第49話:脳筋女

 翌日。

 起きてからリビングに全員集まって座っていた。

 俺は近くに座り3人に向かって話しかける。


「じゃあさっそく討伐に行くわけだが、その前に……リリィ。冒険者カードは持っているか?」

「あるぞ。無くさないようにしまってあるからな!」

「ステータスを見せてもらっていいか? まだお前の能力は把握してなかったからな」

「いいぞ。はいこれ」

「どれどれ」


 リリィから受け取り、ステータスを確認する。


 ―――――――――――――――

 リリィ

 ランク:F

 レベル:24


 STR:259

 VIT:56

 INT:1

 AGI:85

 DEX:15

 ―――――――――――――――


 う、う~ん……

 なんというかすごく分かりやすい伸び方してんな……


「というかお前、レベル24もあったんか」

「昔からいっぱい狩ってたからな! 強いだろー?」

「う、うん。そこらの雑魚敵なら相手にならないと思う」

「へへん!」


 俺よりもレベルが高いし、ステータスも優秀だ。

 ちなみに俺はまだレベル14だ。

 ステータスはこんな感じ。


 ―――――――――――――――

 ゼスト

 ランク:E

 レベル:14


 STR:69(+22)

 VIT:30(+22)

 INT:21(+22)

 AGI:44(+22)

 DEX:25(+22)

