第41話:成敗

 ガルフに勝利し、試合が終わってからすぐにリングから降りた。

 そのまま廊下に行こうとした時、フィーネとバッタリ出会った。どうやらずっと試合を見ていたようだ。


「ゼストさん! 本当にすごいです! あんな大きいドラゴン相手に勝ってしまうなんて――」

「話は後だ。急ぐぞ」

「ど、どうしたんです? 急ぐってどこに……?」

「イアゴの野郎が居る所にだよ。また約束を破るかもしれんからな。これ以上好き勝手されてたまるか」

「そ、そうですね! お姉ちゃんを助けないと」

「今度こそ解放してもらうからな。待ってろよラピス」


 フィーネを連れてイアゴの元へと急ぐ。

 途中で遭遇した職員からイアゴの場所を聞き出し、すぐにその場所へと向かった。


 しばらく探し続けていると、聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「馬鹿な……ありえん……ありえない! ありえんありえん! あの英雄ガルフが負けるなんて……。紛れも無くSランクの実力を持つあのガルフが……なぜ敗れたんだ……」


 この声は……イアゴに違いない。

 声がする方向に向かうと、複数の兵士が取り囲むように立っていた。

 その中心に居るのが……間違いない。


「イアゴ! 探したぞ!」

「なっ……」


 兵士に隠れるように立っている小太りの男――


 イアゴ本人だった。


「な、なぜキサマがここに……」

「決まってんだろ。ラピスを連れ戻す為だよ。約束だ。今度こそ解放してもらうからな」

「お姉ちゃんを返してください! 私にとっては大事な家族なんです! 全部私の責任なんです! お姉ちゃんは悪くありません! だから……お願いですから……お姉ちゃんに会わせてください……!」

