていた。
今日は依頼でも受けようかと思っていたからだ。ある程度の依頼を達成しないとランクが上がらないからな。その為に手頃な依頼が無いか探しに来ていた。
ちなみにリリィはFからEにランクアップしている。だから全員で依頼を受注することが可能だ。
そんなこんなで掲示板の前で依頼書を物色している最中だ。
「いいやつ無いかな」
「どれもあたし達では受けられないものばかりね」
俺はまだEランクだからな。となると受注可能な依頼も限られてくるわけで。
一応Eランクの依頼もあるといえばあるんだが、どれも護衛だったり、アイテム収集系ばかりだった。
「お前らはどれがいい?」
「どれでもいいわよ。やってみないと分からないもの」
「ゼストさんが選んでくれたものなら何でもやりますよ」
「強いやつぶっ飛ばせるやつがいい!」
「んー……」
討伐系はどれもDランク以上の物ばかりだ。Eランクで受けられるものは少ない。
何かいいものが無いかと探していると、Eランクで受注可能な討伐依頼書を発見した。
「あれやってみるか。ゴブリン討伐」
「ゴブリン? あたしでも倒せるかしら?」
「余裕だよ。強さ的にはヘビーボアより弱い。だけどやつらは数が多いんだよ」
「へぇ。そうなのね」
ゴブリンといえば定番のモンスターだろう。醜悪な姿で人間の嫌われ者になることが多いあれだ。
大して強くは無いがとにかく数が多い。5匹以上まとめて襲い掛かってくることも珍しくない。
多い時には何十匹もまとめて現れることがある。それがゴブリンだ。
「今日はゴブリン退治といくか。ゴブリンみたいな複数出現する相手は経験無いだろうしな」
「そういえばまとめて襲われることは無かったわね。単体でいるやつと何度も戦ってたし」
今までは多くても3匹ぐらいしか同時に出てくることが無かったからな。まぁなるべく集中できるように俺が間引いてたってのもあるけど。
「今までは戦闘自体に慣れさせることを優先したかった。だから1匹か2匹程度しか出てこないような場所ばかり行かせてたんだよ」
「そうだったんですね」
「やっぱり多いと大変かしら?」
「そうだな。目の前にいる敵ばかりに集中してると、横湧きしてきたやつに対して反応が遅れる。それが原因でパーティが決壊することもありえるからな」
横湧きしてきた敵に後衛がやられてしまい、そこからパーティが崩れ始める……なんてのはよくある話だ。
なるべく前衛が敵を抑えるような動きが理想的だが限界というものがある。何もかも上手くいくとは限らないからな。
「話聞いていると怖くなってきたんですけど……」
「だからそうならないように上手く立ち回るんだよ。今のうちに慣れておけば今後に生かせるからな。俺が居るから大丈夫だって」
「そ、そうですね。ゼストさんが居るなら安心できますね」
「アタシだって居るぞ! みんな守ってやるから任せろ!」
「は、はい。頼りにしてます」
決まりだな。今日はゴブリン討伐だ。
俺はゴブリン討伐の依頼を引き受けるべく、レイミの元まで移動した。
「あのー。これ受注したいんですけど」
「はい。分かりましたニャ。皆さんも一緒に行かれるんですニャ?」
「そうですね。全員で一緒に討伐する予定です」
「それは丁度よかったですニャ。この依頼はギルドから発行されたもので、少し特別なんですニャ」
「え? 特別?」
「これは複数の冒険者達と合同で討伐する形式となっていますニャ。今回のゴブリンは数が多いと想定されたのでこうなりましたのニャ」
なるほどな。レイド戦みたいなもんか。
「しかし間に合ってよかったのニャ。規定数に足りたので明日決行する予定だったんですニャ」
「ギリギリ間に合ったわけですね」
「当日は現地に集合する決まりになっていますニャ。遅れないように気を付けてほしいニャ」
「分かりました」
レイミから場所を教えてもらい、ギルドから立ち去ろうとした時だった。
ギルド内に居た女から声をかけられたのだ。
「ちょい待ちなさいよ」
「ん? 俺か?」
「そうよ。まさかアンタみたいな坊やもゴブリン討伐に参加する気なの?」
「そのつもりだけど何か?」
「……プッ。こんな弱そうな坊やも来るの? 役立ちそうにないんだから止めとけば~?」
そういって近づいてきたのは、やたら化粧が濃く、露出が激しい恰好をしている女だった。
「何が言いたいんだ?」
「ランクはいくつなの?」
「……まだEだけど」
「ほらみなさい。まだEランクのガキじゃないの。どうせ来ても逃げ回るだけに決ってるわ」
「…………」
何なんだこの女は。いちいちイチャモンを付けにきたのか?
