第28話:勇者登場?

 街中を歩いて武器屋を探している時だった。

 何やら人々が集まっている場所に遭遇したのだ。


「なにあれ? やたら人が多く集まってるけど」

「さぁな。芸人でもいるんじゃないか」


 さっきから妙に騒がしいと思ったらあれのせいか。


「気になるわね……ちょっと行ってみましょうよ」

「だ、ダメだよぅお姉ちゃん……今はそんなことしてる場合じゃ……」

「いいじゃない。息抜きよ息抜き。それに何があるのか気になるでしょ?」

「そうだけど……」

「じゃあ行きましょ!」

「まぁいいんじゃないの。はぐれないように注意しろよ」

「そうこなくっちゃ! 行くわよフィーネ! 手を繋ぎましょ!」

「う、うん」


 まるで観光気分だな。別にいいけど。

 俺達は密集してる人々に近づくことになった。


「うーん……人が邪魔で見えないわね……」

「あっちなら少し空いてるよ」

「! ならそこ行きましょ」


 ラピスはフィーネの手の引っ張りつつ別の場所へと移動していった。

 俺も後を付けていこうとして歩きながらも人々の会話が聞こえてくる。


「やっぱ勇者様のパーティかっこいいよなー」

「たった3人でAランクモンスターすら討伐するんだもんなー」

「数少ないSランクパーティだけあるわ」

「おれもいつかあれくらい強くなりてぇ……」


 勇者? なんじゃそら?

 そんなの居たっけ?


「ゼストー! こっちこっち!」


 遠くでラピスが手招きしていたのでそっちに移動することに。

 ここなら中の様子が見れるだろう。

 どれどれ……


「皆さんお集まりいただきありがとう! 近年モンスターが増えていることは周知の事実だと思う。未だに原因は分かっておらず調査も難航してるという話だ。だが安心してほしい。オレ達がその原因を突き止めるべく、各地を回っているところだ」


 中央に居るイケメンな男がそんなことを言い出した。

 その人は派手な鎧を付けており、マントをはためかせながら演説していた。


 左には身長が高くマッチョな男。右には杖を持ったスタイルのいい女性がいた。

 あの2人も勇者とやらのパーティメンバーなんだろうな。

 そして中央にいるのが……勇者……なのか?


「不安に思っている方もいるかもしれない。しかしオレ達は立ち止まるわけにはいかない。今この瞬間にも凶悪なモンスターに怯える人々がいるかもしれないからだ! そんな人たちから守るのがオレの使命だと思っている。だからこれからも冒険を続けてそんな脅威から皆を守ることを約束する――」


 そういってから腰に付けている剣を引き抜き、空に掲げる。


「この神器――〝エクスカリバー〟に誓って!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」」」


 ………………


 …………………何?


 神器だと……?

 そんな馬鹿な……


「へぇ。あれが神器なのね……」

「あれ? でもさっきの人の話だと封印したって言ってなかったっけ?」

「ならあの人が封印を解いたんじゃないの?」

「そ、そうなのかなぁ……?」

「勇者って言ってたし。勇者なら封印も解くことが出来たんじゃない?」

「う、う~ん……」


 ………………


 ありえない……


 あれが神器なはずがない……


 だって……だって……


 神器なら――


「ゼスト? どうしたの? さっきからダンマリだけど」

「…………」

「大丈夫ですか? 顔色悪いですけど……」


 観衆は勇者の持っている剣を見て何とも思わないんだろうか。

 あの剣は見た目だけなら強そうに思えなくもない。鞘の部分に宝石のような物が埋め込まれていて、他の剣と違って高級感がある。そこらにある店ではまず手に入らない代物だろう。

 しかしそれ以外は特に変わった様子もない。


 あの剣が神器だって……?