 ―――――――――――――――


 転生ボーナスを込みにしても、このレベル差だとリリィのが高いステが多い。

 仮にレベルが追い付いても、一部のステは追い抜けないだろうな。さすがは竜人族といったところか。


「うん。これでリリィのステは把握した。これ返すよ」

「ん。それでアタシはどうすればいいんだ?」

「そうだな……お前ら3人でパーティを組んでもらおうか」

「パーティ?」


 実はこれがやりたかったんだ。


「あたしとフィーネとリリィで組むの?」

「そうだ。3人でパーティを組んだと仮定して動いてもらう」

「アタシは1人でも十分だぞ」

「そうはいかん。ソロだと色々と限界があるんだよ。それにこれからはパーティで討伐することも多くなるからな。なら今のうちにパーティでの動き方に慣れたほうがいい」


 ある程度難易度が高いダンジョンとかになるとパーティで行くことがほぼ必須になるからな。ソロで行くには敷居が高すぎる。

 それにパーティのほうが事故が減って、より安全に狩りを行うことが出来る。

 今のうちに連携プレイに慣れた方がいい。


「せっかく前衛が居るんだ。なら連携して動いた方が安定するし、戦略も広がる。利用しない手はない」

「そうね……安全になれるならそっちの方がいいわ」

「が、頑張ります!」


 俺が前衛として動いてもいいんだが、それだと姉妹の動きを見れないからな。さすがに面倒だ。

 そんなところに現れたのがリリィだ。丁度剣を持っているし前衛として十分活躍出来るだろう。


「でもでも。他の人と一緒に狩りをしたことはほとんど無いぞ?」

「だからこれから特訓をするんだよ。最初から完璧にやれと言ってるわけじゃない。これから徐々に慣れていけばいいんだから」

「そ、そうかもしれないけど……」


 リリィはやたら悩んでいるな。そんなに不安なんだろうか。


「大丈夫だって俺が付いてるから。それにこれも強くなるために必要なことだからな」

「!! そうなのか!?」

「ああ。強くなりたいんだろ? ならパーティでの動き方を覚えた方がいいぞ」

「分かった! ならがんばる!」


 嘘は言っていない。

 こいつはひたすら突撃するようなスタイルだったからな。だからパーティを組めば周囲を見るようになって落ち着くと思ったんだ。


「じゃあ行こうぜ! どいつを狩るんだ?」

「そうだな。お前らはどこに行きたい?」

「どこでもいいぞ!」

「そうねぇ……不安だから一度行った場所がいいわ」


 一度行った場所か。

 となると……


「ならベビーボアとかどうだ」

「ベビーボアねぇ……」

「あいつらなら丁度いいと思う。慣れてきたらすぐにヘビーボアに挑めるし、腕試しには持ってこいの場所だ」

「なるほど……」


 今の姉妹ならヘビーボアでも十分勝てるはずだ。

 だがラピスは浮かない表情のままだった。


「不安か? あの場所にはあまりいい思い出が無いだろうしな」

「………」

「やっぱり別の場所にするか? 少し遠くなるけどオークでもいいぞ」

「いえ……ベビーボアの居た場所にするわ。いつまでも苦手意識が付いたままだと前に進めないもの」

「ほぅ」


 グレートボアに遭遇した日以降、あの森には行ってないんだよな。


「フィーネもそれでいいわよね?」

「うん。お姉ちゃんが決めたことだもん。一緒に付いていくよ」

「一緒にがんばりましょ!」


 決まったな。今日はボア狩りだ。


「で、でも、あの大きな怪物がまた出たら任せていいかしら?」

「グレートボアのことか?」

「う、うん。さすがに今でも勝てる気がしないから……」

「安心しろって。滅多に遭遇できないレアモンスターだからなあいつ。こっちから探そうとしてもまず見つからんよ」

「そ、そうなのね……」


 変異種ってのはそう簡単に遭遇できるモンスターじゃない。

 何度も出会えたらレアじゃないしな。


「それに……」

「?」


 リリィが居る方向に顔を向ける。

 それに釣られて姉妹も同じ方向に向いた。


「リリィならグレートボアにも勝てそうな気がするんだよな……」

「た、たしかに……」

「私達よりレベルが高いですもんね……」


 竜人族の力に加えてあの大剣だからな。ぶっちゃけ勝機は十分あると思う。


「? なんの話だ?」

「いやなに。頼りにしてるってことだ」

「そうか? そんなに強そうか?」

「ああ。お前ならグレートボアにも勝てるかもしれん」

「よく分からないけど任せろ! どんなやつでもぶっ飛ばしてやる!」

「場所的にリリィの実力だと楽勝だと思うから手加減はしてくれよ」


 しばらくテンションが高いままだったリリィであった。




 そして目的の森へと到着した。

 到着してからリリィが先頭で進んで狩りをすることになった。

 始めは順調に進んでいると思っていた。


 思っていたんだが……


「おりゃあああ!」


 リリィの大剣がヘビーボアを一撃で仕留めてしまう。

 ベビーボアも当然のように一撃で倒してしまっている。

 その光景を呆然と眺める姉妹。


「ねぇ……もしかしてあたし達って要らないんじゃ……」

「リリィさんすごいですね……。全部1人で倒してます……」


 そう。さっきから戦っているのはリリィだけなのだ。

 ヘビーボアと遭遇する度に大剣で瞬殺している。あいつ1人だけ無双ゲー状態だ。


「予想以上に強いな。頼もしいけど、これでは練習にならん」

「そうね。まだ1本も矢を撃ってないもの……」

「あはは……」


 今日はパーティの連携を特訓するために来たんだ。これでは来た意味が無い。

 というかリリィはどんどん先に進んでいくからな。俺達はその後をついてくだけになっている。

 さすがに止めた方がいいな。


「リリィ! もういい! 戻ってこい!」

「えー? アタシはまだ疲れてないぞ!」

「そういう問題じゃない! いいからこっちに来い!」

「分かったー!」


 ようやくリリィの足が止まり、物足りなさそうな表情をしたままこっちに近づいてきた。


「どうしたんだー?」

「あのなぁ……お前だけ先行しすぎだ。パーティを組んでるってこと忘れてないか?」

「だから全部ぶっ飛ばしただろ? アタシが全部倒せばみんなも守れるぞ!」

「…………」


 なんつー理論だ。

 そりゃ確かに前衛が全部のモンスターを引き受ければ後衛に被害は出にくい。しかしこれだとソロと変わらん。


「そうかもしれないけどな、今回はパーティでの動き方を練習しにきたんだ。どんどん先に進むなっての。後衛を置いてきぼりにするんじゃない。手加減しろって言っただろうが……」

「大丈夫だって! 誰がきてもぶっ飛ばしてやるから!」

「だからそういう問題じゃないっての……」


 ずっとソロで戦ってきたんだろうな。戦法がソロ用になってやがる。


「百歩譲って全部倒せるのはまだいい。けど先行しすぎなんだよ。後衛とはぐれて敵に囲まれたらどうするんだ?」

「全員ぶっ飛ばす」

「なら強敵が出てきたらどうするんだ?」

「頑張ってぶっ飛ばす!」

「……じゃあ絶対に勝て無さそうな敵と遭遇したらどうするんだよ!?」

「全力でぶっ飛ばす!!」


 あ、頭が痛くなってきた……

 脳筋ってレベルじゃねーぞ。頭にいく栄養は全て胸に奪われてるんじゃないのか?

 こいつには戦術とか無いんだろうな。それでも勝てるんだから尚更たちが悪い。

 今まで苦戦とかほとんどしたことが無いんだと思う。そら脳筋思考になるわ。


 でもその気持ちは分からんことも無い。

 俺だって、剣振ってるだけで勝てるんならずっとそうする。誰だってそうするだろう。

 ゲームで例えるなら、特定のボタンを連打してるだけで勝てるようなもんだ。あれこれ細かいことを考えても同じ結果になるのなら、少しでも楽な方を選ぶだろう。


 ……ふむ。あれを試してみるか?

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