第29話:〝神器〟

 俺達は再び工房に訪れていた。

 あの人は勇者がいた場所にも来ていた。だが勇者が神器だと言っていた剣を見ても興味無さそうにしていた。

 俺のカンが正しければあの人は……


 中に入るとレオルドの姿を見つけたので話しかけることに。


「すいません。ちょっと話があるんですけど」

「む? なんだ。また貴様らか。今度は何の用だ?」

「さっき勇者が居た広場に居ましたよね」

「それがどうした? 買い物途中で偶々見つけて覗いただけだ」


 つまり偶然だったわけか。まぁ今はどうでもいい。


「勇者が持っていた剣を見ましたか?」

「…………ああ。だから何なんだ?」

「アレを見てどう思ったのか気になったんですよ。実際どうなんです?」

「…………」


 少し黙りこくった後、ため息をしながら話してきた。


「……あれはなかなかの業物だと思うぞ。どこで手に入れたのか知らんが勇者に相応しい武器なんじゃないか」

「そういうことじゃなくて。勇者はアレを神器だと言ってましたよね。実物を目の前にしたのに、なぜ貴方は無視したんですか?」

「…………」


 この人は神器作りに熱心なはずだ。それなのに実物を見て何も反応ないのはどう考えてもおかしい。

 もしかしたら神器作りの話は嘘の可能性はあるが、少なくとも俺にはそうは思えなかった。

 これはつまり……


「……ふんっ。あんなのが神器なはずがなかろう」

「! やっぱり知っていたんですね……」


 だろうな。やはりこの人はアレが偽物だと見破っていたんだ。


「理由を聞いても?」

「あのぐらいなら儂でも作れそうだったからだ。神器がそんな簡単に作れるはずがない。そう思っただけだ」

「なるほど……」


 神器を作りたいのに、今の実力では作れないと自覚しているってわけか。

 なんつーか気難しい性格してるなぁ……


「あれ? 最初に来たときは神器を作りたいとか言ってなかった? 何かおかしくない?」


 さすがに疑問に思ったのかラピスがツッコミを入れてくる。


「貴様らには分からんと思うがな。物を作るってのは積み重ねが重要なんだよ。試行錯誤を重ねて失敗を繰り返し、その上で初めて至高の一品が出来上がるんだ。偶然出来上がるようなものではないんだよ」

「へ、へぇー」

「今の儂には神器を作る腕前がないことぐらい自覚している。それでもひたすら上達するしかないんだよ」


 ひたすら夢を追い求めて作り続けているわけか。

 こういうロマンを追い続ける気持ちはよく分かる。俺だって神器を手に入れるのにはすごく苦労したからな。あの時は一生手に入らないんじゃないかと思ってたぐらいだ。


 この人は信用できる気がする。何故だか知らないけど他の誰より信用できる気がするんだ。


「話はそれだけか? 終わったなら帰ってくれ。儂は忙しいんだ」

「やっぱり考え直してくれませんかね。貴方に武器を作ってほしいんですよ」

「またその話か。何度聞かれても答えは変わらん。ヒヨッコ共に作る武器などない」

「なんで頑なに断るんです?」

「だから言っただろう。儂は神器を目指して作るのに忙しいんだ」


 ふーむ。やはり駄目か。

 それなら……


「ならその神器を一目見たいと思いませんか」

「思っているに決まっているだろう。本物を拝める機会があるならなんだってする」

「じゃあ見せてあげますよ。本物の神器ってやつを」

「……なぬ?」


 お。目の色が変わった。


「小僧……自分が何を言っているのか分かっているのか?」

「もちろん。俺持ってますから。けどタダで見せるわけにはいかない。見せた後で武器を作ってくれると約束してくれるなら見せますよ」

「…………随分と強気だな。ヒヨッコの分際で吠えよる。いいだろう。約束してやろうではないか」


 よっしゃ。言質は取った。


「但しこっちからも条件がある」

「何です?」

「もし偽物だったら……それ以前につまらん物だったらすぐに出て行ってもらうからな。それだけじゃない。この儂に二度とその面を見せるな! いいな!?」

「いいですよ」

「ならさっさと出せ! この儂を騙せると思ってるなら後悔させてやるからな!」


 インベントリを出して、そこから鞘に収まった武器を選んで取り出す。

 レオルドは何もない空間から物が出てきた光景を見ても眉1つ動かさなかった。


 そして鞘から剣を引き抜き――


 高く掲げた。


「これが本物の剣の神器――〝エルダーカノン〟だ」


「…………!!」


 レオルドは剣を見ると驚愕した表情で見つめ始めた。

 姉妹も剣を食い入るように見つめる。


「きれい……」

「宝石みたい……」


 俺の持っているこの剣は、なんと刃の部分が『半透明』なのだ。

 刃は淡い蒼色で、窓から差し込む日の光でキラキラと輝く。

 それはまるでクリスタルのような外観をしていた。

 この場にいる誰もがその姿に目を奪われているだろう。


「お、お、お、お、お、お、お……おおおおおおおおおおおおおおおおおお!」

「どう? これが本物の神器ですよ」

「そ、それを少し触ってもいいか?」

「どうぞ」


 レオルドは震えながらゆっくりとした速度で歩き、目の前まで来て剣を触り始めた。


「ば、馬鹿な……なんだこの剣は!? 素材も、製造法も全く見当がつかん! シンプル且つ鮮麗されたフォルム……これが……これが……神器なのか……」

「あっさり信じるんですね」

「あ、当たり前だ! こんなにも素晴らしい剣が存在すること自体が奇跡なのだ! 信じないほうがどうかしてる! いや、例え神器でなくても構わん。この剣に巡り合えたことに感謝するしかない」

「なるほど」

「そうか……これが本物の神器か……。まさか生きている内に拝める機会が訪れようとはな。長生きはしてみるもんだ」


 てっきり一悶着あるかと思ったけど杞憂だったみたいだ。

 一発で性能を見破った鑑定眼は見事だと言うほかない。


「ほ、本当に持っていたのね」

「なんだ。ラピスも信じるのか?」

「だ、だってそんな綺麗な剣を見せられたら信じたいじゃない。それに、あたしより詳しい人もああいってるし」


 そういってレオルドの方を見る。

 さっきまで頑固だった人が剣を一目見ただけで急に態度変えたからな。あれを見たら信じざるを得ないか。


「その……疑ってごめんね。まさかそんなにすごい物を持っていたなんて……」

「別にいいって」

「もうお姉ちゃんったら。本当にごめんなさい。お姉ちゃんは悪気は無かったと思うんです」

「いいって。気にしてないから」


 ま、これでとりあえず解決かな。


「でもなんでそんな強い武器持ってるのに使わないの?」

「だって適正レベルが全然足りねーもん」

「適正レベル?」

「また今度教えるよ」


 神器は最強クラスの武器だけあって適正レベルもかなり高い。今の俺には使いこなせないのだ。

 まぁやろうと思えば使えなくも無いが、今はそんな面倒なことはしない。

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