第47話:リリィの実力

 俺らはとある広場へとやってきた。ここはグレートボアを置いた場所だ。

 リリィは既に中央で待機していて準備は整っているようだ。


 同じように準備をしていると、ラピスに呼び止められる。


「ね、ねぇ。どうしてあの人と戦うことになったの?」

「さぁな。成り行きってやつだ」

「それにしても大きいわね……何を食べたらああなるのかしら……」


 ラピスの目線はリリィの胸元に釘付けである。

 何やらぶつぶつと喋ってるが、放っておくことにする。


「えと……が、頑張ってください! ゼストさんなら勝てるって信じてますから!」

「おう。さっさと終わらせてくるから安心して待ってな」


 気合を入れ、リリィの元へと向かう。

 リリィの正面に立つと、待っていたと言わんばかりに嬉しそうに話しかけてきた。


「よくきたな! 言っておくけどアタシは強いんだからな! 降参するなら今の内だぞ!」

「出来ればそうしたいんだけどな。けど負けたら更に面倒なことになりそうだし、勝たせてもらうぞ」

「へへん! 強がっても無駄だぞ! 全力でぶっ飛ばしてやるからな! 覚悟しろ!」

「はいはい」

「いくぞ! アタシの力を見せてやる!」


 そういって背負っていた大剣を取って構えた。

 ふむ。あれはなかなかの業物だな。ただデカいだけの剣じゃないってか。

 最初は様子見したほうがよさそうだ。


 俺も構えて戦闘態勢に入る。

 だがリリィは動かず、徐々に表情が曇っていった。

 どんどんイライラしていっているような……


「……おい! なんで武器持たないんだ!? こっちは待っているんだぞ!」

「えっ。もう準備出来ているんだけど。これが俺のスタイルだよ」

「ふざけんな! 素手でやろうってのか!?」

「いやいや。ちゃんとナックル装備してるからな? 素手じゃないっての」

「もういい! さっさとぶっ飛ばして終わらせてやる!」


 話聞いてねーなこいつ。


「おりゃあああ!」


 リリィはこっち向かって走り、距離を詰めてくる。


 ――迅い!

 あんな重そうな大剣持っているのになんつースピードだ。


「くらえ!」


 そして大剣を振り上げて俺に狙いを定めてくる。

 素早く後ろに跳び退いてそれをかわす。


「……!」


 俺が1秒前に居た場所に大剣が振り下ろされ、地面が軽くえぐられた。


「くっ……まだまだ!」


 おいおい。なんつーパワーだ。地面が少し吹っ飛んだぞ。あんなの食らったら一撃で致命傷だ。威力が半端ない。

 それに加えてスピードもあると来たもんだ。あのスピードでこのパワーはやべぇ。

 やはり只者じゃない……


「やぁぁぁぁぁ!」


 再び俺に襲い掛かってくる。

 それをかわして距離を取った。

 だがすぐに追いかけてくるので、冷静に、あわてず確実に回避に集中する。


「うがー! 当たらないぞー!」


 …………あれ?