 んなアホな。


 あんなものを神器だと言い張るあいつは何なんだ。

 勇者なんて聞いたことがない。そんなのゲーム中にも登場しなかった。

 あいつらは一体――


「……ふん。くだらん」


 近くで聞いたことのあるおっさんの声が聞こえた。

 周囲を探してみると、工房のいたおっさん――レオルドの後ろ姿が見えた。

 レオルドは振り返ることなく離れて遠くに行ってしまった。


「ちょっと。さっきからどうしたのよ?」

「……ちょっとな。あの勇者とやらに興味が湧いた」

「そうなの? やぱりゼストから見ても憧れの存在だったり?」

「そんなんじゃない。ちょっと会いに行ってくる。お前らはここにいろ」

「ちょ、ちょっと!」


 2人から離れて勇者の所に行くことにした。

 どうやら今は握手会をやっているみたいだ。まるでアイドルだな。

 もっと近づきたいが、他の人が邪魔でなかなか辿り着けない。

 しばらく人が少なくなるまで待ち、勇者と対面できたのは何分か経ってからだった。


 ようやく勇者の目の前までくると、握手しながら話しかけてきた。


「やぁ。どうもありがとう。君たちの応援のお陰でオレらも頑張ることが出来るよ」

「ちょっと聞きたいんだけどいいですか」

「ん? 何だい? 何でも答えてあげるよ」

「さっきの剣が気になったんです。その剣でいつも戦ってるんです?」

「ああそうだ。この神器で数々の困難を乗り越えてきたんだ。オレにとっても大事な剣さ」


 ………………ふーん。


「それがどうかしたのかい?」

「んーとね。なんでそんな『偽物』を使っているのかなーと思っちゃってね」

「………………………………………………………………………………………………………………ああ。そうか。君はこの剣を見るのが初めてなんだね。だから何かと勘違いしたのかな?」


 ふむ。この反応……図星か。


「けどいきなり偽物扱いは酷いなぁ。さすがにオレだって傷つくよ?」

「…………そっすか。じゃあ俺の勘違いみたいです」

「うん。初めて見て興奮するのも分かるけど、いきなりそういうこと言うのは感心しないよ? これからは注意してね?」

「……へーい」

「じゃあまたね」


 それから勇者から離れてラピス達の元へと戻った。


「あ、おかえり。どうだった?」

「…………一旦宿に帰ろうか」

「え? ど、どうしたの?」

「少し考えたいことがあるんだ。早く行くぞ」

「は、はい」


 俺らはその場から離れ、宿に向かうことにした。




 宿に入り、部屋のベッドに寝転がった。

 ちなみに姉妹も同じ部屋に居る。


「ちょっとどうしたのよ。さっきから変よ?」

「何かあったんですか?」

「勇者の持ってた剣あるだろ? あれを見てどう思った?」

「んー……強そうな剣としか」

「私は武器に詳しくないのでお姉ちゃんと同じ感想です」


 この2人も含め、場にいた人は誰も疑問に思わなかったわけか。


「それがどうかしたの?」

「勇者は神器とか言ってたけど、アレは偽物だからな」

「「に、偽物……?」」


 そう。勇者が持っていた剣は神器ではない。

 あの剣自体は高性能だろうけど、神器には遠く及ばない代物だ。


「本当に偽物なの? あたしにはよく分かんないわ……」

「見た目が全然違うんだよ。あんなの神器なんかじゃない」

「そうなの?」

「そもそもの話、

「なんでそんなことが分かるのよ? 勘違いじゃないの?」

「だって俺持ってるもん。剣の神器」

「「え゛……?」」


 レアリティが最高クラスなだけあって手に入れるのは非常に苦労した。

 俺の持っている装備の中で一番自慢できる武器だ。


「ま、まっさかぁ。冗談でしょ? いくらゼストが強くても持ってるわけないじゃない。簡単に手に入るわけないじゃない」

「いや本当にあるんだってば」

「も、もぅ! 失礼だよ! ごめんなさい。お姉ちゃんが変な事言っちゃって……」

「フィーネだってそう思ってるでしょ? さすがに騙されないわよ」

「お姉ちゃんったら……」


 全然信じてくれないや。

 別にいいけどさ。


「仮に偽物だとして、どうして勇者がそんな物を使っているのよ? わざわざ偽物を使う理由なんてある?」

「こっちが聞きたい。俺だって分からないんだよ」

「ま、まさか勇者って人は実力も偽っているとか……?」

「いや。たぶんそれはない。実力は本物だと思う。Sランクパーティというのも嘘じゃないだろうな」

「じゃあやっぱり本物じゃない」


 実力はあるのに神器だと偽る。一番の謎がここなんだよな。

 もしかたら偽物だと気づかずに使っている可能性も考えたが、あの反応を見る限りそれは無さそうだ。

 う~ん……やっぱり分からん。情報が少なすぎる。


 それよりあの場にいたレオルドのことが気になる。

 まるで興味無さそうに立ち去って行ったからな。神器作りに人生を賭けてるような人がそんな行動するとは思えない。

 ひょっとしてあの人は……


「なぁ2人とも。今日行ったあの工房にもう一回訪れてみようと思うんだがどうだ?」

「ま、また? 何度行っても同じ結果だと思うわよ? あの人頑固そうだし」

「俺に考えがある。もしかしたら何とかなるかもしれん」

「そういうことなら……まぁいいけど」


 それから少し休んだ後、再びあの工房へと向かうことになった。

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