第35話:予選試合

 俺は闘技場でエントリーを済ませると、職員に案内されてとある部屋までやってきた。部屋に入ると、中には沢山の武器が並んでいた。

 職員が武器の前で説明を始める。


「この闘技場ではこれらの武器を使用してもらいます」

「別に武器とか要らないんだけど。自分の使うし」

「持参した武器は使用できません。ルールでは武器の持参は禁止されております」

「え。マジで?」

「公平を期すためのルールです」


 へぇ。武器の持ち込みは駄目なのか。

 そういやそんなルールも選択できたような気がする。


「ですのでこちらが用意した武器を使用してください」

「……この中から選ばなきゃ駄目?」

「ルールですから」


 部屋には剣、斧、棍棒、槍などの武器がいくつも用意されていた。でも一番多いのは剣だった。

 でもこれらの武器はどれも酷い。早い話が粗悪品なのだ。


「他には無いの?」

「ここにある物だけです」

「マジすか……」

「ルールですから」


 この中から選ぶ必要があるってのか。冗談きついぜ。

 パッっと見ただけで酷い状態なのが分かる。どれもメンテしてないんだろうな。


 こんな性能だとロクにダメージが与えられなさそうだ。

 ダメージが通りにくいということは試合が長引く。

 試合が長引けば観客が喜ぶ。

 観客が喜べばリピーターが増える。

 リピーターが増えれば運営も儲かる。

 ……ってところだろうな。


 仕方ない。とりあえず剣にするか。


「それからもう一つ。試合開始前に召喚スキルを使ってモンスターを連れてきたり、強化スキルで自己強化するのも禁止です。そういった行為が発覚され次第、即失格になりますので注意してください」

「了解」


 まぁこれも当然ともいえる。公平の為のルールだからな。


 それから比較的良さそうな剣を選び控え室へと向かうことにした。




 控え室で待機していると職員に呼び出された。いよいよ俺の試合が回ってきたらしい。

 建物の中を案内されて移動していくと、外から光が差す開けた場所へとやってきた。

 そして奥へと進むと外に踊り出た。

 中央には巨大な石盤リングが存在しており、周囲には観客が溢れんばかりに賑わっていた。


『さぁ次の試合いきましょう! 選手入場です! 両者選手は中央に移動してください!』


 実況にそう言われたのでリングに登って中央へと歩いていく。

 すると反対側から斧を背負ったおっさんが近づいてきた。あの人が対戦相手か。


『左手側に居るのはBランク冒険者……ギアイ選手!』

「うおおおおお!」


 ギアイとかいうおっさんがそんな雄叫びをあげている。


『右手側に居るのが……おっと。なんとEランク冒険者の登場だ! その名もゼスト選手!』


 周囲の歓声が一気に減った気がする。別に気にしないけど。

 だがギアイは馬鹿にするように笑ってきた。


「へへへ。なんだオメエまだEランクなのかよ」

「まぁな」

「ならここに来るのはちと早いんじゃねーのか? 命は粗末にするもんじゃねーぜ?」

「忠告どうも。けど負けるつもりはないから」

「ははは! こりゃたまげた! 大した自信じゃねーか! 命知らずとは正にこのこと!」


 やっぱりEランクだとこういう反応が普通なんだろうな。


「ってことは一攫千金狙いか? 確かに優勝すりゃ大金が手に入るからな! 借金苦で仕方なく出場したってわけか!」

「そんな感じ」


 面倒だから話に合わせておく。


「だが残念だったな! おれと当たったの運尽きだ! 例えEランクが相手だろうが手加減なんかしねーぜ?」

「そりゃどーも」

「まぁいい。さっさと始めるぞ!」


 そういって背中に担いでいた斧を手に取った。

 そういや武器選ぶときにあんな斧もあった気がする。

 剣だとダメージが通りにくいからパワー重視の武器にしたってことかな。それはそれで正解かもな。


『ギアイ選手対ゼスト選手! 試合開始ぃぃぃ!』


 実況が叫ぶとギアイが武器を構えて体勢を整えた。

 だが俺はそのままの状態で戦闘体勢を取った。


「……おい。さっさと剣を抜けよ! もう始まってんだぞ!」

「このままでいい」

「ああ!? このままって……素手じゃねーか!」


 剣はまだ鞘に納めたままだ。

 俺はこの状態で戦うつもりなのだ。


「武器は絶対使わないと駄目というルールは無かったはずだけど?」

「だからと言って素手はねーだろ! 舐めてんのか!?」

「やってみなきゃ分からんだろ」

「……チッ。ならいいぜ。あの世で後悔するなよ!?」


 そう叫んでから勢いよく突っ込んでくる。


「うおおおお! 食らえっ!」


 斧が俺にめがけて振り下ろされる。

 それをかわし、側面に回り込む。

 そして――


「野郎――」

「《天威振盪徹》!!」

「がっ……」


 気絶スキルがギアイの頭に直撃。するとその場で動かくなった。

 ギアイはゆっくりと膝を付き、そのまま地面に倒れ込む。

 しばらく様子を見ていたが起き上がる気配は無かった。


『……! な、なんと! 一撃で倒してしまった!! 勝者! ゼスト選手ぅぅ!』


 ふぅ。まずは1回戦突破かな。


 ちなみに素手のままにしたのは別に舐めプとかではない。

 剣だと格闘スキルを発動することは出来ない。これは他の武器系統でも同じだ。

 しかし唯一、格闘だけはナックルを装備しなくても素手で格闘スキルを発動できるのだ。まぁ素手だと威力が大幅に減るからやる意味はないけど。

 しかし格闘はこういった便利なスキルがあるからな。剣でちまちまやるより手っ取り早いと思ったわけだ。


 その後も何回か試合をしたが特に問題なく勝ち進むことができた。どいつもギアイ程度の実力しかなくあまり苦戦はしなかった。


 そして訪れた決勝戦……

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