第30話:それぞれの性能

 もう十分堪能したというので剣をインベントリに仕舞った。


「いやはや。本当に神器の持ち主に出会えるとはな」

「約束ですよ。この子達の武器を作ってください」

「ああいいとも。あんなの見せられたら作らざるを得ないわい。目の保養になったよ」


 よかった。これで武器はなんとかなりそうだ。


「あたしの分も作ってくれるの?」

「もちろんだ。約束は守る」

「や、やったぁ! あ、でもあたしは弓使うんだけど……大丈夫なの?」

「私は杖使ってるんですけど……」

「安心せい。どんな武器だろうが儂にかかれば容易い。何だって作れるわ」


 さすがプロだ。どの武器種でも作れるのは心強い。


「そうだ。いくらかかるのかしら? あまり高くなるようだと厳しいんだけど……」

「安心しろ。嬢ちゃん達から金を要求したりせん」

「え!? いいの!?」

「報酬なら既に受け取っているからな」

「報酬?」


 報酬って……まさかあれだけで?


「神器を一目見せてくれただけで十分な報酬だ。本来なら見ることなくこの世を去る運命だっただろうからな。夢を叶えてくれたお礼だ」

「そ、そんなことでよかったの?」

「何を言う。儂にとっては希望を見せてくれただけでも人生が変わるぐらいの出来事なんだぞ。もう死んでもいいぐらいだ」

「おいおい……それじゃあ困りますよ」

「冗談だ。ガッハッハッハ!」


 なんか性格変わってないかこの人。

 さっきの頑固そうな態度はどこにいったんだ。


「まぁとにかく。金の事は心配するな。しっかり仕事はするから安心せい」

「じゃあお願いします」

「うむ。とりあえず嬢ちゃん達の手を見せてくれないか」

「手? 何で?」

「手を見れば大体の実力が分かる。それに合わせた武器を作りたいからな」

「なるほど」


 ラピス達は近づいて手を見せ始めた。

 レオルドは手を見て触ったり腕を動かしたりしている。それから身長や腕の長さなども記録していった。


「……ふむ。もういいぞ。あとは儂に任せろ。嬢ちゃん達に最高の物を作ってやるわ」

「どれぐらい掛かりますかね」

「そうだなぁ……5日……いや、3日くれないか。こっちも材料を調達せねばならんからな」

「わかりました」

「3日ね。わかったわ」

「お願いします」

「さーて。久々に腕が疼いてきたわ! こんなに楽しみなのはいつ以来か! さぁ忙しくなるぞ! ガッハッハ!」


 すっげぇ嬉しそうだ。ウキウキしてら。


 すぐに作業に取り掛かったため、俺達は工房から出ることにした。




 そして3日後。再び工房へとやってきた。

 中に入ると、既に完成された弓と杖が飾られていた。


「すいませーん。武器を取りに来たんですけど」

「おお! 来たか! 待っていたぞ!」


 レオルドは作業を止めてすぐに寄ってきた。


「さぁ嬢ちゃん達。これが今日からの相棒だぞ!」

「おー」

「ありがとうございます!」


 ラピスには弓、フィーネには杖が渡された。

 どちらも一見すると普通の武器に見えるが……なんというか、武器屋に置いてあるような物とは何かが違う。

 うまく説明できないが……オーラが違うといった感じだ。


「へぇー。なかなかいいじゃない。軽くて握りやすいし、使いやすいわ」

「私も軽くて持ちやすいです。それに何だか力が湧いてくるような気がします」


 2人にも好評な模様。

 一応、詳細を見てみるか。

解析アナライズ》……っと。


 どれどれ……


 ――――――――――――

 □ハンターボウ

 攻撃力:80

 適正レベル:5


 ・DEX+10

 ・クリティカル率+20%

 ・クリティカルダメージ+30%

 ・スキルダメージ+10%

 ――――――――――――


 ……うおっ!? なんじゃこりゃ!?

 えげつない性能してるじゃねーか。

 この適正レベルでこの性能はありえん。この性能なら適正レベル20は越えてないとおかしい。

 アビリティも4つもついてやがる。しかもどれも有用ときたもんだ。

 これなら金貨10枚……いや、30枚でも売れる。

 序盤から手にするような性能じゃねーぞ。


 ということはもしかして杖も……?


 見てみよう。


 ――――――――――――

 □アークワンド

 魔法攻撃力:80

 適正レベル:5


 ・INT+10

 ・クリティカル率+20%

 ・スキルダメージ+20%

 ・MP+10%

 ・MP消費量-10%

 ――――――――――――


 ……わーお。こっちもなかなかエグい性能してやがる。

 どのアビリティも優秀で腐ることが無い。下手すりゃレベル30ぐらいまで通用しそうな性能だ。


 予想以上のバケモノ武器が出てきたな。これは嬉しい誤算だ。

 やっぱりこの人に頼み込んで正解だった。さすが神器を目指すだけあって腕前は一流ってレベルじゃない。この町で一番の職人だろう。


「感謝しとけよ。今のお前らにはもったいないぐらいのガチ性能だからな」

「そうね。なんとく凄そうなのは伝わってくるわ。本当にありがとうね」

「こんなにも素晴らしい物を作ってくれてありがとうございます!」

「いいってことよ! 久々にいい仕事したわい」


 マジでいい仕事しましたよ。

 こんな優秀な人もいるもんだな。


「あ、そうだ。そういやサブ武器のこと忘れてたな」

「あ! そういえばそうね。全然使ってなかったから忘れてたわ!」

「なんだ。まだあるのか?」

「はい。この子はサブに短剣使ってるんですけど、出来ればそれも渡したいんです」


 まぁサブ武器の性能はそこまで要求しなくても平気だ。あくまで使うのはメイン武器だからな。

 武器屋行って買ってくるか?