「ぐぬぬ……」


 イアゴはずっと俺らを睨み、周りの兵士も護るように動いた。

 しばらく睨み合いが続く。


 そして……


「……ふんっ! あんな小汚いガキなんてくれてやるわ! おい! あのガキを連れてこい!」

「え、よろしいので?」

「構わん! あんなガキぐらいで粘着されたらこっちの身が持たんわ!」

「は、はい」


 兵士の1人がすぐにその場から離れて飛び出していった。

 少し待っていると、兵士は女の子を連れて戻ってきた。

 それを見た瞬間、フィーネが叫ぶ。


「お姉ちゃん!!」

「……! フィーネ!」


 お互いに飛び出し、近づいてからすぐに抱き合った。


「お姉ちゃーん! 心配したんだよ! お願いだから無茶しないでよ……」

「うん。ごめん。あたしは平気よ。ずっと閉じ込められてただけだから……」

「お姉ちゃーーーん!」


 泣きつくフィーネを優しく撫でるラピスであった。


「くだらん! たかが冒険者クズ同士が再会しただけで喜びおって!」

「……行くぞ2人とも。もうここには用は無い」

「そうね。行きましょフィーネ」

「うん」


 俺達はその場から離れ、すぐに立ち去ることにした。


 ある程度歩いてからあることを思い出し、俺は立ち止まった。


「ああそうだ。2人とも先に行っててくれないか」

「どうしたのよ?」

「ちょっと忘れ物・・・があってな。取りに行ってくる」

「わ、忘れ物? 何を忘れの?」

「大した事じゃないさ。すぐに戻るから先に行っててくれ。フィーネは控え室までラピスを案内してくれないか。後で行くからさ」

「わ、分かりました。お姉ちゃんこっち」

「う、うん……」


 2人は不安そうにしていたが、そのまま歩いて行った。


「さて。さっさと終わらせよう」


 俺は来た道を引き返しある場所へと急いだ。

 向かった先は当然イアゴの居る場所だ。


 到着するとイアゴはまだその場に居た。

 よかった。まだどこにも行ってなかったな。


 すぐにイアゴの元へと近づいていく。


「おい。ちょっといいか」

「!? な、なんだ!? またキサマか! 今度は何の用だ!?」

「なーに。ちょっと忘れ物・・・をしただけだ。協力してくれるよな?」

「な、何のことだ!? もうあのガキは解放しただろ!」


 イアゴに向かって歩き出す。


「そっちはもういいんだ。けどな。お前は一度約束破ったよな? エキシビジョンマッチって何だよ。ふざけしたことしやがって」

「た、ただの余興だ! 会場を盛り上げる為の演出だろうが! それがどうしたんだ!?」

「だからさ。その『お礼』をしたいと思ったんだよ」

「なっ……」


 さすがに俺が何がしたいのか察したようだ。

 イアゴは周辺の兵士達を集めて叫び出した。


「くそっ! これだから冒険者クズは野蛮で嫌いなんだ! おいキサマら! わしを守れ!」

「「「「「は、はい」」」」」


 何人もの兵士達が集まりイアゴを守るように取り囲んだ。

 イアゴはその後ろで不気味に笑いながらこっちを見ていた。


「グヒョヒョヒョ。リングの上では一対一でしか戦えないがここでは関係ない! これだけの人数が相手なら例えキサマでも厳しいだろう! 今度はキサマを捕らえてやるわ! 後で後悔するがいい!」

「…………」

「さぁあの生意気な冒険者クズを捕らえろ! 腕の1本や2本千切れても構わん! やれ!!」

「…………」


 兵士達は武器を持って構えているが、一向に近づいて来る気配が無い。


 俺が1歩近づく。

 すると兵士達は1歩後ろに退いた。


 更に1歩近づく。

 兵士達もそれに合わせて更に後ろに退く。


「おい! 何をしている!? さっさと捕らえろ! 全員でかかれ!」


 だが誰一人動こうとしない。誰一人として近づいてくる気配が無かった。

 しばらくそんな状態が続いた。


 そしてそんな中、1人の兵士がぽつりと声を出す。


「あの英雄ガルフに勝つような奴だろ……? おれが勝てるような相手じゃねーよ……」


 すると他の兵士達も次々と声を出し始めた。


「前回の優勝者ですら勝てなかったんだろ……? どんなバケモノだよ……」

「試合見てたけど……どれも一方的だったぞ……」

「そもそもここまで勝ち抜いてるのに無傷ってのがありえねぇ……。疲れ知らずじゃねーか……」

「冗談じゃねぇ……おれはやらんぞ! 命がいくつあっても足りねぇよ!」


 1人が武器を投げ捨ててその場から逃げ出してしまった。


「お、おれもゴメンだ! やってられるか!」


 また1人、武器を放り投げてどこかに立ち去った。


「おれだってここで死にたくねぇ! 家族が待っているんだ!」

「お、おい……置いていくなよ!」

「もう知らん! おれは逃げるからな! やるなら勝手にやってろ!」

「戦う気は無いから見逃してくれよな! じゃあな!」

「ま、待ってくれよ!」


 次々と連鎖的に武器を放り投げて逃げ出していく兵士。


「待て! キサマらどこに行くんだ!? わしを守らんか!」


 だが誰一人として聞く耳をもつ人は居らず、兵士は蜘蛛の子を散らすように全員どこかに立ち去ってしまった。

 残されたのはイアゴのみ。


「あの無能どもめ……! わしを置いて逃げるとは何事だ! 後で覚えていろよ!」

「主を見捨てて全員逃走か。立派な忠誠心じゃないか」

「ぐぬぬ……」


 さてと。これで邪魔者は居なくなった。


「姉妹をこれ以上待たせるわけにはいかん。さっさと終わらせるぞ」

「ま、待て! 何をする気だ!」


 イアゴの元へと近寄る。


「なーにすぐ終わるさ。そこを動くな」

「お、おい! それ以上近寄るんじゃない! わしを誰だと思っているんだ!」

「知ったこっちゃねーな」

「待て! もういいだろう? あのガキは解放したんだ! これで終わりなはずだ!」

「覚悟しろ」

「金か!? 金が欲しいのか!? 金ならいくらもやる! だから――」


 グッっと拳に力を入れる。


「た、頼む……見逃してくれ……だ、誰か……誰か助けてくれ!」


 そして――


「歯を食いしばれ――《断空烈拳しょーりゅーけーん》!!」

「ぐほぉぉぉ……!」


 衝撃でイアゴは吹き飛ばれて地面を転がり、壁に激突した。


「お前はフィーネを蹴飛ばしたらしいな? そのお返しだよ」

「おごごご……」

「無事にラピスを解放したみたいだし、これくらいで勘弁してやる。もし約束を無かったことにしてたらこれの100倍は殴ってたところだ」

「あ、アゴが……おごご……」


 アゴが砕けたか。いい手ごたえだったもんな。


「けどな。また同じことをしてみろ。今度は容赦しねーからな。覚えとけ」

「おごご……」


 言い終わるとイアゴは気絶したようだ。


 その場からすぐに立ち去り、姉妹が待っている控え室に向かうことにした。

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