第27話:頑固な鍛冶師

 教えてもらった道を進んでいくと、街の端のほうに工房が建てられていた。

 あそこが例の鍛冶屋だろう。


「ちょっと遠かったわね……」

「仕方ない。工房なんてそんなもんだろ。とりあえず中に入るぞ」


 3人で目的の工房へと入っていった。中に入ると、50代ぐらいのおっさんが作業をしていた。

 あの人が鍛冶師かもしれない。


「すいませーん。ちょっといいですか」

「……ん? なんだ貴様らは」


 頭にタオルを巻いたおっさんが手を止めて顔を向く。

 いかにも職人って感じの人だ。


「ここで武器を作ってくれるというのは本当ですか」

「………………」

「…………?」

「……ふん。またか」

「また?」


 おっさんは再び手を動かして作業を始めてしまった。


「あのー…………」

「武器なら店で買えばいいだろう。いちいちわしが作る必要はない」

「それじゃあ困るんですよ。武器屋にあるのはどれもイマイチな物ばかりだったし。だからこの子らに合った武器を作ってほしくて」


 手を止めて姉妹を睨むおっさん。

 2人ともいきなり睨まれたことにビビったのか、フィーネはラピスの服を掴んでいる。


「そこの若造の武器を作れってか? 貴様らランクはいくつだ?」

「ま、まだEよ」

「私も同じです……」

「ふんっ。まだまだヒヨッコじゃないか。その程度の実力で儂を頼ろうなど10年早いわ。そこらにある安物でも使っていろ」


 うーん。なるほど本当に頑固そうな人だな。

 これは説得に骨が折れるかも。


「それじゃあ困るんですよ。この子らに適した武器を使わないと」

「……ほう? なぜそう思う?」

「粗悪品ばかり使ってると大して強くなれないじゃないですか」

「だったら金貯めて性能のいい武器を買えばいいではないか。なぜわざわざ儂を頼る?」

「だって最初から高性能な武器を使ってたら成長しない・・・・・じゃないですか」

「…………」


 おっさんは作業を止めて俺を睨んできた。

 何か言うわけでもなく、ひらすら睨み続けていた。


「……お主名前は?」

「ゼストです」

「ふむ……」


 腕を組んで何かを考えているみたいだ。

 その間も何度か俺らを見比べているように眺めていた。


「そういえば名前聞いてなかったですね」

「儂はレオルドだ」

「レオルドさん。この子達に武器を作ってくれませんかね?」

「……やっぱり駄目だ」

「え、な、何でですか?」

「儂は〝神器〟を作るのに忙しいんだ。貴様らに構っている暇はない」

「……!」


 ……なんだと?


「ジンギ? 何それ? フィーネは知ってる?」

「ううん。知らない……」

「ふん。神器も知らぬヒヨッコ共め。その程度の実力でよく儂を頼ろうとしたもんだ」


 まさかこんな所で神器の話が出てくるとはな……

 この人は一体何者なんだ?


「だ、だって知らないんだもん! 仕方ないじゃない! そんなこと言うなら教えてくれたっていいじゃない!」

「有名な話だぞ。親から聞いたことはないのか?」

「私達は孤児院出身なんです。だからそういう話には疎くて……」

「…………」


 レオルドはやれやれと言った感じで頭を掻きつつため息をついた。

 そして俺達の方に体を向けてきた。


「なら教えてやる。冒険者ならこの程度の知識はないと恥をかくぞ?」

「そ、そうなの?」

「お前たちより幼い子供でも知ってる有名な話だぞ? 冒険者としてやっていくならこのくらい知っておけ」

「へ、へぇー……」

「いいか? 少し長くなるがしっかり聞いとけよ? まずは――」


 それからレオルドは語り始めた。


 今から千年以上昔の話。

 当時の人たちは今よりもずっと高度な文明を築いて暮らしていたという。だがそんな日々も突然終わりを告げることになる。

 この大地にあらゆるものを破壊し尽く悪夢のような存在が現れた。

 目に入るものを片っ端から食らい、壊し、殺す。どんな生物だろうが勝てずに全てそいつの餌食となった。


 その残虐な性格から〝破壊神〟と名付けられた。


 破壊神の勢いは止まらず、次々と殺戮を繰り返していった。

 全人類が手を組んで破壊神に抗おうとした。だが現実は非情であった。

 あらゆる手を尽くしたが、破壊神は倒れることはなく敗北を重ねるだけであった。

 人類もどんどん数を減っていき追い詰められていた。もうこのまま滅びるんじゃないかと危惧されていた。

 もはや打つ手も無く諦めかけていた。

 そんな時だった。


 破壊神に対抗するべく作られたのが〝神器〟と呼ばれる武器だった。


 それから実力のあるものを集い、神器を渡して破壊神に挑ませた。

 そして神器を使い、見事に破壊神を倒すことに成功したのだ。

 破壊神を倒した者達は英雄と呼ばれるようになった。


 しかしまた破壊神みたいな存在が現れるんじゃないかと危惧していた。

 いつかまた現れた時の為にと思い、英雄は神器をどこかに封印したという。


 ザックリいうとこんな話だった。


「――という言い伝えだ」

「す、すごい話ね。大昔にそんな危ないやつがいたなんて……」

「こ、怖いです……」

「まぁあくまで言い伝えだ。本当に破壊神なぞ存在したのかすら怪しい」


 ………………


「な、なら神器ってのもウソだったの?」

「さぁな。でも儂は信じている。今よりも高度な技術で作られたのは確かだろうからな。それを目指して試行錯誤している最中なんだよ」

「でもどこかに封印されたって話じゃないの?」

「だから似たような性能を作り出したいんだよ。もし本当に作ることが出来れば、鍛冶師としてはこれ以上ない名誉になるからな」

「なるほどぉ」


 神器を作りたい……か……


「だが最近の若者はどいつもこいつもこの話をすると笑いやがる」

「どうして? 立派なことじゃない」

「神器なんて信じてないからだろうな。おとぎ話の存在しない物を作り上げようとしてるマヌケな鍛冶師だと思っているんだろう」


 ビー〇サーベル作ろうしているようなもんだろうか。

 そら確かに馬鹿にされるのも分からんでもないが……


「そういうわけだから忙しいんだ。さぁ出てってもらおうか」

「え。作ってくれないの?」

「せめてBランクになってから出直してこい。ヒヨッコの分際で儂に頼るなぞ甘いわ!」

「え、で、でも……話だけでも……」

「出てった出てった!」


 結局、それ以上話を聞いてもらえず工房から追い出されてしまった。


「ダメだったわね……」

「やっぱりいきなり押しかけても無理だと思いますよ」

「…………」


 工房から追い出された後、宿に向かって歩きながら考え事をしていた。


「ゼスト? どうしたの?」

「いやちょっとな……」


 まさかこんな序盤に神器の話が出るとは思わなかったからな。

 神器ってのはゲーム中でも最高クラスのレアだ。全プレイヤーが追い求める究極武器。それが神器なのだ。

 それを自らの手で作り上げようとする人が存在するとはな。あの人は只者じゃないな。


「ねぇこれからどうするの? やっぱり安物でよくない?」

「う~ん……」

「今はそこまで武器にこだわる必要ないと思いますよ。レベルを上げた方がよくないですか?」

「ん~……」


 本当はまともな武器を使わせてあげたいんだけどなぁ……


「……しゃーない。比較的なマシな武器を探してみるよ。俺が選んでやるからそれを買うといい」

「初めからそうすればよかったんじゃ……」

「あくまで妥協案だ。こっちにも色々あるんだよ」

「?」


 ということで再び武器屋へと向かうことになった。

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