第37話:〝癖〟

 ふぅ。無事に優勝出来てよかった。ブランクがあるから少し不安だったがなんとかなるもんだ。

 これでラピスを助けることが出来る。とりあえず一安心かな。


 剣をしまってその場から立ち去ろうとした時だった。


「……おい」

「ん?」

「1つ聞きたい」


 背後から呼び止める声が聞こえた。

 振り返ると、ヴォルギッシュが地面に倒れたまま上半身だけ起きてこっちを眺めていた。


「テメェは何故カウンタースラッシュなんか使えたんだ? いやそれ以前にどうしてそんなスキルを使おうとしたんだ?」

「何故って言われてもなぁ……」

「カウンタースラッシュは使いにくいゴミスキルの1つだろうが。テメェもそれぐらい知ってんだろ?」

「そうかもな」

「なら何でそんなスキルを頼ろうとした? もっと使いやすいスキルぐらい持ってんだろ?」


 カウンタースラッシュというスキルは、敵の近接攻撃を無力化して即座に反撃するスキル。

 こう書くと一見便利そうに思えるが、実は意外に使いどころが難しいスキルなのだ。


 まずカウンター判定は最初から発生するわけではない。つまりスキルを使用した直後は何も発生しない状態になっている。少し待たないとカウンター自体が成立しないのだ。

 それに加えて判定の持続時間も1秒未満と短めに設定されている。

 もしカウンターが成立しなかった場合、5秒程度の長い『硬直』が発生してしまうのだ。

 格闘ゲーム風に例えるなら『発生10フレーム、持続30フレーム』といったところだろうか。

 早すぎても遅すぎてもカウンターが発生しないという使いどころが難しいスキルなのだ。


 もしフェイントを多用するような相手だったらまず使わないだろう。そんな相手にカウンターを狙うぐらいなら別のスキルを使った方がずっとマシだ。

 ヴォルギッシュはこういったことを知った上で聞いてきたんだろう。


「カウンタースキルが使えた理由? それはお前の〝癖〟を利用したかっただけだよ」

「癖……? なんだそりゃ?」


 ふむ。自覚は無いってわけか。


「んー。なら最初から話したほうがいいか?」

「あ、ああ……頼む」


 俺は近づき正面に立って話し始める。


「まず俺は相手がどういうタイプが知りたかったんだよ。だから最初は様子見をすることにした」

「だから防戦一方だったのか……」

「まぁな。んで何度か打ち合った結果……お前は防御に重視してることに気づいた」

「…………」

「攻撃自体は激しかったが防御もかなり上手かった。お前は防御を重点的に置いたスタイル……つまり『防御型』だ。そうだろ?」

「……!」


 この辺りは自覚はしているんだな。


「派手な攻撃ばかりで勘違いされやすいのかもしれないが、間違いなくお前は防御型のスタイルだ」


 打ち合いになった時も力が乗っていない攻撃ばかりだった。

 これはすぐに防御に移れるように様子見しながら行動していたせいだろう。


「防御型ってのは崩すのが面倒なんだよな。攻撃が通りにくいし隙を付くのも大変。そんなんだから試合が長引きやすいんだ」

「だからカウンターを狙ったと……?」

「そうだ。そこでお前の〝癖〟に気づいたんだ」

「癖……」


 ここからが本題だ。

 ヴォルギッシュも真剣に耳を傾けてくる。


「お前は正面からの攻撃はその場の状況に合わせて対応していく。だろ?」

「あ、ああ……」

「だが側面からの攻撃に対しては違った。恐らく対応しきれない攻撃については、無意識の内にオートで反応するようになっていったんだ。早い話が脊髄反射だな。いやこの場合は条件反射かな? まぁどっちでもいいや」

「…………」


 これは別に珍しいことではない。

 人間ってのは処理能力に限界がある。だからある程度は何も考えなくても自動で反応するようになっている。

 分かりやすい例でいくなら、熱い物を触った瞬間に手を引っ込めるアレだ。


「お前は左側からの攻撃に対しては回避行動を取る。だが右側は違った。右側からの攻撃に対しては反撃しようとするんだ。『防御』ではなく『反撃』なんだよ」

「……!」

「左側からの攻撃に対しては『回避』、右側からは『反撃』。これがお前の〝癖〟……体に染みついた反応だ」

「…………」

「後は簡単だ。右側から仕掛けて攻撃を誘うだけ。攻撃が来るタイミングが分かってるんだから、それに対してカウンタースラッシュを合わせるだけだ。大して難しくないさ」

「…………」


 防御型を崩すにはこれが手っ取り早かった。だからこいつの癖を利用させてもらった。


「今話したことを一言でまとめるなら『反応狩り』って言ったところか。上位の連中ならよく使うテクだ」

「…………」

「ま、こんなところかな。じゃあな。お前もなかなか強かったぞ」

「…………」


 その場から離れリングから降りた。


 控え室に行きドアを開けると……


「!! ゼストさん!!」

「お、来てたのか」


 フィーネが座っていたのだ。

 だが俺を見るや否やすぐに立ち上がり、こっち向かって走ってきた。


「ゼストさーん!」

「うおっっと」


 突進してきたフィーネを何とか受け止める。


「見てましたよ! 本当に優勝するなんてすごいです! やっぱりゼストさんは強いです!」

「だから言っただろ。俺は負ける気は無いって」

「はい! これでお姉ちゃんを救うことが出来ます! ありがとうございます……本当にありがとうございます……!」

「おう。この程度なんてことないさ」


 しばらくフィーネに抱き着かれ、開放されるまで頭を撫でてやることにした。

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