第25話:オークとの戦い

 離れた場所には1匹の人型モンスターがこっちを見ていた。

 そいつはでかい棍棒を持ってる上に、2メートルはありそうな大きさだ。


「な、なにあいつ!?」

「さっそくお出ましか。あいつはオークだよ」

「オーク……」


 この森ではオークが多く生息しているためか『オークの森』なんて呼ばれている。

 俺達はまだ森に入っていないが、森の入り口近くで騒いでたせいで呼び寄せてしまったようだ。


「丁度いい。今回のターゲットはあいつだ」

「オークを狩る為にここに来たんですか?」

「そうだ。お前らがベビーボアの生息する森に行きたくないって言うからこっちに来たんだぞ」

「う……」

「安心しろ。強さ的にはベビーボアよりちょっと強い程度だ。お前らでも十分勝てるはずだ」

「ほ、本当に大丈夫かしら……」


 どの道いつかはここに来る予定だったしな。それが少し早まったぐらいだ。

 オークはそれなり知能があるし、丁度いい経験になるはずだ。


「んじゃ頑張れ。俺は離れた所で見張ってるから協力して倒してこい」

「うー……や、やるしかないわ。いくわよフィーネ!」

「う、うん! がんばろうね!」


 2人は武器を構えて戦闘態勢に入った。

 オークは俺達に向かって走ってくるが、ラピスが矢を放って牽制する。矢はオークに当たらなかったが、ヘイトはラピスに向いたようだ。


「来るわよ! あたしが引きつけるからフィーネは援護お願い!」

「分かった!」

「ガアアァァァ!」


 オークはラピスに向かって一直線に走っていった。

 ラピスはすぐに弓を構え、オークに向けて矢を放った。矢はわずかに狙いがズレたが、オークの腕に命中した。


「よし! 当たったわ!」


 だがオークは一瞬怯んだだけで、すぐに走り出した。


「ッ! こっちよ!」


 ラピスはオークから逃げるように走り出した。オークも逃がすまいとその後を追う。


「もう一回……!」


 走りながら振り向き矢を放つが……外してしまう。

 さすがにあんな体勢からだとまともに狙えないだろう。


「いくよ! 《ファイヤーアロー》!!」


 フィーネがチャージした3本の火の矢を放つ。

 だが3本とも当たらずに近くの地面に落下してしまった。

 しかしオークはいきなり襲ってきた火の矢にビックリしたようで、足を止めて周囲を見渡した。


「よくやったわ! 食らいなさい!」


 そのチャンスを逃さずに、ラピスはじっくり狙って矢を放った。矢は見事にオークの腹部に刺さった。

 さすがに的が動いていなければ外すことはないようだ。


「グ……グガァァァァァァァ!」


 しかしオークは怯みはしたが、再びラピスに向かって走り出した。


「うそ……まだ動けるの!? しつこいわね!」


 その後も追いかけっこが続くが、致命的なダメージを与えられずにいた。

 ラピスは走りながら攻撃しているために命中率が酷いことになっている。フィーネも離れた場所から攻撃している上に、的が常に動いているからかファイヤーアローを当てられずにいた。