「あのね。これは遊びじゃないのよ。ゴブリンだからって甘く見てると死ぬわよ?」
「お前には関係無いだろうが」
「あるわよ。いざ討伐しようって時に、逃亡者が出たら全体の士気にも関わるじゃないの。それだけは避けたいのよ」
「んなことしねーよ」
さっきから変な匂いがすると思ったが、こいつが付けてる香水の匂いだな。
「お前も冒険者なのか?」
「当たり前じゃない。坊やと違ってCランクなのよ。分かったなら敬いなさいよ」
冒険者なのに香水付けてるのかよ。
どう見ても強そうには見えない。本当にCランクもあるのか?
「Eランクだからって弱いとは限らないだろうが」
「じゃあその子らは何なのよ。男のくせに女性を連れ回してるわけ?」
「え、あたし達のこと?」
「そうよ。どうせ金で釣って護衛させてるんでしょう? 女の子に戦わせて恥ずかしくないの? 男のくせに見っともない」
そういうことか。こいつが何で俺を見下しているのか分かった気がする。
俺達は男1人と女3人のパーティだからな。女を奴隷にみたいに働かせて自分だけ何もしてないと思われているんだろうな。
「ち、違うわよ! あたしは教わっている身だから一緒になっているのよ! 自分の意志で戦っているわ!」
「私はまだ弱いので色々とお世話になっているんです。雇われているわけではありません」
「可哀そうに。そう言うように指示されているのね……」
「だから違うってば!」
これはあれか。話が通じないタイプだな……
面倒くさいから無視しようかな。
「ローズ様! どうかされましたか!?」
奥の方から男がそう叫びながら近づいてきた。
「ちょっと絡まれただけよ。Eランクのくせに女の子を連れ回してたから叱っていたのよ」
「絡んできたのはそっちの方だろうが。デタラメ言うな」
「おいお前! ローズ様が嘘をついてたとでも言うのか!?」
「そうだよ」
「ふざけるな! ローズ様がそんなことするわけないだろ! 何なんだお前は!?」
何なんだこの男は。まためんどくせぇ奴が出てきたな。頭が痛くなってきた。
というかこの女はローズという名前なのか。
「まぁいいわ。私も心が広いから許してあげるわ」
「こんな連中と居てはローズ様まで品格が落ちてしまいます! 早く帰りましょう!」
「そうね。もう帰ることにするわ。じゃあね。せいぜい足を引っ張らないことね。坊や」
そう言い残し、2人は離れていってギルドから出ていった。
何だったんだ今のは……
「感じわるーい……何なの今の人……」
「あまり関わりたくない人ですね……」
「今のやつぶっ飛ばしてもいいか?」
「落ち着けお前ら」
皆も明らかに不機嫌な表情になっている。
「中にはああいう人間も居るってことだ。世の中全員が聖人ってわけでもあるまい」
「でもぉ……」
「ゼストさんを悪く言ってましたし許せないです……」
「気にしてないから大丈夫だって」
「やっぱりぶっ飛ばしてくる」
「だから落ち着けリリィ」
3人ともしばらく不機嫌のままであった。
今日は早めに切り上げよう……
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