第50話:反省

 俺達は森を抜けてから一旦、草原へと戻っていた。

 結局、ヘビーボア程度だとリリィの無双状態になるので他の場所に移動しようと思ったからだ。


「次はどこに行くんだ? どいつをぶっ飛ばせばいいんだ?」


 リリィが目をキラキラさせながらそんなこと聞いてきた。


「んー……ちょっと待ってくれ。考えてる」

「じゃあ待ってる! どんなやつだろうとアタシがぶっ飛ばしてやる!」


 自信たっぷりだな。こいつなら実際に出来そうだから困る。


 …………仕方ない。

 やはりあれを試してみるか。


「なぁリリィ。本当にどんなモンスターでも倒せるのか?」

「もちろん! 強いやつと戦ってみたいんだ!」

「そうか……」


 一度こいつの常識を変えてしまったほうが早いかもしれん。


「それなら今からモンスターを召喚するからさ、そいつを倒してみてくれないか」

「ん? そんなこと出来るのか?」

「まぁな。で、どうだ? やってみるか?」

「やる! 戦ってみたい!」

「あいよ。ちょい待っててな」


 俺は少し離れてから召喚スキルを使うことにした。


「《召喚》――来い! コラーゲン!」


 地面が光り、そこから現れたのは巨大クラゲことコラーゲンだ。


「おおー! 変なのー!」

「な、何あれ……見たことないモンスターだわ」

「あれは確か、闘技場でも見たことあります」


 こいつはガルフとの試合で召喚したモンスターだ。

 無数の触手があり、水中にいるかのようにフワフワと浮いている。


「その変なやつを倒せばいいのか?」

「ああそうだ。言っとくけどこいつはとんでもなくタフだぞ? 最強の盾と呼ばれるぐらいだからな」

「よく分かんないけど、アタシがぶっ飛ばしてやる! 見てろ!」


 自信満々の意気込みで背中から大剣を取り出して構える。


「触手には気を付けろよ。猛毒だからな」

「分かったー!」


 リリィはコラーゲンに接近するが、触手の範囲内には近寄れずにいた。


「触手が邪魔だなー……そうだ」


 大剣を横に持ちかえ、触手をまとめて薙ぎ払った。これでコラーゲンの本体に刃が届くようになった。


「これで邪魔な触手は無くなったもんね!」


 ジャンプして高く飛び上がって大きく振りかぶり、コラーゲンの頭上に大剣が襲い掛かる。


 大剣はほぼド真ん中に振り下ろされる。


 そのままコラーゲンに直撃――したかに見えた。


「ありゃ?」


 大剣はコラーゲンを切り裂くことは出来ず、ニュルンと表面を滑るように受け流したのだ。


「言っとくけどそいつは意外とヌメヌメしてるからな。ダメージは通りにくいと思え」


 遠距離攻撃に耐性を持っているが、近接攻撃に対してもそれなりにタフな性能をしている。


「むぅ……なら何度でもやってやる!」


 大剣で切りかかるが、さっきと同じように受け流される。

 もう一度攻撃しようとするが、触手が再生してきたのを見たリリィは後ろに退いた。


「うー……触手が邪魔!!」


 再び触手を薙ぎ払ってから近づき切りかかるが、やはりダメージを与えられない。


 薙ぎ払った時に触手は消えたわけではない。リリィは気づいてないかもしれないが、大剣にべったりと絡みついているのだ。

 実は触手が武器に絡みつくと、攻撃力が大幅に低下してしまうのだ。


 近づくには触手を何とかするしかない。

 だが持っている武器で対処すると攻撃力が落ちる。

 そのままの状態で攻撃してもダメージは与えられない。

 ノンビリしているとまた触手が再生してしまう。

 ……という風に何も考えずに戦うと、このような負のループに陥るだけなのだ。


 リリィは何度も攻撃しようとしているが、結果は全て一緒だった。


「うー……こいつ全然倒れないぞ! 何でだー!?」

「簡単に倒せたら最強の盾なんていわれてないっての」

「うぅぅぅ……」


 これ以上攻撃しても無駄だと悟ったのか、手を止めて諦めたような表情をするリリィ。

 さすがにギブアップかな。


「どうだ? 1人で戦っても勝てそうにないだろ?」

「こんなのどうやって倒すんだよぉ……」

「だからパーティを組む必要があるんだよ。1人では勝てない相手でも、全員で協力し合って戦えば勝てるようになるんだよ」

「そうだったのか……」


 こんなの基本中の基本なんだがリリィはよく分かって無さそうだったからな。だから実際に体験させてみたわけだ。

 効果はバツグンだったみたいだな。明らかにテンションが落ちてやがる。


「少しは反省したか?」

「うん……。アタシが間違ってた……」

「また同じような真似するなら追い出すからな。1人で暴走するようなやつは要らん。パーティが乱れるだけだからな。分かったか?」

「!! しないしない! もうしない! 絶対しない! 謝るから!」


 ここまで落ち込んでいると調子狂うな。かなり効いたみたいだな。


「まぁ間違いは誰にでもあるもんさ。そんなに自分を責めるな。次から気を付ければいい」

「みんなゴメン。これからは自分だけで戦おうとするのは止めて、もっと頼ることにするよ……。もうあんなことはしないと誓う。だから許してもらえるかな……?」

「う、うん。あたしも頼りにしてるから大丈夫よ?」

「そんなに落ち込まないでください。これから頑張ればいいんですから!」

「ほんとゴメン……」


 もっと時間が掛かると思っていたが、意外と早く更生できたな。

 リリィの扱い方が少し分かったかも。


 そんなことを考えているとラピスが耳元でヒソヒソと話しかけてきた。


「ね、ねぇ。ゼストが召喚したモンスターって、あたしとフィーネが加勢しても勝てるとは思えないんだけど、あんな言い方でよかったの?」

「ちょっぴり誇張しただけだ。あのぐらい分かり易い方がいい。せっかくいい感じになったんだから本人に言うなよ?」

「そ、そうね……」


 これで問題は解決できたかな。

 あとは鍛えるだけだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る