 短剣ならマシな性能したのが売ってあったはず。


「しばし待て。儂からいいのをやろう」


 そういって工房の奥の方に行ってガサゴソと何かを漁り始めた。

 しばらく待っていると何を握って戻ってきた。


「これを嬢ちゃんにやろう」

「それって短剣!? い、いいの?」

「なーに。構わんさ。どうせ売り物にもならん失敗作だ」


 とか言ってるけど……アレもなかなかの性能をしている。見ただけで分かる。

 どこが失敗作なんだよ。


「そういうことなら……じゃあ貰うわね。ほんとにありがとね!」

「気にするでない。儂は失敗作を処分しただけだ」


 ラピスは短剣を受け取り、腰の鞘に納めた。


「さて。嬢ちゃん達に言うことがある」

「なーに?」

「私達にですか?」

「ああ。今後も武器を作ってやるからいつでも来るといい。そうだな。レベルが10ぐらい上がる毎に新しい武器を作ってやる」

「え? ずっとこのままじゃ駄目なの?」

「一生使えそうなほど素晴らしい出来だと思うんですけど……」

「いや。それじゃあ駄目だ。本当に強くなりたいなら、その都度新しい武器に変えるべきだ」


 おや? これはひょっとして……


「そんなに変える必要あるの? これでも十分強いと思うんだけど」

「人と違って武器は成長することがない。人が変われば武器も変わるんだよ」

「このままでもやっていけそうな気がするわよ。あたしが強くなればいいわけだし」

「いいや。それでは駄目だ。強くなったのならそれに合わせて武器も変えねばならん」

「そうなの?」


 いつかは2人に伝えようとしていた内容だ。

 手間が省けたな。


「例えばだな。嬢ちゃんが小さい頃に着ていた服は今でも着られるか?」

「そ、そんなの無理に決まってるじゃない。小さすぎて着れないわ」

「なら最初から大きい服を着たらどうだ?」

「ブカブカで歩きにくいと思います……」

「そうだろう? 人が成長すれば物も変わる。武器だって同じだ。武器もそれに応じて違うのを選ぶべきなんだ」

「そ、そうかもしれないけど……」

「〝物を一生大事にする〟なんてのは聞こえはいいが、そんなものはただのエゴだ。いつまでも不相応な使い方をしては武器が可哀そうだろ。ボロボロになるぐらい使いこむぐらいならさっさと変えろ」


 へぇ。なかなか面白い考え方だ。


「ま、儂がこんなこと言うとみんなあざ笑うんだがな」

「なんとなくその気持ち分かる気がする……」


 そりゃそうだ。

 この人の主張は『どんどん武器を買い替えろ』ってことだからな。鍛冶師がそんなこと言ったら、武器を売り捌きたいだけの守銭奴にしか思われないだろうな。


「とりあえず伝えたいことは大体話したか」

「レべルが10上がったらまた来たらいいのね?」

「あくまで目安だ。別にピッタリ10毎に来る必要はない。壁にぶつかったと思ったらまた来い」

「壁? よく分からないわ……」

「その時がくれば分かる」


 しかしここまで腕のいい職人とは思わなかったな。俺も依頼したほうがよかったかも。

 今からでも頼もうかな。


「今更かもしれないけど、ついでに俺の分も作ってくれませんかね?」

「ああいいぞ。それで何を作ればいい?」

「ナックルを作ってほしいんですけど」

「……なぬ? ナックルだと? お主そんな物使っているのか?」

「一応は」

「ふーむ……」


 なんだこの反応は。

 俺おかしなこと言ったかな?


「どうかしたんです?」

「いやな。珍しい武器を使っておると思ってな」

「珍しい? そんなに珍しいんです? 格闘系の主力武器なんですけど」

「作った経験はほとんどない。使う人も依頼する人もほぼ皆無なもんでな」


 そういや武器屋に訪れた時にナックルだけはどの店にも置いてなかった気がする。


「格闘なんて誰もやらんからな。あるとしても対人で使われるぐらいだ」

「え。そんなに人気ないの?」

「素手とほぼ変わらんからな。威力もリーチもどの武器より劣る。そんなの誰が好き好んで選ぶというんだ。一応そういう系統も存在するが、不遇武器として有名だぞ」


 マジか。格闘は不遇扱いされてるのか。楽しいんだけどなぁ。

 たしかに使いこなすには慣れが必要だけど、別に弱いってわけじゃない。

 範囲攻撃が強くないためか、多対一には弱いという欠点がある。

 だが一対一タイマンの状況だと無類の強さを発揮する。

 それが格闘という系統なのだ。


「期待に沿えない出来になると思うが、それでも作ってほしいというのなら作るぞ。どうする?」


 どうすっかな。別に今のままでも特に問題無いんだよな。

 まぁでもこれ以上負担をかけるわけにはいかないか。


「やっぱ止めときます。自分で何とかします」

「そうか。すまねぇな」


 現状のままで何とかするしかないか。

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