第31話:観光都市ジェームル
俺達は現在馬車に乗って移動中である。
別にどこかに行きたいわけじゃない。これは護衛の仕事なのだ。
なぜこんなことをしているかと言うと、レイミから依頼を受けてみないかと提案されたのだ。
ランクアップする為にはある程度依頼をこなす必要があると説明されたので、だったら丁度いいのがあると言われて引き受けた依頼がこれだ。
とある町まで馬車で護衛をしてほしいとのことだった。
そろそろ依頼をこなさないと思っていたところだったので丁度よかった。
姉妹も乗り気だったのでこの依頼を引き受けることにしたのだ。
というわけで馬車に揺られながら進むことになった。
結果から言えば何も襲ってこなかった。
モンスターも現れず、賊の姿も見えず、実に平和な旅だった。少し警戒はしていたのだが、拍子抜けだった。
そんなこんなで町に到着。
御者の人に感謝された後に町の中に入っていくことにした。
「何と言うか暇だったわね。護衛ってこんなのでいいのかしら?」
「何も無いのが一番だろ。見張ってるだけで十分仕事はしてる」
「でもちょっと物足りないわ。せっかく新しい武器が手に入ったのに試し撃ちしてないもの。モンスターとか出てこないかしら」
「こんな町中で出てきたらパニックになるだろ」
「もぅ。お姉ちゃんったら……」
そんな会話しつつ町を散策。
「ところでこの町はどういう所なの?」
「ここは〝ジェームル〟っていう町でな。比較的平和な町なんだよ」
「平和?」
「ここら周辺のモンスターは大人しいし凶暴なやつも居ない。だから安全な部類に入ると思う」
「ふーん。だから道中なにも襲われなかったのね……」
ここはセレスティアより規模は小さいが、活気はジェームルのほうがある感じがする。
周囲の人々は数多く行き交っており、店も豊富だ。
「そんな平和な場所だからこそあんなのが出来たんだろうな」
「どういうこと?」
「遠くを見てみな。大きい建物が見えるだろ?」
「あ! あれですね。大きいから目立ちますね」
町の中心には巨大な建造物が存在する。かなり目立っていて離れていてもすぐ見つけることが出来る。
あれはこの町の名物なのだ。
「あそこって何があるの? やたら大きい建物だけど」
「あれはこの町の名物――〝
「闘技場……」
そう。あそこには対人用コンテンツである闘技場が存在するのだ。
この町はモンスターに襲われにくいからこそああいう娯楽が出来たんだろうな。
「闘技場って人と人が戦うの?」
「まぁな。対人用の場所だよ」
「ふーん。あたしには関係無い場所ね。でもちょっと覗いてみようかしら」
「私は嫌だよぅ……。人同士が争うなんて怖いもん……」
ラピスと違ってフィーネは興味ないようだ。
フィーネは訴えかけるようにラピスの服を掴んでいる。
「……そうね。血みどろの戦いなんて見たくないもんね。じゃあ止めとくわ」
「うん。それがいいよ」
「でもどうしよ」
すぐに引き返してセレスティアに戻るという選択肢もある。仕事は終わったわけだし後はギルドに報告するだけだしな。
しかしせっかく来たんだ。少し観光するのも悪くない。
「なら町を見て回らないか。別に闘技場だけがこの町の名物じゃない。ほら見てみろ」
周囲には様々な露店が立ち並んでいる。ジェームルは交易が盛んな町でもあるせいか、色んな店が存在するのだ。
まるでお祭りのような盛り上がりだ。
「おー。いっぱい店があるわ」
「わぁ……すごい。こんなにたくさんの店を見るのは初めてだよ!」
どこを見ても何かしらの店が立ち並んでいる。そのせいか人も多く行き交っている。
「どうだ? なかなか楽しそうだろ?」
「はい! 見たことないお店ばかりでワクワクします!」
女の子はこういう雰囲気が好きなんだろうな。目がキラキラしてる。
「じゃあ1日この町に滞在するか? セレスティアに帰るのは明日でもいいしな」
「そうしましょう! お姉ちゃんいいよね?」
「構わないわよ。あたしも見て回りたい気分だし」
「んじゃ1泊決定か。まずは宿を確保しないとな」
というわけで宿を見つけて部屋を確保することにした。
それから再び町に出てから露店が立ち並ぶ場所へとやってきた。
「せっかくだから2人だけで遊んできたらどうだ?」
「い、いいの?」
「2人の方が楽しめるだろうしな。俺も1人でブラブラするよ」
「じゃあそうするわ。行きましょフィーネ」
「う、うん。それじゃあまた後で!」
ラピスがフィーネの手を繋いで奥に進んでいく。
「終わったらさっきの宿集合な! 迷ったら闘技場を目指して歩け! 宿はその近くにあるから!」
「わかったわ!」
「はい! ありがとうございます!」
2人は楽しそうにしながら露店を目指して進んでいった。
さてと。俺もテキトーにブラつくかね。
露店を眺めながら歩き続けていると、どこからかいい匂いが漂ってきた。
なんとなく匂いを辿っていくと、とある露店の前までやってきた。匂いの発生源はこの露店で売っている肉っぽいな。
その露店にはガタイがいい男が作業をしていた。
「お。どうだい兄ちゃん。1つ買っていかないか?」
「これは何の肉?」
「ウシドリの肉だよ。それを秘伝のタレに付けて焼いてるんだ。美味そうだろ?」
「ほー」
これは焼き鳥かな。串に刺した肉がいい感じに焼けている。
匂いを嗅いでいたら腹が減ってきた。
「じゃあ1つください」
「へいまいど! 小銅貨3枚ね!」
金を払ってから渡された串を持つことに。
どれどれ。さっそく一口……
「……んむ。なかなかいけるな」
意外と美味いなこれ。
肉もほどよく柔らかくジューシー。タレがいい具合に絡み合って追い打ちをかける。噛めば噛むほど味が出てくる。
マジでうめぇ。1本だけだと足りないかも。
「もう2本追加でください」
「まいど! 良い食いっぷりだねぇ! ウチのはうめぇだろ? この秘伝のタレが自慢なんだよ!」
「いい感じに味がついてて美味しいですよ」
「だろう? これがたまらねぇんだ」
タレのせいかは知らんがかなり美味かった。なかなかレベルが高い。
後でラピス達にも教えてあげようかな。いい店を知った。
その後も色々な露店を眺めつつ散策することにした。
歩き疲れてきたので宿に戻ってきた。
そのまま部屋に直行してベッドの上で寝転んで休むことに。
あれからも色々と買い食いしていたら腹が膨れてしまった。今日のメシはもういいかな。
しかし予想上に楽しめたな。本当にお祭りに来た気分だ。またいつか来ようかと思う。
これで焼きそばとかたこ焼きがあれば最高なんだけどな。さすがに見つけられなかった。
思ったより楽しめたな。
「ふぁぁぁ……」
……いかん。腹が膨れたら眠くなってきた。
少しだけ仮眠を取るか……
そんなことを思いながら寝返りをうった時だった。
バァン!
「うおっ!?」
「た、大変なんです!」
いきなりドアが乱暴に開いたからビックリした。
ドアの側にはフィーネが肩で息をしながら立っていた。
「ど、どうしたんだそんな慌てて」
「お姉ちゃんが……お姉ちゃんが……早くしないと……!」
「ラピスがどうかしたのか?」
そういやラピスの姿が見当たらないな。
「お姉ちゃんが……さらわれたんです!!」
……………………は?
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