 こいつひょっとして……


「もういっかい!」


 何度か攻撃をかわしていたが、あることに気づく。


 …………すげぇ分かりやすい。


 こいつの攻撃は単調で大ぶりなものばかりだ。

 パワーとスピードは大したものだが、逆に言えばそれだけだ。

 似たような攻撃パターンばかりな上、フェイントらしき行動も一切してこない。ずっとそんな調子だからどういう攻撃をしてくるのかが手に取るように分かる。

 典型的な脳筋スタイルだなこれは。


 そうと分かればこっちのもの。


「うぉぉぉぉぉ!」


 大剣を振り上げて距離を詰めてくる。


「くらえ!」


 振り下ろされた大剣をかわして側面に移動し、素早く拳を繰り出す。

 攻撃は命中し、リリィはわずかによろめく。


 だが――


「ぐっ……やぁぁ!」

「!」


 反撃してきたのですぐに後ろに跳んでかわす。


 ふむ。これくらいなら簡単に耐えるか。

 さすがに通常攻撃だけで倒すのは時間が掛かりそうだ。

 ならば……


「今度こそ!」


 リリィが距離を詰めてこようとこっちに向かってくる。

 それと同時に俺も同じようにリリィに向かって一直線に走り出す。


「なっ――」


 予想外だったのか、リリィは一瞬固まってしまう。

 そのチャンスを逃さず間合いまで入り、スキルを当てる。


「《天威振盪徹》!!」

「――ッ!?」


 スキルは見事に命中。リリィはその場で動かなくなった。

 この気絶スキルなら一瞬で無力化できるからな。どれだけ踏ん張ろうが無意味だ。

 これでしばらくは動けまい。


 格闘は他の系統と比べ、一撃が弱い傾向にある。だからこそこういったスキルなどを駆使してフォローしていくのだ。

 慣れるまでは扱いが難しいが、慣れてしまえば楽しいものである。だからこそ俺も使っているわけで。


 さすがに竜人族だけあってパワーもスピードも半端じゃなかった。スキルも使わず一撃で倒せるほどの威力があるからな。数より質で勝負しにいくタイプだろうな。

 ある意味では、格闘とは逆の存在といえるのかもしれない。


 でもまぁ今回は俺の勝ちだ。


 これで大人しくなるだろう。


 そう思っていた。


「………………なんのっ!!」

「ッ!?」


 なんとリリィが動き出したのだ。

 思わず後ずさって距離を取る。


「い、今のは効いたぞ……! でもこれくらいなら次も耐えれる!」


 マジかよ。今のスキルを耐えやがった。

 いやまぁ耐え切ること自体はありえない事ではないんだが、さすがに驚いた。

 この手のスキルは通じないと思ったほうがいいな。


「次はこっちの番だ!」


 再び俺に向かって距離を詰めてくる。


 竜人族の防御力だとダメージを与えるのに骨が折れそうだ。

 ならば……


「やぁぁぁ!」


 大剣を避けて間合いに入り、胴体に触れる。

 そして――


「《発勁》!!」

「かはっ……」


 スキルが直撃し、リリィはよろよろと後ろに下がった。


「な、なんでだ……? これくらいの攻撃なら……耐えられるはずなのに……」


 発勁ならばどれだけ防御が高くても無意味だ。防御無視攻撃だからな。


「格闘にはこういうスキルも存在するんだよ。甘く見ると痛い目みることになるぞ?」

「…………」


 あと何発か当てれば沈むだろう。

 いくら竜人族とはいえ、何十回も耐えられるはずがないからな。


「オマエ……強いな……」

「どうしたいきなり」

「…………」


 リリィはそれっきり黙ったまま動かなくなってしまった。

 しばらく様子を見ていたが、リリィは持っている大剣を手放して地面に落としてしまう。


「……? なんのマネだ?」

「…………」

「おい。何か言ったらどうだ」

「…………」


 するとリリィはゆっくりと動き出し、俺に向かって歩いてきたのだ。


 武器も無しに近づくとか何のつもりだ?

 まさか自暴自棄になったんじゃないだろうな。


 いやまて。こいつまさか……格闘も出来るのか?

 あの馬鹿デカい剣を手放したということは、それだけ身軽になったということだ。

 つまりその分、スピードも増すというわけで……


 まさか本来は格闘メインなのか? 

 あの大剣はメイン武器では無いとでもいうのか?


 ――面白い。こっからが本番ってわけか。

 いいだろう。そっちがそのつもりなら受けて立つ。


 俺は身構えて迎え撃つ準備をした。


 だがそれにも関わらずリリィはどんどん近寄ってくる。


 警戒しつつ、拳に力を入れて構える。


 リリィから目を離さずにジッと待つ。


 どんどん距離が縮まり……


 そして――


 …………


「…………お願いだ! アタシを強くしてくれ!」

「…………はい?」


 何言ってんだこいつ。

 突然すぎて理解が追い付かない。


「えっと……何の話?」

「もっと強くなりたいんだ! 今でも十分強いと思ってたけど、こんなに強い人がいるなんて知らなかったんだ!」

「はぁ……」

「もっともっと強くなりたい! どんな奴もぶっ飛ばせるぐらい強くなりたいんだ! お願いだ! アタシを強くしてくれよ!」


 あーなるほど。

 要するに、弟子入りみたいな感じか。


「なぁ……頼むよ!」

「う……」


 近い近い。めっちゃ近い。おっぱいが当たりそうなぐらい近い。

 つかこいつ結構な美人だな。この胸でその顔は反則だろ……


「というかなんで俺なんだよ。強い奴ならいくらでもいるだろうが」

「素手でここまで強い人に会ったのは初めてなんだもん! 本当の強さはこんなものじゃないんだろ?」

「いやだから、ちゃんと武器装備してるからな?」

「頼む! アタシを強くしてくれ!」 


 ふーむ。この脳筋女を鍛えるねぇ……

 しかしこいつのパワーとスピードは目を見張るものがある。仮にテクニック面も鍛えることが出来ればかなりの強みになる。

 もし上手く鍛えることが出来れば、Sランク相当の実力までいけるはずだ。

 それはそれで見てみたい気がする。


 あ、そうだ。

 こいつは剣を使うんだったな。

 ……丁度いい。これはいい機会かもしれん。


「だ、ダメか……?」


 さらに近寄り、泣きそうな表情で見上げてくる。


「……分かったよ。やってやるから! だから離れろ!」

「ほ、ほんとか!? や、やったぁ!」


 子供みたいにピョンピョン跳ねるリリィ。

 つーかおっぱいがとんでもないことになってる。


「今回はアタシの負けだ! でも次は負けないからな! 今よりもっと強くなってみせる!」

「お、おう……」

「強い人は好きだからな! 気に入ったぞ! これからよろしくな! ゼスト!」

「あ、うん。よろしく……」


 というわけで、成り行きでリリィが仲間に加わることになった。

 ……まぁいいか。


 ちなみにレイミからはめっちゃ感謝された。


―――――――――――――――――――――――――――――――――

近況ノートにてイラスト公開しています。


リリィ

https://kakuyomu.jp/users/kunugi_0/news/16817330656491156807

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