 もう少し落ち着いて攻撃すればいいのに。


「もう! しぶといわね! いい加減に……あ、あれ!?」


 ラピスは背中の矢を取ろうとして手が空を掴む。

 どうやら矢を全て使い果たしてしまったようだ。


「う、うそ……もう無いの!? どうしたら……きゃっ」


 よそ見しながら走っていたせいか転んでしまう。

 その衝撃で弓を手放してしまったようだ。


「いたた……」

「お姉ちゃん! 逃げて!」

「え?」


 ラピスが地面に倒れている間にオークはすぐ近くまで接近していた。


「あ……ちょ、ちょっと待って……弓を落としちゃって……あ、あれ? あたしの弓はどこにいったの!?」


 弓は近くの地面に落ちているが、ラピスはパニックになっているらしくなかなか見つけられずにいた。

 敵がそのチャンスを逃すはずがない。オークがラピスの目の前まで接近するには十分すぎる時間だった。


「あ……あ……いや……助けて……」

「お姉ちゃーん!!」


 オークはニヤリと笑い棍棒を振り上げる。


 ラピスは硬直してしまって逃げられずにいた。


 そしてラピスに向かって棍棒が振り下ろされ――



「――グガァ!?」


 オークが突然後ろにのけ反り、棍棒はラピスに当たることは無かった。


「……え? な、何が起こったの……?」

「あ、あれ?」


 2人とも何が起きたのか分からずキョトンとしていた。


「全く。ラピスは無駄撃ちしすぎだっての。だからすぐに矢が切れるんだよ。もう少し落ち着いて攻撃しろよ」

「え? え?」


 2人の頭に『?』マークがついていそうな顔をしている。そんな時だった。

 オークの近くでエイ型のモンスターがいきなり姿を現し始めたのだ。


「……あ! ゼストが召喚したモンスター!」

「そ、そういうことだったんですね」


 そう。実はずっとステルス化したマンタがオークの周辺を飛び回っていたんだよな。

 さっき召喚してそのまんまだったからな。丁度よかったから利用したまでだ。

 つまりさっきオークがいきなりのけ反った原因は、マンタが体当たりしたからだ。ずっとステルス状態だったから俺以外は何が起きたのすら分からなかっただろう。


「ググ……グガァ」


 オークも自分の身に何が起きたのかすら理解していない様子。

 よく分からないが近くにいるマンタが原因だと思ったのか、今度はマンタを追いかけ始めた。

 マンタはヒラヒラと空中を泳いで俺に向かって移動していった。オークもその後を追う。


「言いたいことは色々あるけど、初めてにしてはよくやったほうかな」


 オークが徐々に距離を詰めていく。

 マンタはそのまま逃げ続け俺の頭上を通過したが、オークはそれでも追うのを止めない。俺ごと攻撃する気なんだろう。


「ガァァァァァァ!」


 棍棒が俺に向かって襲い掛かる。

 それをかわして懐に入り――


「せーの。《断空烈拳しょーりゅーけーん》!!」

「グハァ!」


 スキルがクリーンヒット。オークのアゴを砕いた。

 それがトドメになったらしく、オークは地面に倒れたまま動くことは無かった。


「ま、こんなもんか」

「さ、さすがね……」

「やっぱり強いですね……」


 それからフィーネはラピスに近寄って起き上がるのを手伝う。ラピスは脚に擦り傷がついていたが、特に問題はないようだった。

 弓も拾って落ち着いた後、2人は俺に近づいてきた。


「あ、ありがとね。また助けられちゃた」

「本当にありがとうございます。ゼストさんが居なかったらお姉ちゃんは今頃……」

「いいって。これも経験だ。失敗は今後に生かせばいいさ」


 こういうのはひたすら積み重ねが大事だからな。

 俺も昔はあんな感じだった気がする。慣れないうちはどうしてもパニックになりがちだ。


「とりあえずしばらくはオークを中心に狩るぞ。今のお前らには丁度いい相手だろうし」

「え……あんなのをまだ相手にするの? 1匹相手しただけでヘトヘトなんだけど……」

「何を言う。あれぐらいをサクッっと倒せなきゃこの先やっていけないぞ?」

「そうかもしれないけど……」


 まぁ今は前衛が居ないし。どうしても後衛タイプに2人には厳しいかもな。


「どれぐらい倒せばいいの? さすがに何匹も相手に出来ないわよ?」

「そうだな……とりあえずオーク1000体狩ってみようか」

「「せ、1000体ぃぃぃ!?」」


 おお。さすが姉妹。息がピッタリだ。


「じょ、冗談よね?」

「む、無理ですよぉ……」

「安心しろ。別に1日でやれって言ってるわけじゃない。累計で1000体は狩れってことだ」

「あんなのを1000体……」

「あわわ……」


 懐かしいなぁ。昔は俺もオークを狩りまくったっけか。


「まぁ1日で達成したいというのなら止はしないが」

「無理に決まってるでしょ! そんなの出来るわけないわ!」

「いくらなんでも無茶ぶりですよ!」

「ああそっか。さすがに1日では無理か。探すのに時間が掛かるからな」

「そっちの問題!?」


 もっとレベルを上げて装備を整えば不可能ではない。探すのに手間が掛かるが。


「1日に1匹じゃダメ……?」

「お前はオーク狩りに1000日かけるつもりなのか?」

「ですよね……」

「んじゃまだ行けるみたいだし。次の獲物探すぞ」


 オークが出てきたということは周辺にも仲間が居るはずだ。

 準備を整えてから森へと入ることにした。


「あたし……もしかしてとんでもない人に頼み込んじゃったかも……」

「お、お姉ちゃーん……どうしよう……」


 後ろからそんな声が聞こえたが、構わず前に進むことにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る